【練習試合】
【翌日早朝】
現実世界と変わらない朝を迎えて、現実世界と変わらない仕度をする。
服を着替えて、装備をつけて・・・それから朝食・・・。
ご飯を食べないと空腹を感じてしまって集中力が乱される。
ほんとにこのゲームは現実世界化しつつある。
僕が始めた時は空腹なんてなかったのに…。
朝食はどこかお店を探してとるしかないかな。
部屋を出ると見知らぬ幼稚園児っぽい背丈の水色の長い髪のAIが食事ののったオボンを持って立っていた。
「お食事でございます!」
「あ・・・ありがとう・・・君はだれ?」オボンを受け取った。
「澪でございます!で、では!」
AI澪は走ってどこかへ行ってしまった。
誰のAIだったんだろう?
部屋のボロっちい机にオボンを置いて朝食を食べる。
パンとバターとスープにサラダ…凄く美味しい…パンはサクっとしてるし…バターは濃厚だし…
ゲームなのにここまで味がするのは本当に凄いと思った。
昔は塩味のパンだけだったような…しかも食べても意味がない…。
……ホログラム画面がでてきて[体力+1魔力+3]と表示された。
食事…効果ってやつなのかな?
朝食をとった後、メールで指定場所の地図が送られてきて、すぐに指定された練習場へ向かった。
「きたか。」千翠さんはそういうと少し口角をあげた。
それにしてもこの練習場・・・ずいぶん広い。
昔やってた時、何度か練習場を使った事はあるけどここまで広い練習場ははじめてだ。
天井も見えないし、地面は綺麗に整えられた芝生のみ。
背後でブォンっと鈍い音が聞こえて、振り返るとAIシンカさんがいた。
「すみません、もうすぐ来ます。」シンカさんは軽く頭を下げた。
しばらくすると・・・ルナさんが現れた。
背中に薄い水色の大きな美しい蝶々の羽をつけていた。
「お待たせ、じゃあ正式な練習試合をはじめましょうか。やった事はある?」
「ないです。僕がやっていた時は実装されてなかった気がします。えっと・・・どうすれば・・・」
「そうよね。ここ2、3年で色んなアップデートがきてるから…。正式な練習試合もそのひとつ。
じゃれあいと違って体力がしっかり減って1になったら終わり。練習試合記録として残るから後で見返す事ができるわ。それから・・・何かを賭ける事もできる。」
「賭ける・・・ですか。」
「まぁ、今日は可愛い新人にビシっと私が強い事を証明して私を崇めてもらうための練習試合だから賭けものは無しよ!」
・・・・崇めてって・・・
ルナさんがスマホを操作すると僕の目の前に練習試合を申し込まれしたというホルグラム画面と10秒のカウントダウンがでてきた。
YES NO ボタンなんてものはない。申し込まれたら受けるしかない。
「さぁ!いくわよ!」
僕はタクトを握った。
「僕が指揮をとります、りきさんは魔力注入に集中してください!結構すぐ無くなりますよ。」
そう言ってエイボンは分厚い本を宙に浮かせた。
7人の小人達の頭の上に魔力ゲージが現れて、それから自分の魔力も表示された。
この魔力をうまくわりふっていかないと・・・自分も魔力切れをして終わってしまう・・・。
タクトを構える。
ルナさんが傘をくるくるとまわすと頭上から大量の氷柱が降ってきた。
「分解!」エイボンは太極珠で氷柱を溶かす。
「間に合わない!ハル!」
「了解♪」ぽかぽかと僕のまわりの温度がかわったと同時に雨が降り注がれた。
