【冥界の獄炎龍】
「また物騒な名前の剣だ…。」
「あの時適当につけてて、しかも私が使ってたから片手剣ソルって名前のはず…。」
俺達は喋りながらも敵を倒していく。そしておれは目を瞑って魔力注入に集中した状態で咲と喋っていた。
「自分の名前をつけたのか。」
「わ、分かりやすいようにだよ!?」
「うん。それでどんな剣なんだ?」
「持つと攻撃力が2倍になるの。それから、属性を後から付与する事も可能なぶっ飛んだ武器。そもそも…まだ残ってて、それを手にした人がいるっていうのが驚きなんだから。」
「へぇ、咲にしては2倍は控えめだ。今の武器はもっと倍になるんだろ?」
「当時の攻撃力だと2倍でも賢者の書を使った今よりも遥かに強いから馬鹿みたいな設定にはしなかったの。」
「なるほど…。」
蝶が黒いオーラをあの剣につけてたのは属性を付与していたのか。
あらかた倒し終わったのか、明らかに敵の量が減った。
ギルさんと戦っていた黒い禍々しい恐竜も倒れて、元のユーザーの姿で倒れて、消えてゆく。
「あら、第二関門突破しちゃったのね。でも残念…次で終わりなの。」と未だ無傷なお姉さんが不敵な笑みを浮かべながら俺に短剣で襲い掛かってきてウォールが受け止める。
「どういう意味だっ!!」
お姉さんは少し眉間に皺をよせて一旦引き下がる。恐らく見えない謎の壁の正体がわからなくて本能的に下がったようだ。
お姉さんの奥から神秘的な衣装を着た銀髪の女性が現れた。
「ユグドラシルのギル長を務めています、アトラスと申します。ヴァルプルギスでの恨み…ここで晴らさせていただきます。」と微笑むアトラスさんはお辞儀をしてから唐突に踊り始めた。
グワンっと空気が重くなった。
上から何かで抑えつけられているような感覚だ。体全身に10キロくらいのの鉄を巻かれているかのような重さだ。すぐにウォールが俺と同化してそれを無効化してくれた。しかしウォールが苦しそうだった。
「しまった!!重力魔法!!」と咲。小人達もこの重力には逆らえないようだ。
ギルさんはその巨体が他を邪魔しないように巨人化を解除したが、ベタンッと床に張りつけられてしまう。だけど、なんとか立ち上がった。
再びお姉さんがニヤっと笑って俺に襲い掛かってきた。
「あら。どうして効かないのかしら…それに…どういうアイテムで私の攻撃を防いでるの?」
「さぁ?」
その場でリリアさんが重力魔法にかかっていなかった。
「え?え?…みんな…どうして…っ」と半泣きになりながらオドオドするリリアさん。
ギルさんは体を引きずるようにリリアさんの近くに移動して、リリアさんの両肩を持つ。
「リリアちゃん、魔法抵抗の踊り…振ったよね。」と苦しさをなるべく隠しながら喋るギルさん。
ギルさんも咲も護も重力によって、ジリジリと体力を削られはじめていた。このままいくとスゥの魔力がつきてしまう。補充しないといけない。でもお姉さんからの素早い攻撃をウォールと同化しながら防いでいたらタクトをスゥの方へ向けられない。
「ふっ・・・振りました!!ギル君が変な踊りを誘うからっ!!」
「そうだね。それがこんなところで役に立つなんてね…。リリアちゃん…アレを攻撃できる?」とギルさん。ギルさんのアレとはアトラスさんを指していた。
「むっ無理ですっ!!今まで一度しか成功した事がないんですっ!ギル君ならそれが良くわかっているはずですっ!!」
ジリジリと体力が削られていく咲と護とギルさん。
「りき!!変わって!!」と咲の叫ぶ声がして、ウォールが同化を解いて、お姉さん目掛けて強烈なタックルをして距離をとってくれた。その隙にタクトを解除した。その瞬間俺は地面に張りつけになった。
次に咲が目にも止まらぬ速さで動き出して、お姉さんを圧倒的パワーで蹴り倒す。
そして体力が回復していく…これは咲がスゥに魔力を注入できたという事だ。俺と段違いのタクト裁き…。
