【リアル】
ミーンミンミン…と蝉の鳴き声が聞こえてきた。
それから程よい暑さ…なのか?暑いぞ。クーラーがかかってるようには思えない。
自由に動く手に違和感を覚える。僕は確か…アトランティスで寝ていた気がしたんだけど。
起き上がると自分の家だった。
「…え?」と思わず声を漏らす。圧倒的な違和感と頭痛に襲われる。なんだ?なんなんだ?
僕の体がおかしいぞ…どうなってる?そうだ…アイツは…!!
だけど僕の中にもう一人いるような感覚は全くなかった。そう…だよな…。これはいったい。
「大丈夫?」と懐かしい声が聞こえた。なんとか体を起こして声の主の顔を見る。ドクンッ!!と心臓が跳ねた。僕は当然のようにヒルデさんだと思ってしまったんだ。でも・・・違った。
「母・・・さん?」
ヒトが・・・視界に人間が映って酷く困惑してしまう。ヒト・・・だよな。母さん・・・だっけ。でも声はヒルデさんで・・・見た目は母さんだ。
「お帰り。りき。」と申し訳なさそうな顔でりきの頬を触った。
「起きたか。」と渋みのある低い声がした。誰だ?と声がした方へ顔を向ければ・・・記憶の中に少ししか登場しない意外な自分がいた。
僕の本当のお父さんだ。
「どうして・・・。え?どうなってるの?どうして父さんと母さんが揃ってるの?僕は死んだのか?」
「いいえ。この通り生きてます。全て、終わったそうです。」と母さんは俺の手を握る。
「全て・・・終わった?ここはどこ?」
「ここは神崎家の敷地内だ。ヒトを導くという計画が終わった。」と父さん。
じゃあ、アイツは・・・やり終えたんだな。でもどうして体が戻ったんだ?アイツは陽子と一緒に・・・。
「そうだ。陽子は?神崎陽子はどうなったの?」
「陽子さんは深い眠りにつきました。【リアル】へ・・・。」
そういう事か…今度は陽子とアイツが【リアル】に入ったのか・・・。
「僕はどれくらい歳をとりました?」と問えば母さんは困ったような顔をする。
「20代の後半くらいにしか見えないわ。」
「…え?」
そう言われてみれば母さんも少ししか歳をとっていない気がする。でも父さんは確実に老けた気がする。
「ごめんなさいね。お母さんは特別な血筋なの。神崎家の女系は異常なくらい強靭な肉体を持って生まれるの。しばらく女系が続いていた家系とお父さんもしっかりした男系と女系の血筋の人だから、100年くらいじゃ若いままよ。」
「ひゃっ、100年!?待って・・・えっと・・・そんな事って可能なの?」
「ヒトの体にはテロメアっていう細胞があるのだけれど、その細胞が小さくなっていく事でヒトは見た目的な歳をとる事になるわ。神崎家はその細胞が小さくなりにくいの。女系であればあるほどに。子を産む為に男性より強い肉痛いを得てるの。それが子供にも遺伝していくの。女の子なら絶対男の子は稀に強く遺伝されるそうよ。」
「そっか…僕。僕も神崎のヒトか。」
「コホンッ。そんな事より、会いたい人がいるんじゃないのか。」と少し気まずそうに話す父さん。
「会いたい・・・人。」
「お前なら感じるはずだ。外へ出て見ろ。」と父さんは目を瞑って話す。
「う、うん。」と返事をして何とか立ち上がる。
長い間【リアル】での動きに慣れ過ぎて・・・動かしにくい上にしっかりと体を鍛えられていて変な感じがする。もともとひょろっひょろだったからな。
「大丈夫?」と母さんが優しく体を支えてくれた。
「うん。直ぐになれると思う。」と言えば母さんが手を離して見守ってくれていた。
家の外へ出て陽の光を浴びる。それから目を閉じて深呼吸をした。空気が美味しいと感じた。
すると心の中で淡い桃色のような光が僕を呼んでいるような気がして、なんとなくだけどそっちへ歩いた。
【リアル】の夢で見た事があるかもしれない風景が広がっていた。和風な建築物。とても大きな家。
そういえば…この先って、あの大きな桜の木があるんじゃないかな…。
段々と体が馴染んできたような気がする。壁伝いに歩かなくても良くなってきた。
