【東屋が脱走しました。】
【お前は利用されているんだ。】
…………………………………………………またお前か。
【もうすぐ…もうすぐだ…。】
……………………………………………………何がだ?
【お前も気づき始めているんだろう?私に。】
闇の底から声。闇に飲まれそうになる。
『そっちへ落ちてはダメです。』と咲の声が頭に響く。響きながら今度はしっかりとした声で『そっちに落ちてはダメです。』と腕を引っ張られた。
目が覚めると見慣れない天井が見えた。起き上って辺りを見渡してみれば、シンの部屋だった。
「ん?」と目を擦る。
ひょこっと視界にシンが顔をだした。
「あ、起きた?」
「うん、起きた。」
「珍しく時間キッチリに起きないから心配したよ。咲と護が凄い勢いで千翠さんに相談しに来て
さ、で、僕の部屋で預かる事になったんだ。」
「え?俺どれくらい寝てた?」
「3日くらい。」
「え!?3日って…。」俺はあわててスマホを開いた。
木下さんからメールが入っていた。中を開くと「助けて。」と書かれていた。
「シン…やばいかも…木下さんが助けてってメールで。」
「木下さん?」
「あ、いや、ミキッコさん。」
「いつきたメール?」
日付を見れば恐らく二日前くらいだった。
「二日前くらいだ。」
「まずいね。とりあえず、千翠さんに連絡してみるよ。」
「うん。」
俺はベッドから出て、外へ行く準備と咲と護に『起きた!』とメールを打つと、丁度電話を終えるシン。
「りき、咲と護も連れて木下さんをギルド勧誘しにいくよ。」とシン。
「うん。」
咲と護と合流してから、すぐに木下さんのいる学校へ向かった。
「りき、ミキッコからのメールはきてないの?」と咲。
「うん、でもフレンドリストの位置情報はここになってるから、別に誘われたとかそういうのはないと思う。」
教室はどこも授業中のようだった。
「なんの為に護をつれてきたと思ってるの?」と咲。
「え?」
「ミキッコさんを検索します。………ここから3つ目の教室にいます。」と護。
「便利。」とシン。
4人で3つ目の教室の前に行って止まった。
「僕が先生と話をつけるから、護、ミキッコの位置をテレパシー的な何かで伝える事ってできる?」とシン。
「可能です。」
シンはコクリと頷いてから扉をあけた。
「すみません、ギルド勧誘しに来た者です。」と教卓に立つ先生に話しかけるシン。「窓際の後ろから二番目の子。」と脳内に声が響いた。どうやらPT内に響かせてるみたいだった。
「あーですが、ここは基本の基本を教える教室です。卒業待ちのクラスへ回った方が宜しいのではないでしょうか?……それとも此方にどなたかお知り合いの方が?」と教壇に立つ先生が言う。
シンが後ろで手を組んで、その指の隙間にギルド招待状を挟んで、次にその手紙が小さな白いハトのような鳥に変形して、ミキッコのところへ飛んで行く。
護の目が赤く光った。するとミキッコは人差し指をスッとだした。どうやら俺らには見えない自分専用のホログラム画面にタッチしているようだ。
その動作が終わると護の目は元に戻った。そして[ミキッコ様が加入しました。]と表示がでた。
「いえ、そうでしたか。教室を一階間違えたようなので、これで失礼します。」とシン。
「そうでしたか。訪問ありがとうございます。」と先生。
俺達は一度教室の外へ出て、シンがゲートを開いて「入って」と言ったので入って抜けると、王宮の広間についた。そこ千翠さんが立っていた。
「あぁ、丁度良かった。インセインザサモンゲートをお願いします。」と千翠さんに笑顔で言われた。
「はい?」
「それが天童カエデの弟を助ける時の召喚で東屋も召喚されてしまいまして、脱走して隠れてしまったんです。ですから、ミキッコさんを助けるついでにお願いします。」
「マジ…。」
「あきらめなよ。」とシン。
