【キングアズレイ】
ザザザ…ザザザザ…と砂嵐のような…ラジオが壊れたようなノイズ音が聞こえる。
ドラマに出てくるような社長室にパソコンが一台おかれていて、40代後半から50代くらいの見た目の渋い系の男性がフカフカそうな椅子に座って、カタカタとキーボードの音を鳴らしながらパソコンに何かを打ち込んでいた。
「来たか。」と言って手を止めて俺を見る男性。男性は間違えなく俺を見ていた。
俺は誰だ?キングアズレイさんの過去を見ようと寝たはずだから…きっと…。
俺は自分の手を見た。自分の手だった。いつもの真理の扉なら自分の手を動かす事もできない。
心臓がドクンッと鳴った気がした。生唾を飲んだ。
「どうした?今日は頑張っている君にプレゼントをあげようと招待したんだ。」
何故か震えが止まらない。
「どうしたんだ。緊張しているのかね?」
「お…お前は…。」
「お前とは随分嫌われてしまっているようだ。何もしていないのに。」
「何もしていない…だと?お前はムーンバミューダ社社長…だろう?」
「あぁ、そうだった。」
「そうだった?」
「随分と前に、ムーンバミューダ社は乗っ取られてしまってねぇ。私の脳をコピーしたAIにね。」
「なんだって!?」
「何度かアクセス権限を戻そうとしているが、上手くいかなくてね。私が神崎の血筋であれば…可能だったかもしれないがね。何故か君にだけ、こうして時々コンタクトをとる事ができるのだよ。」
「……貴方のせいで、貴方が作ったAIのせいで、今、多くの人が死んでいます。多くの人が従来の生活スタイルを奪われて…大事な人も…失って…。」
社長はパチンと指を鳴らした。
「それは悪い事なのか?」
「え?」
「それは悪い事なのかと聞いている。」
「当たり前です。沢山の人が…悲しんでいる。」
「ではこう問おう。明るい未来の道と暗い未来の道があったとしよう。人類は暗い未来の道へ進もうとしていた。そこを私が塞き止めたとして、道が無くなって悲しむ人が沢山でてきた。それは悪い事なのか?」
悪い…事…じゃない?
【いいえ、悪い事じゃないとしても…例えそれが悪い事でなくとも…それを独裁的に操作しようとする事は許されるべき事ではありません。】と咲の声が聞こえた。
「チッ…。時間がない。コレを君にプレゼントしよう。」と言って社長は俺に黒い鍵を渡してきた。
勝手に体が動いて受け取ってしまった。
「なんだ…これは。」
「力が欲しくなったら自分の胸に刺せ。力を与えてやろう。絶対的な力だ。」
「絶対的な…。」
ザザザ…ザザ…ザザ・・・・
ノイズと共に視界も砂嵐になって、今度は翼のマークのタペストリーが飾られている広い部屋に立っていた。視界の先には天使のパジャマを着たラートさんと、その隣にはアローさんが立っていた。
「難易度の高い試験通過ご苦労。ようこそ、我が班へ。」とラートさん。
ラートさんの前に自分以外にも数十人立っていた。「そこはビシっと敬礼してくれ。」とラートさんが言うと全員ビシっと敬礼した。「いやいや、揃ってない。もう一回。」と敬礼が揃うまで、やり直しさせられた。
「さて、早速だが明日から序列選定を行う。各自練習場で試合し、アローに報告するように。全員とあたれるように予定を組んでおいた。何か用事がある奴は俺に報告するように。以上。」とラートさんが言い終わって、アローさんがビシっと敬礼すれば、全員ビシッと敬礼をキメた。
「よろしい。では解散。」
自分は…キングアズレイだ。
最初の序列選定では誰にも負けなかった。…ただ一人を除いて。
先に入った先輩も…同期も全て倒した。…ただ一人を除いて。
ザザっとノイズと砂嵐がはいると練習場に場面が変わって、自分は膝をついていた。
目の前にはギルデバルドさんがいて、自分の首目掛けて片手剣が突き刺さって試合が終わった。
