【片手剣【クロノス】】
「なんか…僕、なんの役にも立ってないや。」とシンが言った瞬間だった。
帰ろうとしていた全員が「うっ」と声を出して頭を抱えた。
モカさんだけは平然としていて「どうした?」と驚いていた。
俺達の中に記憶が入ってきた。
【エインシェントエンパイア】に入国してギルド【アーク】の城に辿り着いた時だった。
「やっと着いたね。」とシン。
「結構かかったね。」と咲。
ゴゴゴゴゴ…地響きがして振り返って上を見れば巨大な樹木を背負った亀がゆっくりと空から降りてくる。
「なんだ?」
俺はタクトを握りしめた。他のみんなも戦闘耐性だ。あまりにも巨大で正直どうすればいいかわからなかった。
咲がステッキを解放して突っ込んだが極わずかな部分しか攻撃できてなくて、体力も減ってる様子がなかった。咲が一度此方まで下がってきた。
「ダメ。体力が多すぎるのと巨大なのとで全然歯が立たない。」
「みんなで叩けばどうにかなるんじゃない?」とシン。
「そうだね。じゃあ【アポロンの残した日記】の詠唱をお願い。」と咲。
「は?本気で言ってる?」
「今はそれし勝ち筋が見えない!」
「ったくもう…。」とシンは渋々光輝く魔導書を取り出して、深呼吸をしてから詠唱をはじめた。
咲が物凄い勢いをつけて巨大な亀リンクェイに向かって突進して何とかノックバックを狙う。
俺もウォールの技をリンクウェイにぶつけてノックバックを狙った。
護は俺達の体力を回復させるヒーラー役に徹してくれていた。魔力はハルの力でいくらでも回復できた。ハナビのマグマプールをぶつけてみたけど、リンクウェイの背中の島が燃えただけでリンクウェイ自体にはダメージが入っていなかった。
しばらくしてシンの詠唱が終わって「太陽の光!!」と唱えれば空から無数の光柱が出現してリンクウェイの体力を一気に削り切った。
「お疲れ、シン。」
「この魔導書捨てようかな…。」と言いながら光輝く魔導書をインベントリに直すシン。
その後はパイモニアさんが登場して俺達が出禁になって視界が暗転して、また門の外から同じ時を繰り返すだけとなった。
「僕達…何回目だったんだ?」とシンが動揺していた。
「クロノス…貴方…。」と咲が言えばクロノスさんは自分の唇に人差し指をあててシッと黙らせた。
「帰りましょう。連戦でかなりの疲労バフが溜まってます。」と護。
本当に記憶が戻って疲労バフが溜まっていて俺達はミルフィオレの城へ帰る事になった。
モカさんはまた必要になったら呼ぶといいと言って俺とフレンド登録をしてくれて国へ帰っていった。
自室のベッドの上で。
「不思議だなぁ。なんで急に連戦に。俺達戦ってたんだな。」と呟けば隣にいた咲がこっちを向いた。
「とても危険で…やってはいけない行為だよ。」と咲。
「でもどうして…。」
「たまにね。神崎家並みにとっても頭が良い人がいるの。クロノスがそうだった。だからゲーム内の時間関連の仕事をしてもらってたし取り締まってもらってた。クロノスは稀に見る超天才だった。…全てがパーフェクトで…ただ一点。パイモニアさんを必要以上に追い掛け回す事以外は…。追い掛け回したすぎて…神崎家でもないのに並列思考ができるようになったり…。とにかく規格外の人。」と丁寧に教えてくれる咲。
「そっか。」
そして俺は眠りに落ちた。
目を開けると青黒い空間にいた。空が…夜の空をしている。それから足は砂浜に…ザザンっと海の音がする。
「…お前は。」と声がしてそっちを向けばパイモニアさんがいた。
「パイモニアさん…どうして…。」
「さっき…全て見させてもらった。今現実世界で起きている事。それから自分の立場。クロノスの事も。」
「すみません、最後までちゃんと助けられなくて。」
「いや、世界が今ゲームなんてしてる場合じゃないような状況なんだ。仕方あるまい。」
「これは…夢ですか?」