アトラスさんへ攻撃しようとすると、お姉さんがあれやこれやと邪魔をして中々手を出せず。
「リリアちゃん。」とギルさんはギュッとリリアさんを抱きしめる。
「ギッギル君っ!!こんな時に何をっ!!」と顔を真っ赤にしてあたふたするリリアさん。
「冗談なんかじゃないんだ。俺は君の事が好きだから…こうしてるんだ。」
「なっ!!」と護と俺とリリアさんと咲が一瞬固まった。
咲はその一瞬、ギルさんの方を向いて固まってしまい、お姉さんに吹き飛ばされてしまった。
「咲っ!!」「先輩っ!!」と俺と護で声をかけると、「大丈夫」と少しよれっとした咲の声が聞こえた。
「ギ、ギル君‥今は…その…。」と顔を赤らめて縮こまるリリアさん。
「君が動かないように俺が抑えとくね。」
「ななななっ!?」
「リリアちゃん、時間ないよ…。」と苦しそうな顔をするギルさん。
「我、火と共にあり、火は我である。我の血脈に宿る炎よ、浮き上がれ。地獄の門番よ、我に地獄の炎を!冥界の青き炎よ…この体に宿りたいまえ。我の火は炎となり、獄炎となり…冥界の炎と化す。この身を捧げよう。」とリリアさんは長い詠唱一言一句間違えずに詠唱する。
いつものリリアさんなら絶対動いてしまうはずなのに全く動かず詠唱に集中できていた。
「凄い…アレを間違えずに詠唱してしまうなんて…。」と護が驚いていた。
「行け!!冥界の獄炎龍!!」とリリアさんが最後に叫べば、ドロドロとしたマグマでできたような龍をアトラスさんへ向けて放つ。
あまりの範囲の広さに、咲と戦っていたお姉さんも巻き込んで倒してしまう。
悲鳴と共にアトラスさんとお姉さんの体が消えて塵になった。
「でき…た。」とリリアさんが呟く。
「できたね。結婚しよっか。リリアちゃん。」とギルさんはより一層リリアさんを抱きしめる。
「ふぇぇっ!?結婚!?」と顔を真っ赤にしてあたふたするリリアさん。
「おめでとう!」と咲は拍手する。
「えぇ!?えぇ!?そんな事よりもギル君!重力魔法にかかったふりをしていましたね!?」
「あれ?バレた?恥ずかしいなぁ。巨体化を解いた時に着地をミスって全身を地面にぶつけちゃったから、魔法にかかったふりをして誤魔化そうと思ってね。」と笑うギルさん。
「ギルだけじゃないよ。護!護も自分が天使だって事忘れてない?」と咲。
「え?あぁ。そういえば持続回復なんて技ありましたね。」とニッコリする護。
「もぅ!!」と咲。
それから俺達は頂上にたどり着いてクエストをクリアした。報酬にレア度の高い世界樹の素材が手に入ったから、明日にでも隣の部屋のジャンさんに防具を作ってもらおうかな。
その日の晩餐は世界樹クエストの録画映像が巨大ホログラム画面で披露されて、リリアさんの超難関魔法を見て盛り上がった。俺はハナビに獄炎の書でマグマプールしか発動させてないけど、冥界の獄炎龍を使うのもありだなとか考えていた。
晩餐が終わって部屋へ戻ると護が先にリビングでくつろいでいた。
「護、いたのか。」
「調べたい事があったので。」
「調べたい事?」
「はい。リリアさんの詠唱中にパニックを起こす病気についてですけど、魔法の痕跡があったので、少し裏ルートでログを見返していました。」
「裏ルート…魔法っていう事は呪いか何かか?」
「いえ、微弱に調整された魔法…あえて魔法の詠唱を間違えて発動を鈍らせるんです。そうすると、数秒だけパニックになるんです。」
「え?それを誰がリリアさんに使っていたんだ?」
「そんなの…一人しかいないじゃないですか。」といつも穏やかな顔の護が真顔で鋭い目つきをする。
「…え?でもそんな…まさか。ギルさんはリリアさんにプロポーズしてたし…しかも明日二人は結婚するって…。」
「りき、真理の扉を使いましょう。」
「ギルさんを覗いてみるよ。」
「いえ、先ずはリリアさんからにしましょう。」
「リリアさんから?わかった。」
俺は目を閉じてリリアさんの事を考えた。