【荒れ狂う国々】
アイツは輸血された後の話を千翠さんに事細かく話した。
「…・・・だとすれば…私のあの過ちから今全ての事が起きているという事ですね。」と千翠さんは頭を抱えた。
「それは違う。真理の暴走だ。人を生かす為に残されたはずの神崎家に、アレが暴走している事自体が問題だ。目の前の死体の山に思考を持っていかれるな。今は残りの人類を救済する事だけ考えねば。」と自分の顎に手をあてる俺。
「…惜しいですね。」と千翠さん。
「ん?何がだ?」
「陽子が女である事が惜しいなと、ふと思ってしまいました。アレが一番当主に相応しいと思いませんか?」と言いながら頭を抱えるのをやめて座り直す。
「言いたい事は分かる。が、しかし。私は彼女に自由であってほしいと思っている。誰よりも・・・自由が似合うんだ。私は…今の君が、真理を制した君こそが相応しいと思っている。今この世の中にルールなんてものはない。そんなもの今は全て焼却された。私が下したからな。ルールを1から作り替える事ができる。もう一度言う。目の前の死体に対する罪悪感は今現在において、必要のない感情だ。人を殺して悪いという概念自体が現時点で消え去っている。考える必要があるのは、人類をどのようにして守るかだ。AI化された真理を倒し、ここが解放された後、神崎家全員で法の会議をする必要がある。それもこれも、これから私達がしていく事が成功したらだがな。」
「海外はどうする?」と千翠さんはため息をついた。
「私は…本当の意味で世界を統一した。武器は全て処分した。メディアも無い。海外に散らばる最古の一族と連絡をとって、ある程度の統一を図る事はできるんじゃないか?」とアイツは提案する。
「なるほど、概念の見直しと、古く硬くなってしまった私の脳の活性化が必要なようですね。わかりました。考えておきます。」
「助かる。さて、話が逸れてしまったが、私達はこれから、この世界を統一し、【RealSocialGame】自体を…携帯電話というものが恐ろしいものだと恐怖を植え付ける。それからの解放だ。」
「となりますと、便利なものへの制限をかけるような法が必要になりますね。」
「楽をすると、誰かの暴走で再びこのような悪夢が起きる。それを防ぐ必要がある。…私はこの、吉田 力 という少年の体に入って感じた事がある。非常に軟弱だと。現在の人々は楽をし過ぎて足腰が弱い。そこを鍛え直す良い機会だ。」とアイツは言った。
「会話がじじくさい!!」と強く思った事が言葉として出てしまった。
千翠さんも俺も大きな目を見開いた。
「りき?私がおじさん…ですか?」と笑顔で問う千翠さん。
「君、良い度胸だなぁ。」と俺の体で笑顔のアイツ。
「で、とりあえず、今後の事はわかりました。で、今はどうなさるおつもりですか?」と千翠さん。
「少年りきと共に、【リアル】に存在する全ての人と関わる。任務を大量に回せ、スマートに解決する。」とアイツ。
「わかりました。では、いくらか今依頼されている仕事をお渡しします。他国は…ここよりも荒れてるそうです。」と千翠さんは依頼内容のホログラム画面を出して、その内容を紙に転写して渡してくれた。
・・・・・・・
依頼主 ギルド:シュトラウス ギルド長:ヨハン
国 神聖帝国
依頼内容
近頃、砂でできたような龍が国を荒らしまくっている。何度も国システムの修復を使っても、数分も持たずに壊されてしまう。NPC達にも被害がでている。今、NPC達はギルドハウスの前で我々のギルド員がシフトを組んで交代制でNPC達を守っているが、それも長く続くまい。辛くなったらギルドを抜ける。それだけだ。既に50人近いギルド員が脱退していってしまった。
どうか、援軍を頼めないだろうか。報酬はお支払いします。
・・・・・・・
「砂の龍か。…ふむ。イベントで使おうとしてた龍だな。町に発生させたか。」とアイツは言う。流石GMというべきか。GMと1つの体を共有している俺っていったい何なんだろう。
「終わったら連絡を下さい、次の任務をメールで送信します。」と千翠さん。
「わかった。」と言って俺に体が戻ってきた。
「え?あ…失礼します。」と会釈して千翠さんの部屋を出た。回りの変化だとか様子を聞きたかったんだけどなぁ。と思えばアイツが【すまない。】と答えてくれた。
