【フェアリー属性】
アイツの動きは見惚れるほど綺麗で鮮やかだった。
俺がどれだけ練習してもきっとアイツにはなれない…。
【私がどれだけ人と接しても君にはなれない。】
俺は…もうお前に体を渡した方が良いのかもしれない。
【私と君は一心同体でやっと人間だ。】
そういう意味だ?ちょっと言ってる意味がわからない。
・・・・・・・
目が覚めて、手をグーパーさせて体の感覚を確かめる。
結局…アイツは俺の体を奪わないのか。
「おい、ずっとベンチで寝てたみたいだけど、もう次の試合だぜ?俺とな。」と声をかけられて見上げると、スドーさんだった。
「すみません、千翠さんとの試合で疲れてしまって…。」
「まぁ、あの冥府の箱庭ぶち破ったんだもんなぁ。そりゃ疲れるよ。」
「今行きます…あれ…。」とベンチの隣に咲がいない事に気が付いた。
「どうした?」
「いや、咲がいないと思って。」
「あぁ?さっきシンカとどっか行ったぜ?」
「そうですか。」
スドーさんとの練習試合が始まった。始まってすぐにハナビに詠唱させておいて、スドーさんを見ていると大きな大剣をとりだして、大剣からピンク色の炎が出ていた。
それを軽々と振り回して、凄いスピードで俺に近づいて振り下ろしてきて、咄嗟にウォールに守ってもらった。
キーンッと音が鳴った。ウォールの盾とスドーさんの大剣がぶつかる音だ。
「っ!?…おいっ!なんだそのチート!!」と言ってスドーさんは俺と距離をとった。
その問いには答えずに、俺は目を閉じてエイボン頼りにタクトを振る。
避ける時はフゥを使った。
「なんでもありかよ…もう切れた…。あーあーぶち切れだぁっ!!」と言って大剣で自分の首を斬った。
首が飛んだと思えば、その首を持って小脇に抱えるスドーさん。一体どうなっているんだ?と気味の悪さを覚えた。
ピンク色の炎のようなオーラをスドーさんは体に纏い始めた。
ハナビの詠唱が終えるまで、ハクで攻撃を仕掛けるが攻撃がすり抜けて通らないようだった。
「不味い、魔法が効くかどうかの検証をしなければなりません。」とエイボンの声が頭に響き渡った。
フゥが一応魔法攻撃系だから試しに風の刃の攻撃をさせてみれば、避けられてしまって、全く検証ができずにいた。
スドーさんの頭は小脇に抱えられたまま物凄いスピードで此方に近寄り片手で大剣を振り下ろしてきて、ウォールが受け止めようとしたが透けしまった。
間一髪でフゥの風の力で後ろに吹き飛ばしてもらって、なんとか回避はできたけど、少しでも遅かったら絶対に当たっていた。
スドーさんの頬に切り傷ができていた。俺を避けさせるのと同時にフゥが風の刃で攻撃したようだった。
「良かった…当たった。」と安堵した。
「へぇ…お前の攻撃は魔法なんだなぁ。」と切断されて小脇に抱えられている生首が喋った。
一瞬で姿を消して、いきなり俺の目の前に現れたと思えば大剣を振り下ろしてくる。ウォールを貫通してくるのだから、防御はフゥ頼みになってくる。ハナビの詠唱が長く感じる…。
【音はどうした。】
アイツの声で俺は音避けを思い出してスドーさんの攻撃をかわした。
「チッ。」と舌打ちされた。
音を聞いて攻撃をかわして、時にはフゥに助けてもらってを繰り返しているとハナビの詠唱が終わって、マグマプールを放った。
だけど、スドーさんは倒れてくれなかった。
飲み込まれるマグマの中、俺にまだ攻撃しようと向かってくる。…これは負け…
俺は咄嗟に黒い鍵を取り出して胸にさして回した。
アイツは俺の体にスッと入って、まずはスドーさんの攻撃をスマートに避けて、それからエイボンに装備させていた太極珠を取り上げた。
そしてよくわからないマントラと図形が目の前に現れて、そのまま素早くスドーさんに近づいて首のところに拳を叩き込めば、ピンクのオーラが消えた。マグマのダメージで一瞬で塵になって試合が終わった。
体がかえってきた。俺はエイボンに太極珠を装備させなおした。
