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RealSocialGame  作者: 無月公主
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【片手剣【ソル】】

俺は目が覚めた。


レイさんの気持ちが入ってきて涙が流れた。

それはとてもドロドロしていたけれども、敬愛や憧れも感じた。

一刻も早く…復帰される事を願います…レイさん。


起きた後、俺は咲と護、それと朝食を運んできてくれたシンにレイさんの事を話した。少し重い空気に包まれていた。

そんな時、コンコンと部屋をノックされたから出てみるとギルデバルドさんが立っていた。

「え!?ギルさん?どうしたんですか?」

「我が王からの通達でね。君のAIに俺の片手剣を貸してみろって。練習場にダリアさんが待ってる。」

強制イベントみたいなものか、俺達は練習場に移動した。俺達は観客席に座って、咲とダリアさんは練習場に立った。


咲はギルさんに片手剣【ソル】を貸してもらっていた。


「久しぶりだね。」と咲は【ソル】にそっと語りかけた。

すると【ソル】は細くレイピアのような形になって柄のところに透けた小さな羽が生えた。

「そんなっ…。」とギルさんが驚く。


「カウントを頼む。」とダリアさんが俺の顔を見て言う。

「最後ゼロで行きます。3・2・1・ゼロ!!」とカウントすれば物凄い速さでぶつかり合う二人。


血色さんの呪いを【ソル】は吸収していた。

咲の動きが凄く早かった。今まで常に真顔だったダリアさん、でも今はギラギラした目をして歯を見せて笑っている。これでもかというくらいに楽しそうだった。ダリアさんは右手にちいろさん、左手にはミズホさんを刀にして装備していた。

こんな楽しそうな咲も、こんなダリアさんも見た事がなかった。


「はじめてだ。」


「はじめてだ。」と言った声の主は千翠さんだった。いつの間にか俺の後ろに座っていた。

「…千翠さん。驚きました。いつの間に…。」

千翠さんはジッと真剣に試合を見ている。


観客席のホログラムモニターはとても優秀で、目で追いつかないシーンも追いつけるようにして見せてくれる。それなのに遅延0だ。ちゃんと見られるようにされている。【リアル】の中でしか成し得ない事だな。


咲の剣の使い方が尋常じゃなかった。突きが速い、元々片手剣使いだったんだろうか?

そういえば…咲は片手剣スキルにポイントを振っていた。片手剣なんていつ使うんだろうと思ってたけど、昔はもともと【ソル】を使っていたから片手剣捌きに自信があったんだな。


俺は素人だけど、咲が踏むステップだったり技だったり、とても正確で美しく見えた。

ダリアさんは傷が増えてきて、所々血の呪いによる酸で傷が溶けて煙が上がっていた。

咲も傷口から煙が上がっていた。

ちいろさんの血の呪い。結構なギリギリの戦いをしているのにアキさんを使わない事に不思議になってきた。ダリアさんはヤバイ時絶対にアキさんを使う。

「ダリアさん、どうしてアキさんを使わないんでしょうか。」

「アキを使えば、【ソル】に吸収されて、負けるからだろうねぇ。」とギルさん。

「負ける…?」

「現時点でダリアの体力の方が減っている。つまりダリアが負けているという事、ここで勝つにはダリアがいきなり成長して咲よりも、もっと早く素早く動けるようになるしかない。アキを使えば、成長する暇もなくあっという間に体力を削りきられてしまうだろうからな。」と突然ラートさんの声が聞こえて振り返れば、千翠さんの隣にラートさんが足を組んで座っていた。