「溶かすだけだからね。」とハルはさわやかな笑みを浮かべた。
状態異常[水濡れ]という表示が現れた。
水濡れ状態なった時は電気に気をつけないといけないんだっけ。
次にルナさんは髪の毛を飛ばしてきた…本当にあの髪の毛は武器だったんだ…
「氷属性の魔法なようですね。ハル!」とエイボンが言うとハルはその髪の毛を溶かしてくれた。
「はぁ!?どうなってんのよ!太極珠で溶かしてるわけでは無さそうね?」
なんで太極珠じゃないってわかったんだろう?と思うと「太極珠で氷を分解した場合水にならず空気になるからです。」とエイボンからの答えが帰ってきた。
「あーあー。お得意の氷魔法が効きませんね。」観客のAIシンカは半笑いだった。
「ハク、いけますか?」エイボンはちらりとハクを見る。
「誰に言っている。そんなもの余裕だ。りき!しっかり俺の魔力みとけよ!」
ハクは凄い速さでルナさんを切りつけにいった。
ルナさんも何かくると感じ取ったのか自身を氷で覆うが、エイボンがそれを解除させた。
次にルナさんは目に見えない何かを素早く傘で防いだ。
「くっ!!なぜわかるっ!」ハクは顔をゆがめる。
「ちょっ、何よ!何か刃物を弾くような音がするじゃない!」
「自動防御が発動しているみたいですね。」エイボンはモノクルをかけなおす。
自動防御はその名前の通り、自動で防衛してくれるスキルのひとつで・・・さすが最強ランクの武器だ。
攻防一体の傘・・・あれを手に入れるのにいったいどれだけのお金もしくは苦労がいるんだろうか。
ルナさんはふわりと空を飛んだ。
「フゥ!ハクを浮かせて!」エイボンは絶えず指揮をとる。
ハクは何度も斬りつけにいくが何度も傘に阻まれる。
「魔法がダメなら直接殴り倒すわ!」
ルナさんは傘をたたんだ。すると傘の先端が槍のように鋭くなって・・・刺されたらかなりのダメージをおってしまいそうだ。
空から凄いスピードで僕を突こうとしてきた。
やばい・・・!!!そう思った次にはウォールが身を挺して僕をかばった。
「ウォール!!」
「大丈夫だ、受け止めただけのこと。それより、魔力の減りが早い。」
ウォールは傘を白刃取りして止めていた。
その横をハクが斬りつけようとしたが…傘が急に開いて自動防御されて距離をとられた。
強い…というより…かなり戦闘慣れしてる感じがする。
もうひと突き…ルナさんが空に浮いて傘を槍にして僕をめがけ突進してきて、それをウォールが受け止める。
「どういう仕組みなのかしら。まさか本当にその武器を使いこなしちゃうなんてね。」
「今なら無防備だ!ハク!ハナビ!最大をいけ!!」とエイボンが裂けんだ。
「まかせろ!」ハクはルナさんに斬りかかった。
ハナビはエイボンの本よりは薄い本を宙に浮かせ開いて魔法を放った。
「ぐっ!!!」
それが命中するとルナさんの体力が減った。
「やるじゃない…魔法に物理…しかも…傘は何かに抑えつけられてるようね。」
ハナビも攻撃に加わる事でルナさんの体力をじわじわと確実に減らしていく事に成功した。
【勝てる】と…そう確信したその時!!!!
突如目の前に・・・いや、突如ルナさんが大きな大きな・・・この練習場でないと建物が破壊されていたかもしれないレベルのドラゴンになった。
「は・・・・?」エイボンは目を大きく見開いて膝をついた。
AIの情報処理がおいついてない!?