驚いた。まさか自分を倒せる人がいるなんて…。
自分はフェンシングの金メダリストで…数々の試合に優勝して…その賞金全てを【リアル】につぎ込んだ。
そうして強い武器や防具を手に入れて、誰よりもスコアをつけて生きてきたのに…あっさりと負かされてしまった。それはまるで…自分のフェンシング人生を否定されたかのような気分だった。
ラートさんやアローさんは頂点と言ってよいほど大手の社長と副社長だから、神に近いくらいの武器を持っていて勝てないのは納得がいく。
だけど…このギルデバルド…防具はクエスト品。片手剣は謎の合成武器。
そして…憂いを帯びた表情。【リアル】の中は基本的にイケメンや美女しかいない。そのせいか…心がときめいた。
場面が変わって、荒れ地でモンスターに囲まれていた。
クエストや任務はギルデバルドと一緒になる事が多かった。
「レイちゃん、俺は前をやるから、後ろ。片付けておいて。」
「あぁ。」
本名がレイだから、レイと読んでくれる事でさらに心が躍った。
現実世界はどんな人なんだろうか。等と考えるようになっていった。
モンスター片付けて、クエストをクリアして地面に二人で座った。
「ギル、聞いてもいいか?」
「ん?」
「答えたくなかったら答えなくていい。…強さの秘密を知りたくてな。現実世界ではどこかの社長か?」
「レイちゃんは勉強熱心だねぇ。俺なんて何にも興味もてないよ。俺は…凄くお金持ちの家の子で、家の財産全部盗んで逃げて…今は公園で寝泊まりして公園から接続中。」
「は!?Σ」
「ウソウソ。レイちゃん真面目だから本気にしちゃったかな?」と笑うギルデバルド。
「答える気がないなら、答えたくないと言え。」
「はははー。」と笑うが、目が笑っていないギル。
でも、そんなギルが愛おしかった。
ザザっとノイズが入って、ギルドハウス内の白い薔薇の庭園に人影が見えて誰がいるのか見て見ればギルデバルドと最近入ったスノー班の新人リリアだった。
「どう?気に入った?」と微笑むギル。
「はいなのです!!こんな綺麗なところもあるんですね!!」と目を輝かせるリリア。
「良かった。」とニコリと笑うギル。…目が…目が…………これでもかというくらいに暖かく優しい。こんなギル…見た事がない。見た事がない!!!!
「ギル君は…現実世界では何をしてる人なんですか?」
「ん?俺?リリアちゃんが教えてくれたら教えるよ。ゲームの中で現実世界の事を聞くのは一応マナー違反だからね。」
「え?あっ!!ごめんなさい。でも…ちょっと気になってしまって。」
「俺は構わないよ?リリアちゃんの事が聞けるなら喜んでいうよ。」
「わっ私は、弁護士…です。」
「ぶふっΣ」
「なっ!!ほっほんとです!信じてください!!!」
「信じるよ。そっか。だから暗記ゲーの魔法が得意なんだ。」
「ギ、ギル君は何をしてる人ですか?」
「ん?俺はねぇ。航空機操縦士って言ったらわかるかな?」
「パイロットさん!!」
「そう、数年パイロットしてたんだけど、実家がうるさくて、今は辞めて実家で家業の旅館の手伝いさ。」とペラペラ語るギルデバルド。
走って自室に入った。そしてベッドで涙を流した。
次の序列選定、前回の序列選定でギルデバルドはアローさんと相打ちして引き分けになっていた。今回はギルデバルドが勝つのではないかと、ラートさんもアローさんを副幹部にして、ギルさんを幹部にしようとしていた矢先…ギルデバルドは誰がみてもわかるくらいに手を抜いてアローさんに負けた。
その後、ラートさんにも呼び出しを食らっていた。彼の序列は変わらず3位。
軽々と私を倒す…。以前と違う眼差しで…。
返して…‥‥返して………返して!!!
私の…強くて…クールで…どこか憂いを帯びた表情をしていた…最高にカッコイイ…ギルデバルドを…。