【優秀な薬剤師】
【おい、いつまでそうしてるつもりだ?】
頭の中に男性の重低音が鳴り響いた。…この人…誰だっけ。
「耳を貸してはいけません。貴方の居場所は…ココです。私の隣です。」と咲。
「うん、そうだよね。」
【いったい何が君をそうさせている?】
自然と耳を塞いでしまう。とても恐い。無性に恐いという感情が襲ってきて俺を支配するんだ。
【なるほどな。そんなに 恐れ があるのなら、死ななければ良い。私に体なんぞ渡さなければ良い…。】
「耳を貸してはいけません。」と言って咲が俺の背中を優しくさすってくれていた。
体を…渡さない…なんて事…。どうして体を渡さないといけないんだっけ…。わからない、わからない、わからない…わからない!!
「りきさん、私は…貴方と一緒に歳を重ねて、皺くちゃになってもこうして…寄り添って過ごしたいのです。だからココにいてください。」
一緒に…歳を…皺くちゃに……うん。そうだね。…僕も…、いや、俺もそう思うよ。
俺は手を伸ばす。それは咲がいる場所とは反対方向にだ。頼む…俺の手をとってくれ…俺の…。
ガシっと大人の大きな手が俺の手をとってくれた。あぁ…なんて安心できる手だ。
「どうして…どうして、その人の手をとったの!?」と咲が悲鳴に近い声をあげる。
「どうしてって…さっき一緒に歳をとりたいって言ってたじゃないか…皺くちゃになってもこうしていたいって…これしか方法がないんだ。」
「咲、もう大丈夫だから…大丈夫。いつもの可愛い咲でいて。」
俺は片方の空いてる手で咲の頭を撫でた。もう片方の手は未だ誰かに繋がれたままだ。手しか見えない。でも…俺はこの手を取りたいと思ったんだ。ほら、俺の頭上には球体でてきた。ここから外が見えるんだ。アイツが見てる景色が。
ピンクの霧が立ち込める場所に戻ってきた。アイツは千翠さんに電話をかけた。
「おい、私が出発して数日たっているが誰も送り込んでいないな?」
『やっと連絡がつきましたか。貴方の事ですから大丈夫だろうと信じて誰も送ってはいません。何かあったのですか?』
「大有りだ。国全体魅惑の霧で覆われている。りきに魅惑がかかって、俺が表に出るのに時間がかかった。」
そう…、武器を持つだけで常時ウォールが壁を作っているのにそれを貫通してだ。異常な事だ。バグに近い。強制力がありすぎるからな…。
「とにかく引き続き、誰も送り込むな。それから…君の作った指輪。非常に役に立った。礼を言う。」と言ってアイツは電話を切った。
【さて、調査をするか。】
アイツの意識や感情が流れてくる…誰だっけ…この人…どうしてこんな考えをしてるんだろう?