「っ!!これは!!」
その大きなドラゴンの瞳は紫色で・・・ルナさんがドラゴンになったという事がわかった。
ドラゴンの大きな爪で僕はひっかかれて体力が3分の1になった。
こんなの・・・・こんな・・・・
トドメと言わんばかりに今度は火を吹いてきた。
熱くて熱くて・・・火傷なんてレベルの痛さじゃなかった。
もう痛みすら感じない・・・ひどい激痛を通り越した。
体力が1になって練習試合は終了したがルナさんは未だに暴れていた。
「シンカ、止めてこい。」千翠さんはため息まじりにAIに命令した。
「面倒くさいなぁ。」シンカさんもため息をつきながら宙を浮いてドラゴンのもとへいって、ドラゴンに触れた。
するとドラゴンは小さくなって、元通りのルナさんの姿にもどったけど倒れているようだった。
「痛いか?」と千翠さんは這いつくばってる僕の前にしゃがんで話しかけてきた。
「痛い…です。汗が…止まらない…気がします。」
「ゲームですよ。錯覚にすぎない。ゆっくり深く呼吸しなさい。悪い夢を見ているのと変わらない。」
そう言われてゆっくり深く呼吸をすれば痛みが…おさまった。
そもそも痛みは引いていたのかもしれない…心に傷をおった気がした。
シンカさんはルナさんをお姫様抱っこして此方に戻ってきた。
練習試合が終了して僕の体力と魔力は元通り満タンになった。
「お見苦しいものをお見せしてしまってすみません。ルナは体力が残り10%を切るとドラゴンになってしまうレア武器の所持者なので。」
「さすが最強クラスといわれてる春風のタクト。ルナを暴走状態まで追い込める奴は中々にいない。まぁ実際には課金回復薬を飲んでの試合になりますからルナがああなる事は滅多にありませんがね。」千翠さんは良い笑みを浮かべていた。
「ドラゴンは強いですけど、意識の喪失と暴走 どうにかなりませんかね。体力も魔力も膨れ上がって際限なく暴れるし。」
シンカはやれやれといった表情をする。
「それをどうやって解除させたんですか?」
「AIは現実世界の携帯とリンクしているのをご存知ですか?というか、今存じてください。
一瞬だけゲームとの接続を切って元に戻すんですよ。」
「え?AIが勝手にそんな事…可能…なんですか?」
「まぁ…色々あるんですよ。奥の手ってやつです。」
「・・・AIシステムが実装される前はどうしてたんですか?」
「私が現実世界で接続を切っていましたよ。しかし、私が此方に帰ってきた時には3日ほど時間が過ぎていて…不便でなりませんでしたね。」
千翠さんは少しどんよりとしていた。
「じゃあ、一緒に住んでるんですか?」
「いえ・・・今は。・・・その話はまた今度にしよう。とにかく、君の実力が良くわかりました。正式試合の相手も考えやすい。」
「ルナー、起きてください、ルナー。」
「ん・・・・。」
「姫、試合終わってますよ。」千翠さんはルナさんの頭をポンっと優しく叩く。
「・・・・あ、ごめんなさい。私・・・。」
そうか・・・それでこの広い練習場でないといけなかったのか。
「じゃあ自分はルナを休ませに部屋へ戻りますので。」
「あぁ、頼んだ。」
シンカさんはルナさんを連れてワープした。
「凄いですね。AIなのに勝手に主を連れてワープしたりとか。」
「AIを持つとわかる事ですが、色々とそういった設定ができます。さて、試合前にいくつかクエストをこなして基礎体力と魔力の底上げをした方が良いでしょうね。」
クエストか・・・。
「メニューを開けばオススメクエストやデイリークエストが見られる。」
デイリークエストって・・・確か・・・毎日繰り返しできるクエストの事だったっけ。
実際にメニューを開いて見るとそれが見つかった。
「クエスト中に試合ができるかもしれません。本来なら100万近くする防具一式をお渡ししてありますから…負けは…無いに等しいですがね?」
「はい・・頑張ります。」
千翠さんはふっと少し笑うと練習場を出ていった。
とりあえず…デイリークエストだけやってみようと思った瞬間お腹がぐるるるとなって・・・これは先に昼ごはんかな。
氷でできた大きなお城のギルドハウスを出てみると・・・踏んでも足跡がつかない雪の道が広がっていて・・・。