ギルドハウスを出ようと1階へ行くと、やけに人の出入りが激しい部屋があった。気になって、部屋に近づくと豊ことブショウホウが部屋からでてきた。
「りき!!!無事だったか!!」と豊に肩をガッシリ持たれた。「あー…えっとブショウホウ…?」呼び辛さに戸惑っていると「ブショウでいいぞ。」と言ってくれた。「ブショウ、ここやけに人の出入りが激しくないか?」と問えば「入ってみるか?」と言って部屋の扉をあけてくれた。
するとそこは広大な部屋で、沢山のNPCたちがテント暮らしをしていた。
「これは?」と問えば「姫さんが帰ってこないと氷の恩恵が得られなくて、この国は今、全てが浸水状態なんだ。俺らユーザーには影響はないけど、NPCには影響するらしくて、氷が溶け始めた時にギル員総出でここまで全員連れてきたんだ。人だけじゃなく動物たちもな。数か所のバトル王が今失踪して国が大変な事になってるらしいぜ。王が失踪した国だけじゃない。モンスターの被害にあいまくってる国だってある。全く、あっちもこっちもおかしな世の中になっちまったぜ。」と豊は溜息をついた。
「そうか。俺はしばらく任務に出るから…こっちの手伝いはできそうにないな。」
「今どこも荒れてて人手不足だからな。行ってやってくれ。こっちの事は任せろ。」とニカっと笑う豊。
「ありがとう。行ってくるよ。倒せない敵が出たとかならいつでも連絡してきてくれ。」
「あぁ!ちょっと待った。」と豊が俺を引き留める。
「ん?どうした?」
「どこの国の任務だ?」
「神聖帝国。」と答えれば豊はホログラム画面を出して、何か操作して「あった!」と言う。
「何があったんだ?」
「神聖帝国の直通ゲート。なぁ、どうせ馬かなんかでちまちま行くつもりだったんだろ?」
「え、うん。」
「なら、直通ゲート出すから晩餐に出席していってくれないか?」と問われて、俺はアイツにどうするか問えば【かまわん、恐らく、月子も咲もお前もシンカもいない状況であれば心細いのだろう。】
「わかった。出るよ。晩餐までここの手伝いをしていくよ。」
「お!?いいのか!?お前良い奴だなぁ~!」と豊に背中をポンポン叩かれた。
暫らく手伝いをして時間を潰して、晩餐に出席すれば中央のルナさんの席は空席でシンが何か喋りたそうにこっちに熱い視線を送ってきていた。
ギル員のみんなも「りきー!!待ってたぜー!!」という言葉がちらほら聞こえてきて嬉しくなった。
晩餐が終わった後、色んな人に「期待してるぜ!」と温かい言葉をかけてもらった。
最後にずっと待ってくれていたシンに近づいた。
「ただいまシン。ごめん。長い間あけてて。」
「ずっと眠ってるから、心配した。寂し・・・かったし。」と少し照れながら言われた。
「あぁ、うん。ごめん。しかも、これから任務でゆっくりできそうにないんだ。」
「そっか。僕もルナもシンカもいなくて忙しいから、ゆっくりはできそうにないんだ。」
「ん?シンカさんがどうしていないんだ?さっきから疑問に思ってたんだ。晩餐の料理も千年さんが作ったものだよね。」
「うん、シンカはルナより先に急に倒れたんだ。でも支障がでないように色んなデータを僕に送ってあった。最初から倒れる事が決まっていたかのように。」
「そうなのか。帰ったらまた、話そう。色々あったんだ。」
「わかった。任務だっけ。気を付けてね。」
「あぁ。」
俺は扉の横にもたれ掛かってこっちを見ている豊に近づいた。
「ごめん、遅くなって。」
「いや、晩餐にでてくれてありがとな。ギル員達のモチベも上がったみたいで助かったぜ。ほら、ゲート出すぞ。」
「ありがと。うん。俺なんかの存在でモチベ上がってくれるならお安い御用だ。」とゲートを潜ろうとすると豊に引き留められた。
「あのなぁ、俺なんかって言うな。デカイ男になるんだろう?もっと自分に自信もたねーと、お前にバトルで負けた組はメンタルキツイっての。」
「…・・・そうだな。ごめん!自信もつよ。」
「よし!いけ!友よ!」と豊は背中を押してくれた。
「行ってくる!!」と俺はゲートを潜った。
遅くなってすみません。筆をとると急激な眠気に襲われる謎な現象にあいまして…なんとか書き上げる事ができました。お楽しみください。