【ギルド仲間とシンさんと】
ゲートをくぐるとギルドハウスの大広間だった。中世ヨーロッパにあるような大きなダイニングテーブルがおかれていて…
椅子も凄い豪華だ…ていうか…どれだけ広いんだろう???学校の敷地…いやそれ以上ありそうなのに…これが大広間?
「だー…疲れた。」とシュガーさんが広間の一番近くにあった豪華な椅子に腰かけた。
「空腹バフが重なって、だいぶ集中力が乱されたな今回。」とガウルさんも近くの椅子に座った。
シュガーさんがポチポチとスマホをいじる。
「あー、サイファーと猫マジがログアウト中だ。こりゃ数年戻ってこねーな。ゴーラとダダは遠征か。」
どうやら同じギル員の話をしているようだった。
「いきなり呼び出されてパジャマクエって…何かあるんだろ?シン。」とガウルさんが気だるそうにきく。
「この新人の子。GMに近いみたいだよ。もしくは見られてる。」
「うっそモニターか!?」ガウルさんは立ち上がった。
「いえ、僕自身さっぱりで…最後はエルフの森があったあたりでペナルティログアウトになったんですけど…復帰したらこの国にいて…それで運営からプレゼントが届いてて…ルナさんがやってきて…って感じで…。」
ガウルさんは椅子に座りなおした。
「ちょっと…見せて。そのアイテム。」
と言われて花びらを取り出してガウルさんに見せてみた。
「……この香…。どこかで…。」
「んな事より腹減ったぁぁ…。」とシュガーさんが言った。
「ふぁー…あ。みんなおはよう。」とルナさんが欠伸をしながら大広間にはいってきた。隣にはシンカさんがいた。
「今パジャマクエ終わったとこだ。」とシュガーさんが立ち上がってルナさんを席までエスコートする。
「ありがとぉ。もっといっぱいいたら千翠に行かせたんだけどねぇ。こないだ行かせたばっかだったし…ごめんね。シンカ、料理だしてあげて?」
「はい。」とシンカさんは大広間から出ていってしまった。
「あー…。この前のパジャマクエは千翠一人でやらせたんだったな。」とシュガーさんが席に戻る。
「見る?過去映像。」とルナさんがニコっと微笑んでスマホをポチポチするとテーブルの上に大きなホログラム画面が現れて千翠さんがクエストを開始する様子がうつっていた。
「長いから早送りするわね。」とルナさんは高速再生をする。
「凄いよなぁ…千翠さん。魔王じゃん。」とガウルさんが言った。
千翠さんはずっと神楽のような舞いを踊っていて…衣装は恐らく聖属性の何かしらの効果がありそうな布装備。
両手には神社で使うような鈴を持っていて…ひたすら踊っていて…引き連れてるギルド員は15人ほど…。
沸いたゾンビがすぐにボロボロと砂になっていく…最後のボスの時に高速再生から普通の再生に変わって…大きな巨人をも神楽で崩壊させていって終えていた。
「……え、もしかして24時間踊り続けたんですか?」
「そうよ。多分こんな馬鹿みたいな技使えるの千翠くらいだわ。」とルナさんが映像をとじた。
24時間も踊り続けるなんて…どんな精神力してるんだろう…最後少しデバフがうつってたけど…空腹も疲労も凄いたまってた…。
「あ…そういえば…高難易度及び最上級クエストについての訂正なのですが…通常の高難易度クエストは24時間以上という設定で…イベントクエストや一定期間にしか現れない最上級クエストは12時間以上という設定になってるんです。先ほどは忙しくてちゃんと説明できなかったので…。」
とユエさんが丁寧にクエストの時間を教えてくれた。
「ありがとうございます。ユエさん。」
「やーーめーーてーーー!!ユエーー!!ユエやめてーー!!」とルナさんが頭を抱えて、眉間に皺を寄せて…ものすごい顔をしていた。
「あ…ユエ!シンカを手伝ってきて!早く!」とシンさんがユエさんに指示をだした。