「ラ、ラートさん!?いつの間に…。」

「千翠に確認の連絡をしたが遅いから来てみた。ダリアが手こずる相手なんてそうそういない。目が離せないんだろうな。」とラートさん。


その後も激しいぶつかりがあって、勝負は咲の勝ちだった。

俺達は席を立って練習場に降りた。

お互い血でドロドロだったけど、試合が終わってすぐに元通りになった。

咲はギルさんに元通りのカタチになった片手剣を返す。

「…どうやって、あのカタチに?」と薄っすら笑うギルさん。

「ん?この子はね…生きてるの…。色んなカタチになってくれる子だよ。矛盾シリーズみたいなものかな。」と咲。

「もしかして…人が使われてるのかな?」

「うん…そうだよ。だから、大切にしてあげて。」

「大切にって…この世界じゃどうする事もできなくない?」

「それがギルの弱さだよ。」と咲はギルさんの目を真っすぐ見つめた。

咲はくるっと向き直って、次はダリアさんを見る。

「ダリア、ありがとう。ダリアでないと私、【ソル】を使えなかった。」

「俺も久しぶりに本気をだせた。ありがとう。」とダリアさんが笑う。

「社長!!!プロジェクトの確認はどうなりましたか!?」とアローさんが走ってラートさんのところへ来た。

「あ。忘れてた。千翠、報告書確認してくれ。」とラートさん。

「あ、忘れてました。確認します。」と千翠さん。


ダリアさんは練習場を去って行った。

ギルさんは片手剣を見つめたまま固まっていた。

「りき、僕もちょっと今の試合、ルナに見せたいから帰るよ。」とシン。

「あ、うん。」

「りき、私たちも帰ろう?」と咲が言ったので、俺は頷いた。俺と護と咲は自室に戻った。


「あの片手剣、人だったんだ。」

「正確には試作品っていうか…矛盾シリーズが完成する前のものでね。もう中の人はいないんだけど、中にいた人を模した完成度の高いAIは残ってるから。人と変わりないよ。」と咲。

「情を持つAIですか。」と護。

「そう、ヒトのコピーAIって基本的に情が薄いけど、極まれに…ちゃんと情が作動するAIが完成する。そのAIがあの片手剣に宿ってた。宿ってないとカタチを変えられないからね。」と咲。

「そうなのか。」


その後は、ダリアさんと咲の試合の録画を、色々と説明してもらいながら見た。


夜になって晩餐が終わって、俺は一人で廊下を歩いていた。

そういえば…レイさんの記憶に白い薔薇が咲く庭があった…確か…。自室とはまた別の方向に歩いて階段を上って廊下を進めば白い薔薇が咲く庭が見えた。薔薇はただ咲いているだけじゃなかった、薄っすら白く光っていた。それから白い小さな小さなホワホワした光が庭園を照らしていた。雪に光源がついているような感じだった。


入って行くと中央にギルさんが片手剣をジっと見つめて立っていた。

「ギルさん。」

「やぁ。」と口元だけ微笑むギルさん。

「ここお気に入りスポットですか?」

「ん?ここにくるのは初めてだよ。」とギルさん。

それは嘘だ。俺にはわかる。だけど、ここはあえて言わないでおこうとおもった。

「そうですか。キレイですね。ここ。」

「大切にって…どうすれば良いと思う?」と俺の言葉を無視して聞いてくるギルさん。心なしか少し暗い表情をしていた。

「大切に…ですか。…………あぁ。リリアさんだと思えば良いんじゃないですか?その片手剣。」

「リリアちゃん…だと?」

「だって、リリアさんを見る時のギルさん幸せそうですし、それにとても大切にしてる感じが伝わってきますから。」

咲が言っていた「大切に」は心を大切にと言っていた。俺は真理の扉でギルさんを覗いてるから、ギルさんが普段どういう感情を持って過ごしているかとかが分かっていた。だからこそ、ギルさんに足りてない部分も分かりやすい。


ギルさんは目を瞑って片手剣を握りしめた。

「【ソル】」と呟いた。それはリリアさんを呼ぶときのような優しさが感じられた。

するとバサァっと柄の所に、咲がカタチを変えた時とまた違ったツバサが片翼だけ生えた。

片手剣は柄の部分が変形して少しだけ長くなった。

「…できた。」とかなり驚くギルさん。

「大切にできたんですね。」

「ほんとは…本当は…ここは俺が作った庭なんだ。」

「え?」

「リリアちゃんが喜ぶと思ってね。嘘をついていると…【ソル】が怒りそうな気がしてね。」

「あぁ。ここ本当に綺麗ですよ。どことなくリリアさんに似てる気がします。」

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