【東屋大ピンチ。】
「さて、問題は誰を感染させたままにして残すか…ですね。今後の研究の為に。」と千翠さんがアゴに手をあてて考える。
「一番火力の低い奴を当てれば良いだろ。」とラートさん。
「いやいや、そんな可哀想な事できません。」とShiftさんが立ち上がった。なんだかいつもと口調が違う。
「…何か考えがあるのか?」とラートさんはShiftさんを睨んだ。
「えぇ、えぇ。ありますとも、沢山の部下達の為に幹部自ら感染するのです。丁度俺の隣に、全く身動きせず、仕事をする優秀な幹部 東屋 君がいます。彼なら感染してヒーラー一人つけて置けば、動く事なく重要な仕事もこなせる…彼ほどの敵役はいないでしょう!!それに!どんな苦痛が伴っても彼は神崎の血筋…必ずやり遂げる事でしょう。」と大げさな身振り手振りで提案するShiftさん。
それには皆が納得せざる終えなかった。
東屋さんは手の指を4本くらい加えてガチガチと震えていた。
「じゃ!決まり!!!」とルナさん。
Shiftさんがキングとクイーンの絵柄のトランプカードを2枚手品のようにどこからか手にして、指で弾いて宙へ浮かせば、その2枚は東屋さんの腕に張り付いた。
「ひぃぃっ!!」と東屋さんが悲鳴をあげる。
Shift「クローバー。」と呟けばカードから蔓がでてきて東屋さんを縛る。
「辞めてやる。こんなギルド辞めてやる。」
「辞めてどうするのです?結局ここで頑張らないと、どの道待つのは…死ですよ。」と千翠さんが言う。
「うぅ…あんまりだ。」と東屋さんは涙する。
コンコンと会議室のドアをノックする音が聞こえた。
「入りなさい。」と千翠さんが言えば、ドアが開いて澪さんが現れた。
「東屋さん、お迎えに上がりました!」と澪さん。
東屋さんは「呪ってやる!!」と叫びながら無事澪さんに連行されて会議室を出て行った。
「さて、 りきのバリアは感染を通すのかどうかの実験もしたいな。」とShiftさん。
「試されてこい。」とスノーさん。
「なっ!?……えぇ…。理不尽だ。」
少し東屋さんの気持ちを理解した気がした。
「護、ついてやれ。咲は知恵を借りたいから残ってくれ。」とラートさん。
「わかりました。」と護。
「わかった。」と咲。
俺は護と一緒に会議室を出た。
一応すぐにウォールを出して、被さってもらった。
地下牢に着くと「いやだぁぁぁぁぁ~~!!!」と東屋さんの声が聞こえてきた。
地下牢に医務室と看板が出ていて、そこに入ってみればギルさんが東屋さんの腕を抑えていた。
「いやだ!!感染したくない!!いやだ!!!」とジタバタと抵抗していた。
「大人気ないですよ。」とギルさん。
東屋さんを無理やり患者に近づければ【疫病潜伏】という名前のデバフがついた。
「終わった…終わってしまった…。知っていますか?俺…闇属性のプロなんですよ。えぇ。」と東屋さん。
「知っていますよ。死にはしないみたいなんで大丈夫ですよ。」とギルさん。
「あ!りきさん!」
「こんにちは。俺が感染するかどうかチェックしてこいとの事で…。」
感染者はスノー班の人だった。見た事はないけど、今はベッドで眠っていた。
近づいて手を握ってみた。
東屋さんは近づいただけで感染したけど、俺は【疫病潜伏】のデバフがつかなかった。
「流石だね。状態異常耐性もあるんだ。」とギルさん。
「そうみたいですね。」
ピコンッと音と共にメールが届いたと小さなホログラム画面がうつって直ぐに消えた。
ホログラム画面を出してメールの内容を確認してみると【シンカ:厨房で待ってます。】とシンカさんからだった。
「あ、シンカさんに呼ばれたんで行ってきます。」
俺はうるうるした瞳でこっちを見てくる東屋さんをスルーして厨房に向かった。
