【君といたい。】
アイツはハクの刀を取り出して装備して左から右へ右から斜め左上へ上から下へと切り刻む。その動きを素早く何度か繰り返し目にも留まらぬ速さで火龍を倒した。
スマートでカッコ良すぎる…。アイツは悪い奴だ。けれどもこのスマートなカッコよさは本物だ。
すげぇ!!俺の心が躍ってしまう。
体が俺に戻って、咲のところへ戻った。
「倒してきたよ。」
「こっちも終わったよ。…森…どうなるのかな。」と咲。
火龍とサラマンダーの討伐報酬を入手した知らせのホログラム画面がでてきた。
しばらくすると地面からホタルの光のようなものがホワホワと浮かんできて段々と元の美しい緑を修復し始めた。
「キレイ…。」と咲が呟く。
俺の左腕が勝手に動いて咲の肩を抱きしめる。その瞬間心の中で「おい!」とアイツに声をかけた。
【・・・・っ!!】
この上なく恥ずかしいという感情がこっちにまで流れてきて、俺も恥ずかしくなってきた。
俺は右手をグーパーして自分の体の感覚を取り戻す。
ふと咲を見れば…とても驚いたような顔をしていた。
「あ、ごめん。あまりに綺麗でさ。…その…雰囲気がよかったからつい…。」
「ううん。そうだ!エルフ協会の人達にお知らせしなきゃね。」と咲。
「うん。じゃあ行こうか。」
俺と咲はエルフ協会が避難しているところに移動して、マスターのアルフさんに森で起きた事を報告して、その後いつもの約束をして、俺と咲はギルドハウスに戻った。
アイツがとても安心して作業に取り組んでいるのがわかる。咲が負担にならないように手分けしてくれたおかげだな。
自室に入ると急な眠気に襲われはじめた。なんとかベッドに入ると意識が遠のいていって…気が付くと俺の心の世界に立っていた。
「りきさん。」
「咲。」
「もうやめましょう。自分を大切にしましょう。」
「これが終わった後…アイツじゃないと上手く世界を動かせないと思う。そう思わない?」
「いいえ…神崎陽子ならきっと上手く回せるはずです。」
「そうかもしれないな…。俺もそう思うよ。でも…一人はきっと辛いよ。愛する人を完全に失って…その後一人で人類を導かせるのは、人間がする事じゃないって思っちゃうんだ。それに…俺が一番好きなのは…咲だ。神崎陽子でもない…咲なんだ。」と言えば咲は泣き出してしまった。
「どうして…どうして同じ時を生きられなかったの…どうして私はあの時…。」
「咲。俺はずっと咲の側にいたいんだ。だから俺は辛くない。現実世界で生きられなくても咲と一緒にいられるのなら…俺はそれでいい。」
咲は俺にキスをした。唇が濡れている気がした。でも気しかない。咲の手が俺に触れても、それは…温かい気がするだけだ。全ては頭の中で起こっている妄想かのような感覚だ。
触れたい。抱きしめたい。終わる前にアイツにライカさんのようにできないか聞いてみようかな。
次に目を覚ますとアイツの部屋にいた。
「どうしたんだ?珍しい。」
【いや…実に私も複雑な気分だ。一瞬、君の世界に入り込んでいる異物を取り除こうかと思った。】
「もう一人の咲の事か。」
【だが、君の言葉を聞いてやめた。】
「聞いてたのか。」
【彼女なりに防音壁を立てていたようだがな。記憶の文字は残る。】
「それだけか?…ん?お前…びびってるのか?」
【あぁ。震えているさ。取り除こうと思った異物は…電脳世界では絶対にありえないデータのない異物だからな。つまり霊だな。まさか本当に存在するとは思ってなかったがな。】
「それ本気で信じてるのか?お前なら、もう一人の咲が今どういう状況でいるのかわかるんじゃないのか?」
【知っているさ。そもそも…君の中へ接続する事ができない状態なはずだ。これは例えだが、月子のスマホの中にシンカ君がいて、そのシンカ君は君のスマホの中にも自由に出入りできる…ような事になってしまっているからな。データを調べてもそんな記録は残っていない。】
「それを言うなら。このゲームが完成してる事自体がそういう感じの事なんじゃないか?」
【…宇宙の神秘か。】
「何が起こっていてもおかしくはないだろう?」
【まさか…こんな小さな子供に論破されてしまうとは。】
「そうか。つまり…ライカさんの時みたいにはできないって事か。」
【外からいじればAI咲を解放する事くらいはできそうだがな。まぁ、幽霊データが使えればの話だがな。】
目が覚めると寝室だった。まぁ、そうだよな。
リビングへ行くと咲と護が座っていて、シンが朝食を運んできてくれていた。
「おはよう。」
「大丈夫?急に倒れるようにベッドに入ったから心配してたの。」と咲。
「うん、もう大丈夫。」
護が心配そうに俺を見ていた。でも護は…意識を共有しているから全部わかって心配してるんだろうな。
「りき、次から僕もついていっていいかな?」とシン。
「え?どうしたんだ?」
「シンカがちゃんと戻ってきて、落ち着いてきたし…その…僕もりきと一緒に旅したいっていうか。」と照れくさそうに言うシン。
「いいんじゃない?シンなら邪魔にならないだろうし。」と咲。
「良かった。俺も最近シンと一緒にいられなくて寂しかったんだ。行こう一緒に。」
「え?いいの?…てっきり怒ると思ってたんだけど。」とシン。
シンの疑問は当たり前…というか。前とは違う咲との関係。前は良くシンと二人でいた時とか仲良くしすぎると怒っていた咲も今は淡々としてる。前に怒ってたのは…演技…だったのかな。
まぁ、そうだよな。あの時の俺は陽子こそが咲だと思ってたから。咲も…同じなんだろうな。
「それより次はどこの任務だろ。」と話をそらして次の任務を調べた。
国【エインシェントエンパイア】 ギルド【アーク】 マスター【パイモニア】
帝国中の人が消えてしまった。残ったのは私だけだ。どうか…お力添えいただければ幸いです。
「どう消えたんだ?」
「相当パニックになってるんじゃない?」と咲。
「僕もそう思う、この国はとてつもなく巨大ギルドなはずだ。その人数が全員消えたって事でしょ?そりゃパニックになるよね。」とシン。
「大手ギルドを纏めるなら相当頭がないとできない事ですから。そんな人がたったこれだけしか文字をかけないって…かなりヤバイ事件ですね。」と護。
「まぁ、とりあえず朝食食べなよ。冷めるよ。」とシン。
俺達は席について、朝食を食べ始める。
「あ。そういえば、うちの中に【エインシェントエンパイア】に家持ってる人いるかも。」とシン。
「どこの人かわかるか?」
「えーと…確か…ラートさんのところの人だったかな。名前はミカル。食べ終わったら電話してみるよ。」とシン。
「わかった。」
朝食後、さっそくミカルさんに電話をかけるシン。声が聞こえるようにスピーカーにしてくれた。
「シンです。ミカルさんって確か【エインシェントエンパイア】に家を持ってましたよね?何か家や国に異変はなかったですか?」
「え?家に異変ですか?特には…あ。そう言えば【アーク】の人達が町中うろうろしまくってました。」
「そっか。ありがとう。助かったよ。」と言ってシンは電話を切った。
「消えたのはマスターの方ってわけだね。」と咲。
「マスターを探す為にうろうろしてるんだろうな。」
「住んでる人がいて良かった。僕ゲート持ってるから行ってみる?」
「そうだな。行こう。」