【ソル】
目覚ましの音が部屋中に鳴り響く…。
起き上がって目覚ましを止めて…自然とポケットに手を突っ込んだ。
………そうだった。ここ…現実世界なんだった。
手を一度握って開いて…感触を確かめた。
……学校…行った方がいいのかな…。
でも先に咲を迎えにいかないと…。
とりあえず制服に着替えてリビングへ行った。
「え!?アンタ遅刻じゃない!?」と姉に言われた。
「あー…今日はちょっと大事な用事があって、9時に近所の花店さんによらないといけなくって…遅刻にはなるけど…。」
「へぇ~。高校生の癖に大事な用事ねぇ。まぁ、いいわ。私は仕事行くから、戸締りよろしくね。」
「あ・・・うん。行ってらっしゃい。」
………姉が仕事にいって、僕は朝食を作りはじめる。
姉さん…朝食食べたのかな…いつもは僕が姉のぶんも用意してたっけ。
一ヶ月半…か。【リアル】のせいで時差ボケが酷い。
8時50分には家を出て花屋さんの前。
咲が「おはようございます。」と挨拶してくれて「おはよう。」と返して咲を眺めながら9時を待つ。
ガラガラとシャッターが開いて…店員のおばさんが顔を出す。
「あの!!100BP貯めました!!チップを譲ってくれませんか!」
「……頑張ったね。店に入りな。」
花屋さんに入ると、おばさんがホログラムに繋がれてるであろうチップを抜いて僕に渡してくれた。
「ありがとうございます!!!大事に…一生大事にします!!」
「ちょっとここで待ってな。」
おばさんは二階に繋がる階段をあがって「ようこー!」と叫ぶ。
僕は携帯の電源を入れて、【リアル】を起動させてチップを携帯に差し込んで読み込ませる。
すぐにダウンロードが完了して…おばさんが「待たせたねぇ。」とやってきて…花屋の扉がカランカランと音を立てて開いて…
次に瞬きすると…僕は【リアル】の中にいた。
………広大なフィールド…初心者村の…【初心者の町・闘技場】……僕は…バトルを申し込まれたのか?…
観客はほとんどいなかった…平日の朝だからだろうか…。
真っ先にAIの名前を入力してくださいという画面が現れて…咲と漢字入力したあとにフリガナを要求されてサキと入力した。
隣に咲が…現れた………その瞬間…涙がでた。
「おはようございます。」と声がかかった。
「どうやら…情報通り…使えないAIを手にしたようだな。好都合だ!」と正面に…黒い服を着た男性が強そうな男性AIを連れて立っていた。
黒い服には金色の刺繍が入っていて、すぐにドルガバ関係者だと理解した。
「なん…で……どうして僕のリアルを知って…。」
「ヒルコ様の手にかかれば…そんな事。僕はヒルコ様に選ばれた期待の新人なんだ!!お前をここで潰す!!!」
僕はタクトを構えた。
「おっと…お前ひとりでそのお荷物AIを抱えて戦えると思ってるのか?俺のAIは!!ヒルコ様のAIだ!!」
「……くっ。」
恐い…と思うと…タクトから小人達がでてきてくれて…小人達は何故か咲の方へあつまった。
「え…?」
それから小人達は咲に抱き着いて顔を埋めていた。
「よそ見とは良い度胸だな!!!」
カウントダウンが始まった。
「みんな!!!」と僕は小人達に声をかけた。
「りきさん…すみません、バトルに集中します。」とエイボンが本を開いた。
敵のAIが僕に光線のようなものをうってきて…間に合わない!!と思った時…ウォールが前に立って守ってくれていた。
「ウォール!」
「すまない!出遅れた!」
ハナビが詠唱に入った。
ハクが敵の方を斬りつけにいった。
敵は「ヒィッ!!あつい!!」と声を上げていた。
でも…敵のAIは大きな剣で僕を斬ろうとする…ウォールがガードしてくれているが、ウォールだけじゃ…もう!!
