【仕組まれた二人。】
「お前はミルフィオレの恥だ。」という男性の声が頭に響いた。
ぐにゃぐにゃの視界が段々とはっきりと見えるようになってきた。
「お前はミルフィオレの恥だ。」ともう一度聞こえた。そう言った男性はスノーさんだった。
俺はリリアさんの中に入る事に成功したようだ。記憶を辿れば自分はグズで出来損ないの魔法使いだと自分を卑下するような記憶がいくつかあった。難易度の高いクエストで大事なところになると失敗する。「外に出たら確実にペナルティになるから出ない方がいいよ?」とギルデバルドに言われたり等、散々だった。
時間が巻き戻るような音がして場面が変わって、初心者学校に自分がいた。
「君、ここに入らない?」とギルさんが招待状を渡してきた。
「ここはほとんどが日本人で構成されているギルドですね。少数精鋭と聞いてます。」と無表情で淡々と喋るリリアさん。
「うん。君は成績も良いし日本人だし、きっとすぐ打ち解けると思うよ。どうかな?」とニコリと微笑むギルさん。
この時のリリアさんは自信に溢れていた。初心者学校では、1番に成績が良くて長文詠唱も噛まずに唱えられる優秀なユーザーだったようだ。
「一度抜ければ二度と戻れない…でしたよね。」
「うん。選び抜かれた人のみ残っていくよ。」
そして招待状を受け取る自分。
時間が進み、ミスをしまくるシーンが沢山通り過ぎてゆく。
そのいくつものシーンで気づいたのは…リリアさんの後ろには絶対にギルさんがいるという事。
それからリリアさんがギルさんに妨害されているのを分かっていた事。
優秀なリリアさんはしっかりログを確認しているし、ギルさんに隠れてバトルをこなしたり、ソロでクエストをクリアしたりしていた。
そして真っ暗な空間になった。
「貴方と一緒にいられるなら…これでも良い。」というリリアさんの声が頭に響いた。
場面が変わった。今度はギルドハウス内の厨房だった。
目の前にはシンカさんがいた。
「貴女ほどの魔法の使い手が…どうしてミスばかりするのか此方で調べてみたところ、ラート班ギルデバルドの仕業という事が判明しました。」
「……。」リリアさんは無表情だ。
「知ってたようですね。」とシンカさん。
「なっ、なっ、なんのことなのです!?ギル君が?え?」とあたふたするリリアさん。
「残念ですが、初心者学校の同期の方からの話と戦闘訓練動画を見た結果、貴女は自分を隠していますね?これ以上嘘をつくと、排除対象になります。それから…ギルデバルドと関われないように裏で手を回して…。」
「そうです。隠していました。全て知ってしまっていたから…。」
「お気持ちは良くわかりますので、近々クエストへ行ってもらいます。そこで何らかの形でケジメをつけてください。もう失敗は…許されません。この意味…わかります?」とニコッと笑うシンカさん。
瞬きすれば、目の前に護がいた。
「リリアさんは全部わかってた。シンカさんに注意もされてた。今回のクエストは…半分仕組まれたものだった。」
「そうでしたか。では次、ギルさんの方を。」
俺は頷いてから目を閉じてギルさんを思い浮かべた。
《絶対に君を俺のモノにする。》そういう強い意志と感情が流れて来た。
視界が初心者学校になった。
窓の外の魔法練習で上級詠唱を完全暗唱して正確な魔法を放っているリリアさんがいた。
その凛々しさと落ち着いた表情、それからクールな振る舞いに完全に心を持っていかれた。
君こそ…我がギルドに相応しい!!!と最初は思った…でも、同時に君を自分だけのモノにしたくてたまらなかった。部屋に閉じ込めてしまいたい…。そんな事したって…ミルフィオレで役に立てないやつは追い出されてしまう。
彼女の活躍をたくさん阻止してきた。追い出される寸前まで…何度も何度も…次第に自信を無くして俺に依存しだす彼女も最高だった。