「【リアル】では夢など存在しないに等しい。ここは私の心の世界なようだ。実は先程、黒髪の少し年配の男性に教えてもらった。」
アイツが?…今俺の中にアイツを感じられないのはそのせいか。
「そうですか。」
「これからお前に起こる事も教えられた。大概ストーカーされれば嫌なものだろう。だけどな。私は良いんだ。ずっと孤独を抱えていた。それをクロノスが埋めてくれた。」
「…ずっと孤独を…?埋めてくれた?」
「あぁ。現世では長くイジメられていてな。家は剣道家でな。父は毎日 私を強くしようとかなり厳しくされた。学校ではイジメられ…家でもイジメと同じくらい厳しく躾られ、最後は家出をしたんだ。バトル王になってな。」
「…確かに。バトル王になれば施設で…ムーンバミューダ社が欲しい人材だと認めれば、そのまま閉じ込められる仕組みにかけたんですね?」
「そうだ。こんなところで父に教わった剣道が役に立つなんて…内心モヤモヤしていたが。仲間が私を癒してくれた。仲間ができたのも…あんなに大きい国を作れたのも…全部クロノスのおかげなんだ。裏でかなり操作してくれていたようだ。そう…私の剣だった。肌身離さずずっと持っていた剣の正体がGMクロノスだったんだ。だから追いかけられていたんではない。私がずっと離さなかった。片時も。」
「そうだったんですね。」
「かなり心配してくれていたようだな。このような空間まで作って。」
「はい。正直ストーカー被害にあってるのに、どうして放置するんだろうって不思議でたまりませんでした。」
「はははっ。いい奴だな。後の事は心配するな。時が来たらしっかり呼びかけさせてもらう。それと我が巨大連合は全てミスティック連合に加入するつもりだ。連携をとりやすくしておきたい。傘下のギルドには私の方から説得してまわる。今現世でおきている事を伏せてな。これから忙しくなる。」
「ありがとうございます。」
「礼はいい。自分の命がかかってる。自分の為だ。それに…私はずっと父にもイジメられている…世間体の道具だとずっと思っていたが…こうして実際に剣を握って戦っていくとな。父は確かな愛情を持って育ててくれていたのだと分かってしまった。大切な家族を守る為だ。」と少し笑うパイモニアさん。その時手に何か写真のようなものを持っている事に気が付いた。自然とそれを見てしまう。
「ん?あぁこれか?」
「すみません、つい気になってしまって。」
「さっきここにいた人がくれたんだ。現世のクロノスの写真。」といってパイモニアさんが俺に見せてくれた。
そこに移っているのは黒髪で七三分けをしていて、眼鏡をかけていて、ビシっとスーツを着こなしていて、とても真面目そうなインテリエリート系な顔をした男性がうつっていた。年齢は…20代後半くらいか…もしくは30代か。
俺は反応に困って「えっと…。」と言いながら言葉を考えた。
「はははっ。クソ真面目そうな面だ。私は好きだ。」
「そ、そうですか。」
「だからもう心配するな。さ、もう夜が明ける頃だ。我々も朝を迎えよう。」とパイモニアさんが微笑む。
「はい。」
目が覚めると寝室だった。
コンコンと音がなって部屋のドアが空いた。
「りき、起きた?シンが朝食運んできてくれてるよ!」と咲。
「あ、うん。今いくよ。」とベッドからでてリビングへ向かった。
「おはよう。」とシン。
「おはよう。シン、昨日は大活躍だったな。」
「ははっ…本当に捨てようかな。あの本。」と疲れた顔をするシン。
時戻しの記憶が入ったせいで、シンは数十回と【アポロンの残した日記】の長時間詠唱をした疲労がもろにトマウマとして残っていた。もしかしたら一番の被害者かもしれない。
なんとか…なんとか書き終えました。お楽しみいただけると幸いです。
私は思いました。ここまで読んでくださっている方は…既にもうブクマ済みの方ばかりだと!!!
という事でいつもありがとうございます。頑張ります。今年中には終わりを迎えますよ。