先ず【アグライア】の地図をホログラム画面で出しながら、バトル王が住まう城を目指して走る。流石に大手だけあって広すぎるな。天馬を使うか迷ったが、天馬が魅惑にかかる可能性がある。ここは走るしかないか。筋力がついて良いだろう。
走っていると何かに躓いてコケそうになるが、体勢をを立て直す。しまった。躓いた衝撃で躓いたものが転がってどこかにいってしまったようだ。
気を付けながら小走りで進めば人が倒れていた。躓いた正体はコレか。と思いきやいきなり獣のように俺に襲い掛かってきた。
「ふっ。なるほどな。」
アイツは襲い掛かってきた人を太極珠をつかって拘束した。ゲートを出してミルフィオレの地下室へと移動する。
「りき?」と千翠さんが此方を見る。
「私だ。りきは今魅惑にかかって出れる状態ではない。そんな状態になりながらも…私の手を掴んでくれたんだ。」
「なるほど、そんな事が。で、後ろの方はどちら様でしょう?」
「探索途中、魅惑にかかったコレを見つけた。通りで魅惑耐性が意味をなさないわけだ。魅惑の正体はウイルスだ。」
「…ウイルス。そうでしたか。それは私もうっかりしていましたね。丁度シンカが帰ってくれています。急いで抗体を作って頂きましょう。」
椅子に座った足を組んで抗体ができるのを待った。ウイルスだと気付いたのは、魅惑にかかりながらもこの視界を共有しているりきが今と似た映画を見ていた事にあった。
ウイルスなら、確かに魔法では解除できまい。何が役に立つか等わからんものだな。
しばらくしてシンカが地下室にやってきた。
「試し打ち良いですか?」とシンカが私に問う。
「良いだろう。」と袖をめくって腕を出した。
チクリとしてから10秒立てばモヤが晴れたかのように楽になった。
俺は…何を…どうしてこんな大事な事なのに全て忘れていたんだ。
いつもの青空が広がる空間にポツンと俺一人座っていた。咲の姿もない。やはり咲は俺が作り出した幻想だったんだな。
俺の状態を把握したアイツはシンカさんに「流石だ。魅惑が解除された。」と報告する。
連れて来て縛ってある人にも薬を投与するとカクンと力なく意識を失った。そのほか二人にも薬を投与すれば無事魅惑が解除されたようだった。
「まさか本当にウイルス型の魅惑だったとは。」と驚くシンカさん。
「私も驚きました。流石です。」と千翠さんが此方を見る。
「優秀な薬剤師がいて助かった。本体があの調子では私も気分が悪すぎる。とにかくギル員2名が意識を戻すまで待つとする。」と言えば、シンカさんが謎の丸薬を意識を失っている2名の口に放り込んだ。すると「んーーーーー!!」と苦しそうに起き上がる二人。
「いったい何が!!にがぁっ!!!」と苦しむ。二人は酷く苦いものを食べさせられたようだ。
「で、何があったんですか?」とシンカさん。
「それが足を踏み入れた瞬間もう意識が奪われて…俺は紫色の髪をした綺麗な女性にギルドの城まで連れていかれました。そこでギルド情報を…見せてしまいました。」
「あーらら。なら急いで部屋の配置変えをしなければいけませんね。」とシンカさん。
「くっ…ルナがいない時に…。」と青い顔をする千翠さん。
「シンカ君。抗体をわけてくれないか。同じものを此方で量産して、また東屋君に新アイテムの製作を依頼したい。」
「わかりました。どうぞ。1回に5つほどは作れます。が、材料が少しやっかいだったんで、よろしくお願いします。」といってシンカさんが小さなビーカーを渡してくれた。
抗体を持って、東屋さんのいる部屋来た。
「また何か御用ですか?」と東屋さん。
驚いた。前回は配線だらけだった東屋さん。アイツにもらった設計図で見事配線だらけの生活から脱したようだった。自由にお菓子を食べながらジュースを飲んでテレビまでみていた。
「この抗体を永遠と噴射し続ける設置物をつくれないか?もちろん設計図を用意してある。」
1つだったはずの抗体がいつのまにか増えていた。
「話は監視カメラから聞かせてもらってますよ。えぇ。来るだろうと思っていました。設置物も良いですが、これなんてどうです?」と東屋さんが見せて来たのは 蚊 だった。
「ハッハッハッ。これは一本とられてしまったようだ。それで頼む。」
東屋さんに抗体を持った蚊をもらって、俺はもう一度【アグライア】の地に戻った。
足を踏み入れても何もかからない。これはシンカさんの抗体が効いている証拠だ。アイツも凄いなと感心しているようだった。天馬を取り出して念のため天馬にも抗体をうってから移動をし始めた。
抗体を持った蚊をチートで量産してばら撒いていく。気持ち悪いくらいの無数の蚊が人を目掛けて降りてゆく。正直、地上に降りたくないくらいだ。
アイツは全く気にならないようで、ギルドの城を見つけてそこに降り立った。
【さて、黒幕の顔を拝むとしよう。】
前回の文章がわかりにくかったので、詫び更新しました。よろしくお願いします。