「はっはい!失礼しました!」ユエさんは慌てて大広間から姿を消した。
「え…どうしたんですか?」
「はぁ…(ため息)…ほら、ユエってまんま昔のルナって説明したよね。黒歴史ってやつ。」
「あぁ…。」
「ルナぁ…ユエが可哀想じゃねーか。」とシュガーさんが言った。
「はぁ…はぁ…ほんっと黒歴史だわ。あの時代はまだ弱くって…仕方ないじゃない!」
「りきがびっくりしてるだろ。」とガウルさんが言った。
「ごめんね?ルナ気性が荒いから。」とシンさんが言った。
「な…何よ…何よ…どーせメンヘラクソババアですよーだっ!」とルナさんは完全に拗ねてしまった。
「食事の用意ができました。……って…自分がいない間に何ルナを拗ねさせてるんですか?…シン、配るの手伝ってください。」とシンカさんが言うとシンさんが無言で手伝いにいき…テーブルに豪華な食事が並んだ。
シュガーさんとガウルさんは速攻ガツガツと食べ始めた。
「あなたも遠慮なく食べて?シンカの料理はとっても美味しいから。」とルナさんに言われて、いただきますと言ってから食べた。
ほんとに美味しい…こんなだと…ずっとゲームの世界にいたくなっちゃいそう。
僕がやってた時はこんな機能なかったし…もっと簡単なバトルだけで…こんなに覚えないといけないものが多かったりとかなかったのにな…
「それよりルナ、もしかしてヴァルプルギスの戦場にスタメンとしてりきを連れて行きたいのか?」とシュガーさんが食べながら聞いた。
「ええ。現実世界の4月30日と5月1日に開始する…ギルドでやるモンスター討伐イベント。」
「き…聞きたくない!!まだ現実世界では半年以上は時間がある!!!」とガウルさんが頭をかかえた。
「え?…そんなに大変なイベントなんですか。」
シンさんは何かをもぐもぐと食べていて、それをゴクリと飲んでから「僕らAIですら躊躇したくなるイベントだよ。」と言った。
みんなの空腹バフが消えていく…。
「ガウルさんは次で4回目のスタメン参加になるんですかね?ご苦労様です…。」とシンカさんがガウルさんの肩をポンっと叩く。
「ヴァルプルギスはねぇ、現実世界24時間まるまるのイベントでゲーム内では…数年?もしかしたら24時間かもしれないけど…時間圧縮は変動があってわからないのよ。でも毎日17時間は狩り続けてもらう事になるわ。」
17時間!?それを数年!?
「それから…その日は日本人は全員現実世界の千翠の家もしくは千翠の家の病院で安全にプレイしてもらうわ。」
「え…泊まり…ですか?日本人全員…。しかも千翠さんの病院って…ほんと何者なんですか…?」
「さぁ?秘密。海外の人は海外用の拠点があるの。」とルナさんは長い髪を耳にかけた。
「あぁ。りきさんは特別加入だったんで全然そこらへんのルール知りませんよね。
うち、ミルフィオレでは長期ギルドイベント発生時は各拠点で泊まる事が決まっていて、それができない人は加入させてないんですよ。」
「うちはめちゃくちゃ長いよなぁ、加入までの説明が。よその倍はありそうだな。」とシュガーさんが頬杖をついて喋った。
「はい、これルール書いた紙。暇があったら読んどいて。」とシンさんに1枚の紙を渡された。
結構色々あるな…。
「大手ギルドはどこもこんなもんよ。どうせバックには絶対金持ちがついてるんですから。」とルナさんは食事をとりはじめた。
「で?りきさんは泊まりは大丈夫ですか?」とシンカさんが僕の後ろにまわって訪ねてきた。
「交通費に自信がないです…。」
「それなら心配ありません。千翠さんが出してくれます。ゲームのお金は現実世界でも使えますから。」
「あ…なるほど。そうでしたね。」
千翠さんって本当に何者なんだろ…。