空には太陽が昇っていて雲がちらほらと並んでいた。
家や店は氷っぽい何かで覆われていた。
「おやおや?噂の新人君かぁ?」真後ろから男性の声がして驚いて「うわっ」と声がでてしまった。
「すまんすまん。驚かせちまったなぁ。同じギルドのシュガーだ。」
シュガーと名のった男性は・・・金髪短髪でガタイの良い・・・若干肌の黒いおじさんに見えた。
ボディービルダーとかしてそうだ・・・。
「は、はじめまして、りきです。えっと・・・日本人です。」
「ほう、日本人か気が合うな!俺も日本人だ!はははっ!」
「え…てっきりアバターがあまりにも普通だったんで外国人かと…」
日本人は突拍子もないアバターにする人が多い…対して外国人はなるべく自分とそっくりに作る事が多かった。
「シュガーって名前だけど、現実が佐藤だからシュガーってだけで姫さんには佐藤さんって呼ばれてらぁ。」
「そのシュガーだったんですね。えっと・・・マスターとは仲が良いんですか?」
「古くからの友人だ。立ち話はここまでにして一緒に昼飯いこうぜ。」とシュガーさんが肩を組んできた。
「あ、はい。僕まだこの国の事何もわからなくって。」
「そうか、良い店がある。安くてうまい。」
シュガーさんに連れられてきたお店の入ると中はボロボロな感じの店で、なんとカウンター席には
AIシンさんが座って食事をとっていた。
「は?佐藤さんと・・・りきさん?」
「よぉ!シン!ちゃんと食ってるか?」
「・・・・見ればわかりますよね。」とシンさんは少し不機嫌そうな顔をして此方を見ずに食事を続けていた。
「AIも・・・食事って必要なんですか?」
「この世界ではなぁ。バトル可能なAIは俺たちユーザーと何らかわらねぇ。なんならスマホだってある。飯食わねぇと空腹のデバフだってつく。…さて、あっちの席にしようや、りき。シン、邪魔して悪いな。」
「別に。」
奥のテーブル席に座った。
美しい女性店員さんに注文を聞かれて、シュガーさんが僕のぶんも適当に注文してくれた。
「さっきの試合見てたぜ。すげぇな。春風のタクト使いこなしてんだろ?」
「えっと…はい。使いこなしてるっていうより…力を貸してもらってるというか。」
「遠すぎてログは拾えなかったが、遠距離中距離近距離はいけるって感じか?」
「えっと…ログってなんですか?」
「あー…復帰って初心者より何もしらねぇんだなぁ。スマホに[動作履歴]ってボタンがあるから押してみ?」
言われた通り押してみると…いろんな動作の履歴がホログラム画面に表示された。
料理スキル仕様薬草スキル仕様…これは料理を作ってる店員さんの動作ログかな?
「こんなのがあったんですね。」
「まぁ、今の初心者はチュートリアル学校に入学して最短ゲーム内時間1年は通う事になっててな。だいたいの事は理解できる仕組みになってる。」
「僕の時は…そういうのなかったですね。」
「だろうな…。学校は単位制で修学旅行ってのもあって…全MAPを見て歩ける。チュートリアル中はMAPはどうなってる?」
「穴ぼこ…です。」
「ま。俺も手伝ってやるから頑張ろうや。俺も昔からのプレイヤーだからなぁ。穴ぼこ埋めんの苦労したぜ。」
「ありがとうございます。復帰も学校通えれば良いのに…。」
「だよなぁ。昨日の夜は俺らのグループはお前の話で持ち切りだったんだぜ?」
「え・・・?」
「右も左もわかんねー復帰者の新人が入ったってな!ルナから指令がくだってんだ。お前がAIゲットするまでサポートしてやれってな。AIなんて現実世界で寝る前にゲットできるぜ?」
「寝る前に!?ほ…本当ですか!?」
「俺らミルフィオレをなめんなよ?時間も余ると思うぜ?」
「そういえば…シュガーさんもAIって持ってるんですか?」
「あ、あぁ。持ってはいるが・・・ちょっと失敗しちまってなぁ。見せれねぇんだ。」
「え?AIを作るのに失敗とかってあるんですか?」
「あるよ。人間を育てるのと・・・変わらないから。」とAIシンさんがいつのまにか食事ののったオボンを持って僕の隣に座った。
「・・・・」シュガーさんはばつの悪そうな顔をしていた。
「えっと・・・失敗って・・・どういう・・・?」
「性格が破綻したAI・・・人の心を傷つけてしまう性格だとか・・・ワガママだったり。」