俺は設定画面を開いた。…またあの闇の声を聞きたくないから、真理の扉をオンにしておこうと思った。
「…‥じゃあ、やります。インセインザサモンゲート!」
もちろんすぐに気が遠くなって、意識をうしなった。
誰の夢だろうか。
目の前には綺麗な川が流れていた。そして夜空…自分は今草っぱらに座っていて、隣に誰かいるようだった。
「ねぇ、お母さん。」と俺が発する。どうやら自分は女性のようだ。
「なぁに?ミキ。」と自分のお母さん。
記憶を辿れば、俺は木下ミキの体に入っているようだ。……でもおかしいな。ここは【リアル】の中のようだ。自分の瞳に映るお母さんは【リアル】のアバター状態だからだ。
「本当に上に別の世界ってあるのかな。」
「今日の旅人さんの話?」
「うん。上から来たって。上に行けば…元の世界に帰れるかな?」
「わからないけど…今ミキと…お父さんも一緒だから、このままでも…。」
お母さんはこのままでも良いって言ってたけど…現実世界の私たちの体はどうなるの?このままで良いわけないじゃん。
旅人は言った。「上には現実を知るもの達が現実を知りながらも戦い続けている。」「自分はそれが嫌で逃げて来た。」「……けれども…上に帰りたくなった。」
旅人はきっと帰る方法を知っている。
お母さんが眠った後、私は旅人が歩いて行った方へ走った。
間に合うかどうかわからない。それでも…ここにいるよりは何か…何かできるんじゃないかな。
走って、走って…普通なら絶対息が上がって走り疲れてしまう距離だけど、息は上がるけど、深呼吸すると全く疲れが無い。
そして空から雨と滝の中間のような水がポタポタと滴る海についた。
砂浜に旅人が立っていた。
「旅人さん!!」と声をかければ驚いた顔をする旅人さん。
「どうしてここに。」
「ここにいたくないの!……現実世界に帰りたいの!!」
「現実世界に帰る方法は残念だけど、今はないんだ。…ご両親の元へ帰ったほうがいい。」
「じっとしてても死ぬだけじゃん!!!」
「……だけど、上に行っても死ぬだけだ。それに…辛い戦いの世界だ。死ぬときは家族と一緒にいたほうがいい。」
「今も死んでるのとかわらない。…死んでるのとかわらないじゃん!!なら…上に行って自分で納得してからまたここに戻りたい。戻れるんでしょ?」
「戻るのにも時間がかかる。ここは…なかなか直ぐにこれるところではない。」
「それでも戻れるなら、連れてって。自分の目で確かめて自分で戻ってくる。」
「どうなっても知らないし、上に行く時何が起こるかわからない。それでもいいなら。」
「いい。行く。」
旅人は羽の生えた白い馬をどこからか召喚した。
「こういう飛行タイプの特殊な乗り物でないと、ここは行き来できないんだ。さぁ、乗って。」と旅人に言われて乗ろうとしてみたが高すぎて乗れそうになかった。
すると体がフワリと浮いていつの間にか馬に乗っていた。そして、その前に旅人さんが乗った。
馬は羽をバサバサと動かして空を飛んで、高く高く飛び上がった。
崖が見えた。海に滴っていた水はここからきていたのかと思えるようば場所を見た瞬間目の前が徐々に真っ暗になっていく。
「…体が…。」と旅人さんが驚いている。
自分の体を見れば透けていて、今にも消えそうだった。
「…ありがとう、旅人さん。」と私は言った。
目の前が真っ暗になって次に目を開けば真っ白な空間にいた。
「【リアル】へようこそって、アナタは【リアル】の中に閉じ込められてしまいました!」という声を聞いた。
そしてアバターを再度作らされて、全寮制の学校へ通う事になった。
その時は記憶が無かったのに…あの時、吉田君と偶然出会った瞬間では意識が戻った。
吉田君と別れてから、また意識が無くなって…でも、ふとした時に戻って…一か八か吉田君に助けてとだけメールをだした。
お願いします…神様…何から助かりたいのかすらわからない…でも…私を助けて下さい。