筋肉が衰えてるわけでないから、歩けないわけはないんだよな。
突き当りを曲がれば大きな桜の木が見えた。今は夏なのか?蝉の鳴き声と新緑の桜の木が見えた。
「りき・・・さん?」
とても聞き覚えがあって、いつも聞いてる声がした。
声がした方へ顔を向ければ・・・いつかの記憶で見た面影を残した黒髪の綺麗な女性が着物を着て立っていた。
「朔良・・・?」
「りきさん!!」と言って朔良は涙を流しながらぎゅっと僕を抱きしめた。
「りきさん!りきさん!!・・・りき・・・さんっ!!」と朔良は何度も僕を呼ぶ。
「朔良・・・。」と名前を呼んで頭を撫でた。彼女は【リアル】と現実世界を行き来しながら、ずっと僕の側にいてくれた大切な人でありツガイだ。
しばらくそうした後、近くの縁側に座った。
「気になってる事があるんだけど、まさか体が戻ってくるなんて思わなかったから聞こうともしなかったけど、今って…いや、世界ってどうなったんだ?」
「これが正解かどうなのか私には分かりません。ですが、昔のように外国という言葉は全て無くなりました。地区ごとに神の使いがいて、神の使いが新たな法律で全てを仕切っている状態です。役所という役割をしている場所では喧嘩になってしまった時の仲裁、どちらが正しくて正しくないかをすぐに判決して下さる使徒という窓口ができました。これで正しくないと判断された方は自分の考えを改めるようになりました。全てが似たり寄ったりな性格になるようになったのかもしれません。」
「宗教国家になったって事か。」
「宗派は地区によって違います、ですが宗派という名前の法律です。一見は宗教ですが中身は法律です。皆さん、何よりも平和を願った結果・・・国は1つになりました。ですが、文化の違いがなかなか消えませんでした。だから、彼は・・・神という絶対的な存在を創りつつ、適材適所な法律をそれぞれの神に与えました。人々の精神状態は・・・それで安定しました。」
「まさか、そんな世の中になっちゃうなんて。引っ越しとかする人はどうするんだ?」
「引っ越し、という言葉はありません。誰もが引っ越すといった事に至らないのです。100年の間にそう教育されました。」
「教育・・・そうか。教育って恐ろしいな。」
「そうですね。彼は成功させました。後、飲食店といった、お店類は全て役所へ行きました。生きる事に必要なものしか今は売ってません。そして、科学の発展も全てが亡くなりました。ですが、神崎家は医療の発展を続けています。いるものいらないものを選別してヒトの世に降ろしています。」
「ほんとに色々変わったんだな。」
「ですが、彼は全てを変えなかった。りきさんの為に。ここだけは・・・ずっと昔のままです。」
「そう・・・なのか。アイツって…意外と人間らしいんだな。」と言って僕は空を見上げた。
その後、僕は朔良と結婚して新たな生命を授かった。
この環境がどれくらい続いていくかは全くわからない。だけど、教育方法がガラッと変わった状態からさらに何かを変える事なんて難しいだろう。
僕はただ・・・未来の子達が、平和に過ごせる事を願うだけだ。
ただひとつ、驚いたのは・・・
死後【リアル】にかえってしまう・・・という事だ。
長い間、本当にありがとうございました。
最後に【教育】というものの恐ろしさについて最後は語りました。
ほんとはもっと突っ込んだ教育の恐ろしさについて書こうかと思ったのですが、流石に叩かれそうでびびって書けませんでした。
次回作は悪役令嬢系の『超最難関攻略不可能な天才王子に溺愛されてます!!~やる気のなかった王子は生きる意味を見つけた。~』をよろしくお願いします。 長い間ほんとにありがとうございました。
じわじわゆっくり誤字訂正とかやっていきます。
どうか、しっかり自分で考えて未来を明るくしてください。
【私が考えた最強に平和になる世の中】っていう題名のほうがしっくりきますね!!
次回作もすっとんきょんな終わり方してしまうかもしれませんがよろしくお願いします。
長々とすみません、ありがとうございました。