シンさんは説明をしながらも淡々と食事をとっていた。
「・・・AIって思ってたより複雑なんですね。」
「人型を選ばなければそんな複雑じゃあないんだ・・・動物や生き物のAIは従順で良く言う事をきく・・・。」シュガーさんは目を合わしてはくれなかった。
「運がよければ擬人化もするし便利だよね動物は。」とシンさん。
恐らく・・・シュガーさんのAIは人格が破綻してしまったのか・・・。
「君今、佐藤さんのAIは人格が破綻してるって思ったでしょ。違うから。この人のAI、ルナそっくりになっちゃっただけだから。」
飲もうとしていた水を吹きかけた。
「だぁぁぁ~~~~~バラすなよぉ・・・重要機密なんだぞぉ~?一応。」
シュガーさんの顔が真っ赤になった。
「え?どうして重要機密なんですか?」
「影武者として使われてるからね。」AIシンさんは食事をとりながら淡々と答えた。
「お前さぁ~~~そんなベラベラ新人に喋っていいのか?別ギルドのスパイとかだったらどーすんだよ。」
「…分かってると思うけど、個別設定でりきには最重要以外の機密は喋っていい事になってるから喋ってるだけで。最初を知ってるからスパイじゃないのもわかってる。」
…最重要機密…なんてものがあるんだ。それに個別設定って…細かすぎる…このゲーム。
「ちなみにどうしてそっくりになっちゃったんですか?」
「ヒト型AIは細かい設定をいくつもいくつも積み重ねてやっと完成するもので、メスを選んでルナならこう答えるだとか、これを選ぶを入力しちゃうと…ルナになっちゃうってわけ。」
AIシンさんは飽きれ口調で語ってくれた。
「…シュガーさんはルナさんが好きなんですね。」
「そーだよ!!悪いかよ!!//」シュガーさんは顔を赤くした。
「大丈夫ですよ。うちには山ほどルナもどきがいますし。」AIシンさんは捻くれたような笑顔でいった。
「……えっと…ルナさんはみんなから好かれてるんですね。ルナさんは好きな人とかいるんですかね?」
「ふっ。それ聞いちゃう~?」AIシンさんは怪しい笑みを浮かべる。
注文していた料理が運ばれてきた。
「はぁ…気が重い。」と言いながらシュガーさんは運ばれた食事を食べ始めた。
「ルナはシンカにゾッコンだよ。」AIシンさんは少し困ったような…寂し気な顔をした。
「え…シンカさんってAI…ですよね?」
「そ。君らの世界では…なんて言うのが正解なのかな…二次元に恋をする的な?」
二次元に恋…それは…痛いほど気持ちがわかる…僕はそのためにこの世界に来たようなものだから。
「そうなんですね。じゃあ僕と一緒だ。」
「んっ!?おまっ…今なんて?」シュガーさんが食事の手を止めて酷く驚いた顔をしてきいてきた。
「僕も花屋さんのAIに恋して、この世界で一緒に生きるために復帰したんで。」
「はぁ~~~~お前……はぁ~~~~~!!」シュガーさんがあちゃーみたいな顔をしていた。
「僕らAIにとっては、嬉しい事だけどね。さてと…僕はこれで失礼しますね。」
AIシンさんは食器の乗ったオボンを返却口へ戻して店をでていった。
「シンの野郎、いらん事言いよってからに。」
「なんか、シンさん少し寂しそうでしたね。」
「まぁな。設定上はシンカもシンも恋人設定にされてるだろうから、シンにとっては目の前で浮気されてるような気分なんだろうな。」
「それは複雑ですね。」
「……そうだな。俺は…ルナの最初の恋人だっただけにより複雑だ。」
「え…。」
それは複雑だ。てっきり千翠さんとルナさんがデキてるのかと・・・。
情報量が多すぎて、食事を味わえず終えてしまった。
小さなホログラム画面に[体力+3 魔力+1]と表示された。
食事効果…?
店を出ると…シュガーさんは酷く落ち込んでいて「俺…ちょっとギルドハウスで休むわ。」
と言って帰ってしまった。
二次元に負けるって相当なダメージ…なのかな。
しばらく町を歩いた。
現実世界の明日には…僕の隣には咲が…。
………でも…現実世界の寝る時間って…この世界では何年経過するんだろ…。
ふと回りを見渡せば…氷がキラキラ光っていて…ほんとに綺麗な国だ。
活気もあって…
「もっと他の国も見たいなー」背後から声がして驚いてバッと振り返った。