【ユグドラシルの群れ。】
パチパチと焚き火が柔和な火の音を立てる。
ギルさんと護は本を読んでいて、俺はスキルの設定だとか、シンが作ってくれた基礎知識のデータを眺めていた。
3時間くらいたって、段々と眠くなってきた頃にギルさんが本をパタンと音を鳴らして閉じ、本をストレージにしまって、変わりにアウトドア用の吊るし鍋を取り出して焚火の上に取り付けた。
そこに水を入れて、不思議な七色に光る石を放り込んで、再び椅子に座る。
「何をしてるんですか?」
「何って、そろそろ空腹バフがつく頃かと思ってね。それにリリアちゃんに俺の作った料理を食べさせたくてねぇ…。」と言ってギルさんは宙に浮くまな板をだして、そのの上に野菜を出して、いつの間にか握っていた包丁でスっと横にスライドさせれば勝手に野菜がきれて、包丁で切れた野菜をピンと跳ねて鍋へぶち込んでいく。
「ず、随分と斬新な料理ですね。」
「一応料理スキルを上限まであげてるんだ。その先まで上げるのには流石に抵抗があるからやってないけどね。」
まぁ。だいたいの火力と言われる、攻撃力を求めるプレイヤーは料理スキルを上げる暇があるくらいなら例え1でも攻撃系のスキルを上げる事に専念するだろう。それに上限を超えてスキルを上げるのに回数制限がある。
それにラート班では序列とかいう制度があって、攻撃力順に序列が決められている。余計に振り辛いだろうなぁ。
「序列制度が無かったら上げてましたか?」
「いや。俺も攻撃力重視だから、きっと振らないなぁ。序列ねぇ…。周りは序列を意識しているようだけど、実際ラート班で序列を気にしている人は一人もいないんじゃないかな。序列なんてラートさんが何かの遠征に行った時、振り分けやすいようにあるだけのシステムだからね。」
「なるほど。」
「噂は噂さ。序列争いとかするような性格の奴はラート班に入れないさ。」
ぐつぐつと鍋が煮えてきて、とても良い匂いがしてきた。
ギルさんは器を取り出してそこにスープをよそって俺に渡してくれた。
「うわぁ…ありがとうございます。いただきます。」
スープを飲んでみると、シチューの味がした。でも見た目は透き通ったスープで、とてもシチューの味なんてしなさそうで変な感じがした。
護もスープを飲んで一瞬眉間がピクっと動いていた。
「はははっ。顔にでているよ。わざと透明な見た目に仕上げたんだ。リリアちゃんがドッキリするようにね。」
この人…リリアさんの事しか頭に無さそうだ。
「さて、そろそろ交代の時間かな。」
テントからリリアさんと、隣のテントから咲が出てきた。
「ふぁ…ぁ…おはようござます~…。交代の時間なのです。」とリリアさん。
「おはよー。凄く良い匂いがする!」と咲。
「おはよう、レディ達の為にスープを作っておいたんだ。好きなだけ食べていいよ。」と微笑むギルさん。
「いつもありがとうです。」とリリアさんは器にスープをよそって飲む。「ぶはっ∑ななななな!?シチュー??え???あ???」と頭にたくさんハテナマークを出すリリアさん。
「はっははははっ!!ははははっ!!」と盛大に笑うギルさん。
顔を真っ赤にしてギルさんの胸板をポカポカと殴るリリアさん。
「りき、茶番に付き合ってないで寝ますよ。」と護。
「あ、うん。」
朝になって、結界を解くと早速魔物が襲ってきたが、ギルさんが剣一振りでやっつけてしまった。
それから進んでいくと明らかに強そうな巨大な人面樹のボスと出くわした。
「リリアちゃん!獄炎の書の出番だ!」とリリアさんの背中をニコニコしながら押すギルさん。
リリアさんは詠唱をするが詠唱が終わりそうな雰囲気なところでギルさんが、沢山の剣が雨のように降り注ぐ大技を使って、さらにその剣から火がついて巨大ボスをパッと倒してしまって、リリアさんにポカポカ胸板を叩かれていた。
