【神崎の真実】
これは…真理の扉だ。今回は誰になったんだ。
大きな家をピンク色のぬいぐるみを抱えて息を切らしながら小さな歩幅で走っている。全てが大きく見える…自分は子供なんだろうか。
【いつもの真理の扉だと思うか?】
またお前か…。
【お前?小僧が私に向かってお前とはな。】
これは何だ?
【真理の扉の完成品といったところだな。真理の扉をアップグレードしておいた。】
完成品?アップグレード?どういう事だ?
【流石に個人情報かと思ってな。これを自在に使えてしまえば現実世界で色々と問題になるか思って没にした機能を戻して、更なる個人情報を見る事ができる。】
どうしてそれを今更俺に…。
【君が全てを知っていってどういう選択をするか少し気になってしまってね。まぁ、死後の娯楽とでも思ってくれ。】
走っていた自分は足を止めて扉を開いた。
「ママ!」と声を発した。少年の声。
ママと呼ばれた人は少年の頬をパシンッと叩いた。
「ママ…?」と震えた少年の声。
「どうして…どうして…どうして…。」とポタポタ涙を流す母親。
「……どうして?」と少年。
「どうしてパパを殺しちゃったの…。」と泣き崩れる母親。
「僕が殺しちゃったの?」と少年は震えて今にも消えそうな声で母親に問う。
「そうよ………どうして…どうして殺したの!!答えて!!」と金切声で叫ぶ母親。
「僕……僕………アイツは当主に相応しくないからだ。要らない血は排除すべき。」と少年の声が低くなった。
今…完全に別の人の情報が頭に来た。さっきまで少年の記憶が頭に入っていた。優しい母と優しすぎる父親の元に生まれた優しい記憶。
でも今は…これは真理だ。人類の道しるべ…管理…倫理…社会の在り方。宗教の必要性…。
少年の父親は神崎家当主だった。とても優しい顔…温かくて優しい声。神崎家の解散を目論んでいた。誰よりも自由を求めていた。だから殺した。
神崎は人類の道標であらねばならん。神崎はその為に存在する。
少年の声に少し聞き覚えがあった。…父親の姿を思い出して誰だかわかってしまった。
この記憶は…東屋さんの現実世界の記憶だ。
東屋さんの【リアル】での姿は…自分の父親に似せたものだった。
でもなんだ…東屋さんの中に入っていると声が…4つ聞こえる…。東屋さんを数にいれると5人の声が聞こえる。こんな中で生きてたら気が狂ってしまいそうだ。
【既にお前の頭の中には私がいるじゃないか。】
そうだった。お前がいたんだった。
【私が4人いると思えば良いだろう。】
やっぱり気が狂うよ。
父親を殺した人格を叱る声、東屋さんを守る声、父親を殺した人、東屋さんを罵る声…こんな中状態で日常生活なんてできるはずがない。
でも東屋さんは普通だった。その声が聞こえていないかのように適切に使い分けていた。
東屋さんの日常は、必要な場面で必要な人格を出して全てをやり遂げていた。
でも父親を殺してしまって、母を泣かせてしまってから部屋に籠ってゲームばかりするようになった。
使用人の人が学校へ連れて行こうとすると、父親を殺した時のように殺すぞと脅し引きこもった。
いつも部屋に前に置かれていたご飯が置かれなくった。
それでも良いやと思った。父と一緒に死のうと心のどこかで思っていた。
腹の減りも頭が痛いのとか…吐きそうだったり全て感じなくなった。麻酔でも打たれたかのように何も感じない。
電気が止まった。トイレを流す時に出てくる水道を飲んで生きていたが、水も止まった。トイレのタンクに溜まっていた水で口の中を潤した。そこまでしてしまう自分が嫌で自分を刺したかった。でもそんな力も入らない。
部屋の扉の前には誰も入ってこれないように椅子やら机が置かれていて、どかさないと外へ出られない…もう数日何も食べていなくて、本当に力がでない…最後の力を振り絞って布団の中に入った。
このまま…死んでしまおう…。パパ……今逝くよ。
そうして目を閉じた。
しかし目が開いてしまった。見知らぬ白い天井…点滴が見えた。
病院だ…誰か来たんだ…。
死にたいと思っていたのに涙が沢山でた。悲しいわけでもない、助かって安堵したわけでもない。
どうして涙が止まらないのかわからない。自分の中の誰かが泣いているんだろうか?