視界が歪んで厨房になった。
目の前にはシンカさんがいた。
「ギル、自分が言いたい事…わかっていますよね?」と鋭い目つきをするシンカさん。
「はい、俺の調査に何人かきてましたね。すぐに調査だと気づきました。」とニコリと微笑むギルさん。
「次のクエストで…より自然に彼女を解放してください。」
「これは…世界樹のクエストですね。」
「はい、ここに悪質なギルドが溜まっています。それらを掃除してきてください。」
「この俺が…低ランクの任務…か。ここまで落ちていたのですね。俺は。」と俯きながら苦笑いをする。
「今後のご活躍を期待しています。」と爽やかに微笑むシンカさん。
俺は目が覚めた。
「裏でシンカさんに…二人とも依頼をだされていた。」
「完全に踊らされたクエストってわけですね。」
「うん、世界樹のクエストに溜まってたユグドラシルの人を一掃する事が本当の任務だったみたい。まぁ、でもあの二人は両想いでどちらも思いを告げれずにいたから、良いキッカケにはなったようで良かったんじゃないかな。」
「りきがそういうなら…シンカさんにいちいち踊らされてるのは癪に障りますが…。」と怒り筋をたてる護。
「まぁまぁ。一見落着ってとこかな。」
次の日、二人の結婚式イベントが行われた。
リリアさんの様子がいつもと違った。凛々しい顔をしていた。ギルさんは始終ニコニコしていたけれど。まぁ、結ばれて良かった…のかな?
その日の晩餐。
ルナさんが立ち上がって「皆に報告する事があります。雪結晶班のリリアは本日をもちましてラート班へ移動となります。以上。」とルナさんが席に座った。
次にラートさんが立ち上がった。
「えー、翼班、明日再度序列選定を行います。早朝8時より練習場へ。見学者は邪魔にならないように8時までに観客席へ。以上。」と言ってラートさんは座った。
晩餐の席がざわつき始めた。
今日の晩餐はリリアさんとギルさんは欠席しているようだ。
晩餐が終われば、皆明日の選定を一緒に見に行く約束をしている人たちが広間に残っていた。
「りき。」と声をかけられて振り返るとシンだった。
「シン、どうした?」
「明日の選定一緒にどうかなって。」
「良かった、俺一人で行っても絶対わけわかんないから助かるよ。」
「じゃあ、明日7時にいつも通り、朝食もって部屋に行くよ。」
「うん。」
「あれ?そういえばAIの二人は?」
「護は子供たちの様子を見に行ってくれてる。咲は東屋さんのところかな。」
「ふーん。とりあえず部屋まで行こうか。」
「あ、うん。」
俺とシンは自室に向かって歩き出した。
「東屋さんって、また珍しいね。」
「あぁ、えっとちょっと前に結界の作り方を教えてもらってて、それの相談だってさ。」
「へぇ。僕も一応結界は張れるけど、難しくって弱いんだよね。」
「計算のぶつけ合いって言ってたなぁ。そういえば、選定って何をするんだ?」
「ひたすら1対1のAIありで全員と対戦するだけ。今の序列1位~10位までの人の戦闘をメインで見ておくと良いよ。観客席は全ての練習場をホログラム画面で見られるからね。練習場も人が増えたから増設されてるし。」
「ヴァルプルギス前に入った新人達結構残ったんだな。」
「うん、スパイとかも結構混じってたけど、なんとかね。完全黒い奴は一旦Shiftさんの班に配属すればだいたい辞めていくし。」
「うん、なんかわかる。俺も辞めたくなる。」と自室についたので足を止めた。
「はははっ。まぁ、今日は早く寝ときなよ。」
「うん。じゃあまた明日。」
なるべく、水曜日と日曜日に更新する予定ですが、眠くてたまらない時は1日遅れます。すみません。
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