「もう!!ギル君!!もう!!もうちょっとだったのです!!」
「はっははは!その調子その調子。」
それから3日経った。
「やっぱり結構簡単に登れちゃうね。」と咲。
「うーん…でも3日も経ってるよ?」
とうとう霧が薄っすらと出始めた。これは雲の中に入ったって事なんだろうか。
「だってほら、上見たらもう頂上だよ?」と咲。
「いえ、ですが…次の広場に…ボスでしょうか…何やら反応が何体か…。」と護。
しばらく歩いて、護が気にしている広場についた。そこはどうやら最終休憩地点のようだった。
複数のナイフや手裏剣が飛んできて、それを俺のウォールが弾いてくれたり、咲が全てステッキで叩き落としたり、護が空を飛んで回避したり、ギルさんは背に生えた翼でガードしてリリアさんも一緒に守る。
「ようこそ、ギルド【ユグドラシル】のトラップへ。第一関門突破おめでとう。」と綺麗なお姉さんが不敵な笑みを浮かべながら拍手をしてコツコツと歩いてきた。
「色んなところから世界樹のクエストでペナルティになる報告を受けていたけど、こういう事だったんだ。」とギルさん。ギルさんのAI達がお姉さんを威嚇する。
「トラップを回避したところで…この人数相手じゃ無理でしょうけど…。」
お姉さんの後ろに無数の魔法陣が現れて、ギルド【ユグドラシル】のメンバーが次々とPOPし始める。
もちろん俺はハナビにマグマプールを詠唱させる、咲はステッキを解放する。
「リリアちゃんは俺の後ろを守ってくれる?」とギルさん。
「はい!」とリリアさん。
相手が遅い掛かってきた。
人数が多すぎて、引き殺されそうだった。
「流石に多いな…。」とギルさんが真顔で鋭い目つきをして、いつも愛用している片手剣を自分の胸に突き刺した。
「なっ!」
その場にいたリリアさん以外が驚いた。
刺した胸からは血ではなく光が漏れて、白くて美しい天使の羽を生やした甲冑巨人に変身したギルさん。
白くてデカイのはラート班らしいなって思う。
相手も巨体になれるタイプの武器持ちらしく、禍々しい黒い恐竜のような姿になってギルさんに対抗する。
俺は目を閉じて小人達に魔力を送った。エイボンの目を借りて視野を広げる。
倒しても倒してもキリがない。敵は次々と沸いてくる。相手の人数が多すぎてマグマプールを発動しても範囲が狭く感じる。
「きゃあっ!!」とリリアさんの声がして、ギルさんは襲われかけているリリアさんの方を振り向いて、恐竜に顔面を殴られて、衝撃に耐える為に膝をつく。
『ミルフィオレのラート班…序列3位…ギルデバルド…俺はヴァルプルギスで序列2位のアローを打倒した事があるぞ…つまりお前は…負けるのだ!!!』と恐竜のおどろおどろしい声が聞こえた。
「そうか。確かにそうだな。」とギルさんは恐竜を大きな剣で斬りつけて、手でスッとリリアさんを掴んだ。
『なんだ?その女がそんなに大事か?ククククッ…女を守りながらなぞ…不可能だな。』
「俺が…本当に序列3位なら不可能かもね。」と言いながらギルさんは大きな片手剣の剣先を空へ向ければ、無数の光線が空から降り注ぐ。
『ぐっ…これしき…。』
「これしき?はっはっはっは……この武器は育成型の武器でね?凄くお金がかかってるのさ。俺の全財産を投資した最高の武器さ。」
『投資?…大天使ミカエルの甲冑如き、俺でも買えるわ!!』と殴りかかってくる恐竜。
「そっちじゃない。この剣さ。」
『剣?』
「あ!!」と咲が声を出して、俺の近くに着地する。
「どうした?」
「あの剣思い出した!!」
「え?剣ってギルさんが使ってる剣か?」
「うん。私が作った…神器の草薙の剣の…改造バージョンだ。」