シンカさんが愛用している厨房にはシンカさん以外に10人ほどいて、薬を調合したり、薬草を磨り潰したりと忙しそうに動いていた。
「あのー…失礼します。」と声をかければ本を見ていたシンカさんが顔をあげた。
「あ、やっと来た。」とシンカさん。
「どうしました?」
「今デバフ解除の薬を開発しているのと、裏技で疫病の原因が大体検討がついたので、それに対しての対策方法を絶賛研究中なんですけど、お手伝いしてもらっても良いですか?」とシンカさん。
断っても断れないように脅されそうだし、ここは素直に受けておくか。
「はい。俺でよければ。」
「助かります。ではこの石をギルドハウスの頂上にある庭園の噴水の上に設置してきてください。」と電球色に輝く丸い水晶玉のような石を渡された。
「頂上?わかりました。」
「どうせ隅々までギルドハウスを練り歩いた事ないでしょうからMAPをどうぞ。」とシンカさんからMAPのデータが送られてきた。
「ありがとうございます。じゃあ行ってきます。」
「終わったら、その場で電話をください。次のお使いを伝えるんで。」
「わかりました。」
厨房を出て、ギルドの中央へ向かった。
「結構上のほうですね。」と護。
「あぁ、行った事がないからゲートが出せないのもあるけど、確か最上階は会議室やら、秘密の研究室やら色々あるからゲート禁止区域になってる。歩いていくしかないか。」
「歩いて行ってたらとんでもなく時間がかかります。飛んで行きましょう。」と護に言われて、ガシっと腕を掴まれて、ジェットコースター並みの速さで移動する。
目的地についた頃には体が並行を保てなくてヨロヨロする。
「MAPが無かったら迷子になってました。」と護。
「あの速さでMAPまで見てたのか。」と言えばニコリと微笑む護。
目的地のドアを開けると中は天井から日光が射しこむ美しい庭園だった。草花がとても綺麗で中央に噴水がある。こんなに綺麗な場所なのに普段誰もここへ近寄れないなんて…。でも噴水の水に黒いモヤがかかっていた。
噴水の上には丁度預かった石がハマりそうな台座があって、そこに水を被りながら、なんとか石を嵌めた。
すると黒いモヤがゆっくりと消えていった。
噴水から離れてシンカさんに電話をかけて、報告すれば次はギルドハウスを出てアトランティスの最南端へ行ってほしいと言われて、一度ゲートでギルドハウス入り口に移動して護にアトランティスの最南端に運んでもらった。
最南端は川が流れていた。黒いモヤがかかっていた。
「MAPを見た感じ、アトランティスをぐるっと水が囲んでいるようですね、その水はギルドハウスから流れてきてるみたいですけど。」と護。
「ギルドハウスから?じゃあさっきの頂上の噴水の水がここまでくるって事か?」
「恐らく。」
到着した事をシンカさんにメールで伝えると、そのまま黒いモヤが無くなるまで待機と言われて、椅子を取り出して川を眺めた。
良く見ると川には魚や虫やと色々いた。
「現実世界みたいだ…。」
「何がですか?」
「うん?川に色んな生物が住んでるところがさ、現実世界と変わりないなって思って。」
「へぇ…。」
川を眺めていると溜まっていた疲労バフが消えた。
「あれ?疲労バフが消えた。」
「あぁ、川の流れる音…ですかね。 こうした水の流れる音には【1/fゆらぎ】って呼ばれる人の心をリラックスさせる効果を持つ波形が含まれているらしいので、似せて疲労バフを消す効果をつけたんでしょうね。」
「なるほど。この世界は…恐ろしいくらい【リアル】だ。」
「噂ですけど、社長は不老不死の世界が欲しくて、この世界を作ったらしいですよ。」
「へぇ…。」
そんな簡単な話じゃなさそうだ。俺が社長から感じた【リアル】は…もっと…複雑なものだった。