【終わりの音。】
殺戮の天使メアリーチャンのフェーズが変わった。ノイズ混じりの声で【我に力の証明を。】と聞こえた。その瞬間小さいホログラム画面が出てきて、[一定のダメージを与え続けよ]と表示された。
「僕が行ってくる。」とシン。
「デュークさんも一緒に行ってください。」とシンカさん。
「あぁ、わかった。」とデュークさん。
シンだけでいいのかな?と思っているとシンカさんが「このフェーズはパーティーの一人が60秒ごとに攻撃するだけでオッケーです。ただし…長時間なので、交代制です。」と教えてくれた。
しばらく時間が経って、モカさんと咲で、その後は護と東屋さんで、その後は俺とシンカさんでメアリーチャンを攻撃しに行った。
ローテーションで攻撃を与え続けると、さっちゃんの姿が次第にとんでもないものに変わっていった。
目から血の涙を流し、そこらじゅうヒビだらけ。
「フェーズが変わります。このまま攻撃を続けて。」とシンカさんに指示されて「わかりました。」と返して攻撃を続ける。段々とヒビから光が漏れだしてきた。
バンッと壁のようなものにぶち当たった。
「フェーズ変更です。戻りましょう。」と言ってシンカさんと共にみんなのところへ戻った。
「フェーズ変更か。ここからが結構キツイよね。」とシン。
「あぁ。わかるぜ。このフェーズから無力な奴は堕とされる。」とデュークさん。
「構えろ。」とモカさん。
殺戮の天使メアリーチャンが完全に砕け散り、とてつもない光が放たれた。その光が終わった瞬間、とんでもない数の獣が周囲を囲っていた。目がくりぬかれた毛並みの黒い猿のような獣が飛び掛かって襲い掛かってくる。近くにいるパーティーとの距離が近いせいで大振りな動きがとれない。大技で一掃もできない。さっちゃんがいた場所をチラりとみれば光の玉のようなものが見えた。それが今この場の灯りとなっているようだった。
獣たちは容赦なく飛び掛かって襲ってくる。みんなは最小の動きで迎撃する。
ハナビや風は使えないハクで上手くやり過ごすしかない。ハルに全員の魔力回復をお願いする。
「うぉ!?なんだ!?いきなり魔力が回復しやがった!!」とデュークさんが異常に驚く。
「…これは…。」とモカさんも驚く。
「すみません、うっかりしてました。俺の技の一部です。」
「ハハッ…魔力無限大か…。」と普段無表情のモカさんは僅かな笑みをこぼす。
「東屋!まだ!?」と咲が声をあげたので東屋さんの方も見れば集中して何かを作り上げていた。
「そんな事いうならご自分でやれば良かったじゃないですか。一族の中で誰よりもお得意ですよね?」とシンカさんが咲にツッコミをいれた。
「あ、忘れてた。」と咲。
東屋さんから沢山のマントラが飛び出した。それが流れ星のようでとても綺麗だ。その瞬間獣たちが一掃された。
「これは?」と俺が聞けば「東屋がね。悪魔祓いの結界を広範囲に引いてくれたの。さっき出てきた獣は悪魔に分類されてるから一掃できちゃうの。」
「グハッ!!」と盛大に吐血するシンカさん。
「悪魔の力を持つ人は体力が削られてしまうの。りき、スゥで治療してあげて。」と咲に頼まれて、すぐに治療した。
「魔力も体力も回復できるのか…凄いな。」とモカさん。
「あぁ。シンカの下着効果に悪魔の力が付与されてるって事か。」とシン。
「恐らく。全く忘れてました。体力の30%を切るわけでもないので。」とシンカさん。
「りき、エイボンの目を使って連合の人に治癒を施せる?」と咲。
「あぁ。わかった。やってみるよ。」
エイボンの目を借りて色んな人を見て回った、ちょいちょい瀕死になってる人を見かけるが、優秀なヒーラーをつけている人が多くて、ほんとに数人回復するくらいで済んだ。
「さて、最終フェーズですね。…今の環境下ならば、きっと上手くいくことでしょう。」と今まで背後で喋らずそつなく色々こなしていたヒルデさんが口を開いた。