「もう絶対に!!!主を失うわけにはいかない!!!」とウォールは敵のAIを押し返す。
「守りましょう!」とエイボンが言う。
AIの攻撃は激しさを増し、ハクも攻撃を跳ね返す為に僕の守りについた。
ハナビも攻撃をしてくれてるけど…敵のAIは魔法無効をつけてるようで…全然効かず…
その間に敵本体は課金の高い回復薬を飲んで体力を満タンにしていた。
「うあぁ!!」とウォールが苦しそうな声をあげた。
……ダメだ…どうしよう…。
ダメだ…ダメだ…。
ウォールが弾き飛ばされそうになって僕はぎゅっと目を瞑った。
すると…ピンっと音がなって…AIが突如吹き飛ばされた。
「え…。」
後ろを振り向くと…咲が……
………さっきまで隣にいた咲じゃない…表情がある……
咲は…僕を抱きしめた。
「良かった…間に合った…間に合ったっ…!!」
もう一度敵のAIが僕にむかってきて大剣を振り上げる…それを咲が…はじき飛ばした。
弾き飛ばしたどころじゃない…吹き飛ばしてしまった。
どうやって……咲の手には春風のタクトが握りしめられていた。
……それが…全てを物語っている気がした。
「ウォール…聞こえてる?私はいいから…りきを守って。」
「……わかった。」
…………そんな…まさか…。
「ハク、わかった。ハナビ、こっちへ。」
僕の側にいた小人…ハクとハナビがいない事に気づいた。
「…ねぇ、りき。咲って素敵な名前だと思う。ありがとう。」
咲はそういうととてつもないスピードで走ってタクトで敵のAIを殴りつけて…体力を削りきってしまった。
「そんなっ!!馬鹿な!!!…使えないAIじゃなかったのか!!!」敵は後ずさる。
「使えない…そうね。その通りだと思います。でも…今は使えるAIでありたい!!」
「フゥ!風を!」咲がそう言うと僕の側からフゥが消えた。
指揮棒を振ってるだけで何がおこってるいるのかわからないけど…ハクに風をつけてスピードをつけさせている…という事しかわからない。
男の体力がみるみる削れて…男は見えない何かに脅えていて…最後は咲がパンチをしてトドメをさした。
僕の目の前に[WIN]という画面がでてきた。
咲はこちらを見て微笑んだ…。
それから…世界が現実世界に戻る。
「……そんな…馬鹿な…俺が…負ける…?うあああああ!!」と僕と同じくらいの年齢で制服を着た男は花屋から出ていってしまった。
「おかしな客だねぇ。」と花屋のおばさんが言う。
「りき!」と、おばさんの後ろから…金髪碧眼で中学生くらいの見た目の女の子が現れた。
女の子は長い髪を真ん中でわけていて…外国人なだけあって物凄く可愛い。
「え?…えっと…あの…誰ですか?」
「毎日毎日私に話かけておいて私がわからないの?……おはようございます。」
……声が…咲だった。
「え…でも…そんな…。」
「はじめまして。…神崎陽子21歳です。訳あってここで居候してます。」
21歳!?どう見ても中学生にしか見えないのに…。
「…はじめまして…。」
「吉田力。だよね。全部聞いてた。まず携帯の電源切って。」
「あ・・・はい。」
急いで携帯の電源を切った。
「おばさん!私ここを出ます!」
「え?行くとこあるのかい?」
「はい!りきの家に住みます!」
「えぇ!?大丈夫なのかい?」
「え!?僕の家って…そんないきなり…。」
「ちょっとさすがに色々説明が必要かぁ。おばさん、二階ちょっと借りてていい?」
「それはいいけど…。」
僕と咲は二階へ上がって…二階に上がってみるとリビングがあった。テーブルに4つの椅子。
陽子さんはそこに座って、僕もどうぞと言われて座る事にした。
「何が何やら…全くわからなくて…えっと…陽子さんは…咲で…ソルさん…なんですよね?」
「ソル…か。懐かしい名前。あのね、基本的に私が【リアル】の世界に入るには、誰かのAIとしてしか入れないの…でも…りきに花びらを贈る為に無理矢理GMとしてログインした。そしたら…頭に激痛が走って…記憶が少し…なくなったの。どうして私がここで居候してるか…とか…なんの為にりきを必要としたか…とか…そこらへんの記憶。」
「じゃあ…本当にソルさんで…咲は貴女なんですね?」
「…ええ。でも、咲って呼んで!ソルでも陽子でもなくて…咲がいい。」
「咲…さん。やっぱり恥ずかしいです!こっちでは陽子さんって呼びます!」
「はははっ。わかった。それでね、私はりきのAIとして現実世界でも一緒にいないといけないの。残しておいた手帳にもそう書いてあって…一緒にいちゃダメかな?一緒にいないと咲を起動できないし…。」
「………姉に…聞いてみます。」
どうしよう…とんでもない展開になってしまった。