「目が…覚めたようだな。」
この声には聞き覚えしかなかった。千翠さんの声だ。少し若い気がする。
目がぼやけている。顔を横に向けて声の主を見ようとした。
若い頃の千翠さんか?目と髪型が一緒だ。間違えなく千翠さんだろう。
「父親を殺してくれた奴と変われるか?」と千翠さんが言えば東屋さんの頭の中がぐちゃぐちゃと動くような感覚になった。
「千翠か。」と東屋さん。
「良く神崎東宮を殺してくれました。お礼を言いたくて。ありがとうございます。」
「何、大した事はしてない。神崎の男系が情けない。東宮の血を引いてる体なせいか餓死を選ぼうとした。情けない。命を救ってくれたんだろう?此方こそ礼を言いたい。」
「貴方のおかげで無事に神崎家当主に就任致しました。神崎家の純血は東宮のせいで激減しましたからね。」
「長きにわたり、寿命を延ばし、神崎家以外の者との結婚を認め、神崎家の外に出る事を許し…純血を減らした罪は重い。」
「そうですね。おっしゃる通りです。私の中の貴方も同じ事を仰っております。」とニコリと作り笑いをする千翠さん。
「お、俺は…間違ってない?」と急に東屋さん本人に戻った。
「はい。勿論です。」と千翠さん。
「でも…もう勝手に人を殺すのは嫌なんだ。」と東屋さん。
「これからの事ですが、私が君の家を用意し、使用人も付けます。これからの生活を保障します。私が当主の間は…ですが。」と千翠さん。
「……当主じゃないって事は死んでる事になる。」と東屋さん。でもその言葉は東屋さんの中の誰かが出した答えだった。
「良くご理解なさっていますね。」と千翠さん。
千翠さんの言葉は自分の中の4人を良くコントロールできているなという意味だった。それも東屋さんの中の誰かが東屋さんに教えていた。
次に瞬きすると社長室に俺は立っていた。俺自身の体に戻っていた。
「どうだった?」と社長。
「訳がわからない。自分の中に別の人が共存してるなんて…訳が分からない。」
「それが神崎だ。男系血統の神崎は自信の体に4人格を宿す。それはヒトを作った4人の神だ。神とは地球外生命体を指すがな。」
「男系と女系はどう違うんだ?」
「アダムとイヴは知っているか?創世記によるエデンの園で神によって創造されたアダム、アダムの肋骨から作り出されたイヴ。アダムとイヴは禁忌を犯し、神により追放された。この話は神崎の祖を表している可能性が高いと私は思っている。今からその話をしよう。ヒトを創造した4人の神がいた。最初に作ったオスのヒト、名をアダムとしよう、アダムには全ての知識があった。4人の神の知恵を全てコピーされて埋め込まれていた。次に作ったメスのヒト、名をイヴとしよう、イヴには強靭な肉体を授けた。次のヒトを作る過程でどうしても男性には知識を女性には肉体を授けるしかなかった。そうして合わさった子は最強の子となった。最強の子はヒトを導き助ける為に生まれた。神が先に作った子…それが現在日本を拠点とし神崎として残っている。作った…というのは、もちろん科学的にだが…ん?固まってどうした。」
「言ってる事が大きすぎて…正直理解に苦しんでいる。地球外生命体?…アダムとイヴ?…何がどうなってるんだ?」
「ふむ。仕方がない、今日はここまでとしよう。」と社長がパチンと指を鳴らした。
目を開くと俺は【リアル】の中で朝を迎えていた。