「そういえば千翠は?」とルナさんがシンカさんに聞いた。
「千翠さんは【異形の町】へ行くってルナが寝てからすぐに出ていきました。」
「異形の町は町ってついてるけど大きな国でさ、いらなくなって捨てられたAIやご主人様が帰ってこなくて行き場のないAIが行きつく国なんだ。」
とシンさんが憂いを帯びた顔をして話す。
まぁ…AIにとって…いつかは行きつく場所…なのかな。AIに歳はないけど僕らは歳をとっちゃうし。
「AIって捨てる事もできるんですね…。」
「最初の町のムーンバミューダ社に行って色々書類をかいてやっと捨てる事ができるのよ。」
「捨てられたAIは名前がなくなるんだ…。」とシンさんが言った。
「シー…ン、そんな顔しないで。私は絶対に捨てないし…それに人間よりもアナタを愛してるんだから。ね?」と、いつの間にかルナさんは立ち上がってシンさんを後ろから抱きしめていた。
「おい、シン。そうやってルナに甘えようとするなよ?」とシンカさんがどす黒いオーラをだしてシンさんを睨む。
「いっ∑…別にそんなつもりは。」とシンさんが顔をそらす。
そこへ千翠さんがゲートで帰ってきた。
「…ずいぶんと人がいるな。」千翠さんの隣には…AI澪がいて…主マークで千翠さんのAIな事がわかった。
「おかえりなさい、どこにいってたの?」とルナさんが千翠さんに聞いた。
「ダリアに会ってきた。ヴァルプルギスまでには帰るそうだ。」と千翠さんは椅子に座った。
「ダリアはね、欲しいAIがいて…でもそれは捨てられたAIでね。ずっと異形の町でその子を勧誘してるのよ。」とルナさんが説明してくれた。
「捨てられたAIを自分の物にすることもできるんですね。」
「でもそれは…大変だ。AIの心は人間と一緒と考えていい。だから…心の傷を修復するようなもんだし…大変だ。あと手続きもあるし。」とガウルさんが言った。
「まぁなぁ。持病とかでどうしても手放さないといけない奴とかもいるからなぁ。じゃ、俺は先に部屋に戻るぜ。」シュガーさんはそう言って席をたった。
「…俺も…疲れた。ほんとに。ログアウトするかも。」ガウルさんも席を立ってシュガーさんと一緒に大広間を出て行った。
「……千翠さん、嫌われてます?」とシンカさんがボソっと言った。
「なっ∑……コホンッ…クエストの後で精神疲労したのでしょう。」と千翠さんは顔を引きつらせながら笑む。
「AIってヴァルプルギスには絶対必要だから早くアナタにもとってほしいのよ。」とルナさんが言う。
「ヴァルプルギスでは一人が約17時間ダメージを出し続けなければいけない。休憩中はAIが変わりにダメージを削る事になる。」千翠さんはAI澪にお茶を煎れてもらっていた。
「うちでAIもってないのアナタだけだから、早く頑張ってね。」ルナさんはニコっと微笑んだ。
「あ、はい。装備とか揃えてもらったんで…なるべく早く手に入れるように頑張ります。」
それから少し体験した事とか雑談してギルドハウス内の自分の部屋に戻った。
すぐにコンコンとドアをノックされる音が聞こえて、ドアを開けるとシンさんが立っていて…「明日起きたら次の町いくから。」と言われた。
「はい、よろしくお願いします。…あの今日はクエストありがとうございました。」
「寝心地最高だから、早く着替えて寝るといいよ。」と言いながら去っていった。
…そうだ。
天使のシルクパジャマを装備してみると…肌触り最高で…布団と良くあう着心地だった。
でも…ただのシルクでできた無地のパジャマ…だなコレ。
今日もたくさん覚える事があった。AIのシステム。ヴァルプルギスの戦場。ギルドルール。異形の町…。
布団にもぐりこむと…不思議とふわふわとした感覚になった。
なにこれ…ふわふわしすぎだし…パジャマの効果かな?