「まじかよ。太極珠まで使いこなすのかよ…。」とフル回復したスドーさんは悔しそうに地面を殴った。
マグマで俺とスドーさんしか見えない状況で、いつも通りマグマプールだけで勝ったと回りからは思われていた。
でも実際は…アイツに変わって…無理矢理勝利した。
やっぱりカッコイイな…。素早いしスマートだった。何度でも見たいと思わせる技術。
アイツの見解では、スドーさんはデュラハンの力を得てフェアリー属性に自身の全てを変換して物理無効になっていたのと、デュラハンの炎でマグマも無効になっていたから、そこをアイツは太極珠でフェアリー属性を封じるマントラと図形を瞬時に作って首に埋め込んでフェアリー属性を無効化させてマグマで焼き切るという戦略だった。
属性封印はなんとなくだけど、アイツにしかできない気がする。また難しい術の組み合わせだとかで封印してるんだろうし…社長なだけあって、全ての武器の抜け道を知っている気がする。でも純粋に…サラッとスマートな身のこなしが凄いんだ。
俺はまたベンチに座れば、スドーさんが隣に座った。
「まさか、属性封印してくるなんて…このゲームでできるやついたのかよ。まぁ二人ほど心当たりあるけど、実際にあんな速さでつけてくる奴はなかなかいねぇよ。俺にはイマイチ仕組みがわからないけどよぉ。」
「俺は首がとれて、そのまま向かってきてびっくりしました。」
「禁忌合成されて捨てられてたAIがいたんだ。俺自身がたまたまフェアリー属性に魅力を感じてて、戦闘に興味がない女子しか振ってないようなフェアリースキルに極振りしたんだ。んで、ある時パジャマクエの手伝いをしてて、人魂がさまよってるのが見えて、敵かと思って近づいたら、それは禁忌合成されて完全な妖精属性の防具にされたAIだったんだ。スキルを振ってるやつにしかわからない上に、防具に分類されてて主人を持つ事もできず、彷徨う事しかできない可哀想なAIでさぁ。拾ってみたらデュラハンの鎧っていう超レアな感じのやつで、首を斬ったら自身をフェアリー属性に変える優れものだったってわけ。」
【フェアリー属性に振れば、一味違う世界を体験する事になる。霊界でも天界でも…もちろん人間界とも違う…妖精だけの世界をな。懐かしいな。考案したのは私だ。凝りに凝った最強属性なはずだが人気がでなくてな。バグだらけのまま放置されていたはずだ。】
考案者お前かよ…しかもバグを残したまま放置って…そりゃ最強になるわ。
「その防具とは会話できたりするんですか?」と俺は気を取り直してスドーさんに問う。
「あぁ。俺の中にいる。同居人ってやつだな。防具の中でも下着に分類されてるから肌身離さず着けてるぜ。」
「汚ねぇな。ちゃんと洗っとけよ。」とスノーさんの声がした。
どうやらスノーさんとアローさんの試合が終わったようだった。
「早かったじゃねぇか。ちゃんと勝ったのか?」とスドーさん。
「あぁ?勝てるわけがないだろ。」とスノーさんは言いながら更に隣のベンチに座った。
「だよなぁ。」とスドーさん。
「千翠、ダリア、ラート、アロー、それからりきはガチガチのチートだ。」とスノーさん。
「俺、パワーアップしてるダリアさんに勝つ自信がありません…。」
「だろうな。わかるぜ。」とスドーさん。
「そういえば、スドーさんとスノーさんは戦わないんですか?」
「いや、俺達はほぼ互角だからな、同じ班の幹部は基本的に最後に当たるようになってる。戦闘時間が変に長引くし、手の内とかバレバレだしな。」とスノーさん。
「そうだったんですね。」
「お前次の対戦相手だれ?」とスドーさんに聞かれて「次はパンデミック卿ですね。」と答えればスドーさんとスノーさんが顔を俯けて「あぁ・・・。」と言う。
「え?何かあるんですか?」
「いや…まぁ…頑張れ。勝てはすると思う。お前ならな。」とスノーさん。
「え!?ちょっと怖いじゃないですか!」
「耐えろ…それだけだ。」とスドーさん。
「ちょっ…えぇ!?」
パンデミック卿の試合が丁度終わって、不安なまま次の試合が始まろうとしていた。