中央の光の玉が黒く濁りはじめて真っ黒になった。それが段々と人型になった。
赤黒く…ざらつきのある人型の何か…名称も???となっていて、一体何のか全くわからない巨大すぎる敵だ。敵の頭の上に赤色の体力ゲージがうつっていた。
「一応、天使が落ちて悪魔になったような演出らしいです。なので、聖属性、光属性、フェアリー属性、有効です。」とシンカさんが教えてくれた。
「はい、ですから私が旗を立てます。大きな旗です。全員を聖属性に変えます。」と言って両手を天に向ければ巨大な棒がそこから生成されはじめて段々とそれは銀色の旗となった。
すると全員が聖属性になった。
「ここからは各々が総攻撃する必要があります。東屋さんはミスティック連合に歯向かおうとする悪党を護さんと一緒に退治して回って下さい。」とシンカさんが指示を出した。
「…わかりましたよ…えぇ。」と渋々返事をする東屋さん。
「位置の特定…任せましたよ。護さん。」とシンカさんが護の目を見て言う。
「任せてください。」とニコリと笑う護。
「その言い方。リアルと全く大差ないですね。」
「時間だ。こちらはどう立ち回ればいい?」と冷静に声を発するモカさん。
「モカさんとデュークさんはヒルデさんの護衛をお願いします。」とシンカさん。
「このでっけぇ旗が折れちまったら攻撃ができなくなるってわけか。」とデュークさん。
「いくら簡略化されてるとはいえ、旧ヴァルプルギスのラスボスには違いないしね。」とシン。
「え?これで簡略化されてるのか?」
「はい。旧ヴァルプルギスは同時に5体沸くのでそれはもう相当な時間がかかったのと、うちは小規模なので封印や結界、凍結状態を保って1体ずつ倒してました。大手は班をわけて同時討伐していましたが、それでも火力の分散がおこってかなりの時間がかかったと聞いてます。このヴァルプルギスは1体を連合、その他多数のギルドで討伐してるので、そりゃあ早いですよ。」とシンカさん。
「なるほど。」
「りき、いくよ。」と言ってシンが飛竜を取り出して俺をそれの背にのせてくれた。
色んな人がラスボスに大技をぶち込んでいた。それでも敵の体力ゲージは少ししか減っていない。
俺はハナビに詠唱させてフゥとハクには絶えず攻撃を指示した。ハルをフル活用してどんどん攻撃を仕掛ける。敵は魔獣を作り出してはヒルデさんを狙った。それをデュークさんとモカさんが防ぐ。まさに鉄壁だった。旗をだしている間ヒルデさんは動けない。完璧な采配だ。さすがシンカさん。
どれだけ時間が経っただろうか…この戦いはいつまで続くのだろうか…とても長い時間戦い続けた。小人達の体力は大丈夫だろうか…みんなが必死に攻撃を繰り出していた。時々襲い来る魔獣に体を少しずつ傷つけられながら…俺達は必死に攻撃を続けた。
「後少しです。」とシンカさんの声が聞こえて俺は敵の頭の上のゲージをみた。本当にあと少しで全員が全員出し惜しみなく、大技を繰り出しだ。
ブォーーーーーンとドスの聞いた低い音が聞こえたと思えば巨大な人型の黒い的は粉々に砕け散り、会場が沈黙に包まれた。
目の前に撃破報酬が届いてはじめて皆が一斉に口を開いた。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
沸き上がる歓声と同時に段々と廃墟と化していたこの場所が段々と元の姿を取り戻した。
ギルド【アヴェ】の【マリアメープル】王国 それがこの場所だった。
沸き上がる歓声の中、ギルド【アヴェ】のマスターマークが見える少女が此方に歩いてきた。
またいつもの約束を思った瞬間、俺は握っていたタクトを落とした。
「…あなた…りき…くん?」
いよいよ…クライマックスに入って行きます。閲覧ありがとうございます!!!
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