意識がすぐに途絶えて…ぐっすり眠れた。
朝になって目を覚ました。窓にカーテンがないせいで日差しで起きてしまう。
コンコンとノックされて、急いでドアをあけるとシンさんが朝食ののったオボンを持って立っていた。
「あ…おはようございます。どうして起きたってわかったんですか?」
「おはよ。ギルド一覧に睡眠中マークついてたのが外れたから。これ君の朝食だから冷めないうちに食べなよ。」
と部屋に入って机の上にオボンをおいてくれた。
「ありがとうございます。」さっそく椅子に座って朝食を食べる事にした。
サラダとロールパンに目玉焼きとベーコン…凄いオーソドックスな朝食。
コップに牛乳が入っていた。…まるで給食だ。
シンさんは向かい側の席に座った。
「今って現実世界では何月なの。」
「5月ですね。もうすぐ6月になりますけど…」
「ふーん。てことは6月中に後100人は増えるかな。うちも。」シンさんは窓の外に視線をおくる。
「ギル員が増えるって事ですか?」
「そ。ヴァルプルギスの準備があるから毎年ヴァルプルギス終了後の5月と6月は勧誘時期なんだってさ。」
「あの…なんで僕にそこまで詳しく教えてくれるんですか?それに…ギル長のAIにつきっきりで説明してもらえてるし…」
「ん?あぁ。君のGMアイテムにはそういう力があるってだけだよ。」
「あ…忘れてました。そういえば…持ってましたね。」
「ルナがわからない事は全部教えろって言ってたし…最重要機密以外は喋ってもいいみたいだし。」
「なるほど…。なんで僕に届いたんでしょう?」
「……さぁ?まぁ、ルナの予定ではヴァルプルギスまでに千翠さんとまではいかないかもしれないけど、ガウル君クラスには強くなってもらうから。」
とシンさんがニコっと笑う。
ガウルさんって…あの人勝利数結構あったような…歴戦の猛者感半端なかったのに!!
「あと、次の新人たちのパジャマクエにでてもらう予定だからね。それまでにAIゲットしてAIにもパジャマとらせようね。」とシンさんが笑顔で言う。
「え…やっぱりAIにもパジャマいるんですね?」
「人間飼うのと変わんないからね?このシステム。寿命だってあるし。」
「ぐふっ∑ケホッケホッ!!」驚いてむせてしまった。
「きたない。」シンさんにジト目を向けられてしまった。
「すみません。あの…寿命があるって知らなくて…AIは無限だと思ってました。」
「見た目だけはそうかもしれないけどね。公式ホームページの小さい文字で注意書きがかかれてるんだけどさ。AIには寿命があります。死はいつ訪れるかはわかりません。ってあるんだけど、実際にうちで寿命がきたAIがいて…僕も悲しかったよ。」
「寿命がきたらその場でパっと消えるんですか?」
「ううん、苦しそうだった。こんな痛み初めてだって。その後眠るように目が閉じて眠ったんだ。そしたら墓石ってアイテムになって…どこにでも置けるようになる。」
「そう…なんですね。」
朝食を食べ終えて、シンさんが食器を片付けにいってる間装備を整えた。
やっぱり部屋が埃っぽい…もうちょっと落ち着いたらハウジングとかしようかな。
「ん?何?」と背後から声がして…いつの間にかシンさんが戻ってきていて驚いた。
「あ、いえ。ハウジングもしていかないとなぁって。」
「あぁ、そうだね。ほんと埃っぽくて辛いよね。僕の部屋みる?」
「え…部屋あるんですか?」
「君、さっきから失礼だねぇ。この世界では…いや、うちのギルドではAIを人間として見ないとルナに追い出されちゃうよ。」
それから「ついてきて」と言われて長い廊下をあるいて…やっとシンさんの部屋についた。
ドアを開けてくれて入ってみると…とてもシックで落ち着いた空間が広がっていた。
「凄い…ですね。空気が綺麗…というか。ファンタジー世界に似合わないくらい現実世界に近い部屋ですね。」
「クスッ。僕は現実世界への憧れが強くてさ。現実世界の本とか過去の新聞、ニュースとか大好きで……コホンッ。ちょっと喋りすぎた。」
シンさんは…凄く現実世界に…ううん…人間になりたいのが痛いほど伝わってきた。
「シンさんは人間と全くかわらないです。ただ、現実世界に肉体がないだけですよ。」
「どうも…// と…とにかく…部屋の家具とかは町や国限定品のとかもあるし…もちろん初心者の村で企業がだしてるのもありだし…暇があったらやってみれば?」と照れた顔を隠しながらも色々教えてくれた。
しばらく雑談をした後…
「そういえば…MAPを埋める方針でいいの?」
「あー…いえ、武器の武器を揃えたいなぁって思ってます。刀…とか。」
「刀…か。丁度次の町にありそう…かな。」
「ほんとですか!?」
「うん。じゃあ、行こうか。」
シンさんがゲートをだしてくれた。