【攫われた弟。】
「バレバレな嘘です。」と護の声が頭に響いた。
その空間には俺とシンカさんがいた。
「バレバレな嘘です。」と俺はぎゅっと拳を作ってシンカさんを睨む。
「バレてないんですから、良いじゃないですか。」とシンカさんは無表情で言う。
「シンカさん…アナタは自分のマスターが馬鹿にされても同じ事を言えますか?」と護の声。俺自身はどうやら護になっているようだ。
こめかみがピクピクと動くような気がする…これってまさか…怒ってる?しかも相当怒っているようだ。
マスターが馬鹿にって…俺のことか?いったい何の嘘を。
「そう怒らないでください。自分なら…納得できる材料を用意してくれたのかとスルーします。もちろん…今と同じ状況下では…という意味ですが。アナタに少しでも同族の血が流れているのなら…少し考えればこの意味理解できますよね?」とシンカさんは自分のアゴに手を添える。
「そのくらい…。何が言いたいのかは同族じゃなくてもわかります。真実を知ればりきが…りきのメンタルがおかしくなる事を危惧しての嘘だった。こう言いたいわけでしょう?」と護は言うが内心マグマのごとくふつふつとドロドロとした感情が渦巻いていた。
俺自身…シンカさんが俺のメンタルを気にしてわざわざ嘘をついてくれたのだから別に良いんじゃないかと思うけど…この感情は…この護の感情の前では、そんな事言えそうにない。
シンカさんは護の口に人差し指をあてて「……見られています。今日はこの辺に。」と言う。
「だれに…。」
「わかりませんか?…」
社長…
目を覚ました。
社長…護の頭の中に…確かに 社長 という言葉が浮かんだ。
社長に見られている?
どういう事なんだろう…。昨日のバグ事件が気になって寝たらこれだ。
今度こそちゃんと真理の扉をオフにしておこう。俺はスマホを取り出して【真理の扉】をオフにした。
いつものように朝食を終えて廊下を歩いているとピンク色の髪をした女の人が半泣きになって「助けて下さい!!」と言って俺にしがみついてきた。彼女の腕には蜘蛛班の腕章がついてた。
後ろにいた咲が「りき…助けるの?」と恨めしそうに俺の耳元で囁く。
「浮気ですか?」と護が爽やかに言う。
「ち、違うから。……えっとどうしたの?」と聞きつつも目を凝らして彼女のプロフィールを覗くと天童カエデという名前の双剣アタッカー。
「弟が…拉致されてしまって…。」
「なんだって?それは幹部に相談しないといけない案件じゃないか。」
「りき、幹部じゃん。」と咲。
「りき…あなたという人は…。」
「…そうだった。ごめん。えっとどうしようかな…もう少し詳しく話を聞いてもいいかな。何をしてて拉致されたの?」
「初心者村に新しい武器を買いにいったの。そしたらいきなり私の足元に魔法陣がでてきて、驚いて咄嗟に動いて避けたんだけど、弟が私を助けようとしてたみたいで魔法陣に足を踏み入れちゃったの。そしたらパッといなくなっちゃった。その後すぐにギルド員一覧から弟の場所を見て見たら…LORGatheringギルドハウスで…。」とカエデさんはボタボタ涙を流す。
「なるほど。」
「りき、千翠に相談した方がいいかも。LORGatheringとなると結構な大手だもん。」と咲。
「わかった。一緒に千翠さんのところへ行こう。」
「護、千翠の居場所、特定できる?」と咲。
「……うーん…禁足の森ですね。」
「は?禁足?なんでそんなところに。まぁいいや。いこっ!」と咲。
「わかった。」と俺はゲートを開いた。
「待って、何があるかわからないから、一応パーティを組んでいこ?」と咲。
「OK」と言って4人でパーティを組んでゲートをくぐった。
禁足地についてみれば狂気が渦巻いていた。
「…どうなってるの?狂気は交代で浄化してるんじゃなかったの?」と咲。
「NOAが発生してるって事でしょうか。」と護。
「NOAの場所へ行ってみよう。」と提案して4人でNOAが沸く方向へ進んだ。
すると真っ黒な…いや、ただでさえダークエルフという種族ゆえに薄い灰色の千翠さんの肌がどす黒く染まっていて、邪悪なオーラを纏っていた。
「そんなっ!!」と咲。
「千翠さん!?狂気が…っ!!」
「そんなっ!!」とカエデさん。
「ん?何をしに来たんです?」と、とても普通な千翠さん。
「いや、狂気に染まってるじゃん!!」と咲。
「あぁ。私でも意識を失ってしまうものなのだろうかと思って試してたんです。澪、回復を。」
「はい。」とルナさんに似ている澪さんが祈ると澪さんの体がパァっと白く発光して、千翠さんに光の粒子が降り注ぎ千翠さんが浄化された。
「澪、後は頼みましたよ。」と温かな顔で澪さんに言えば澪さんはニコリと微笑んで森の奥へ進んでいった。
「さて、何か御用で?」と千翠さん。
「あ、はい。蜘蛛班の天童カエデさんの弟さんがLORGatheringに捕まってしまったみたいなんです。」
「…天童モミジが捕まってしまったんですね?」と千翠さんはカエデさんの目をみて確認する。
「はい。…お、弟がっ。」と再び泣き始める。
「ふむ。LORGatheringですか。状況をもう少し詳しく。」と千翠さん。
カエデさんはもう一度詳しく状況を説明した。
「気になった点が一つあります。新しい武器についてですが、ガチャ産ですか?」
「はい。イザナギの短剣をGETしに…。」
「イザナギ…ですか。確か遥か昔の【冥界洞窟】に参加していましたね?」
「はい、イザナミの武器を手に入れるために。」
「……良く思いつきましたね。」と千翠さん。
俺は全くピンとこなかった。
「そうなんです!集めた情報の仮説段階なんですけど…。」
「悪くはないです。さて、他の方にもわかりやすいように説明しましょう。昔のイベントで【冥界洞窟】というイベントがありました。1階から地下100階までボスモンスターを倒していくイベントです。特にこれと言って下がっていくから強くなる…というわけではないんですが、強かったり弱かったりとバラバラです。地上にいる全ボスモンスターが攻略された順に配置されているだけなので。最後の地下100階のボスがイザナミです。倒すとイザナミ武器BOXと言って好きな武器種を選べる箱がもらえたのです。…双剣がまだ剣だった頃の話です。双手の短剣は後から実装されましたので。そして、もし…今BOXをそのまま所持していた場合のみイザナミの短剣を入手する事が可能となります。所持してますね?」
「はい。」
「その仮説を考えたのは我々だけではないという事でしょう。イザナミ武器とイザナギ武器を両方装備した場合…火属性の新スキルを使う事ができる…という仮説。」
「…その仮説。正しいと思う。ヒノカグツチ。実装済みだよ。」と咲。
「LORGatheringは大手ギルド。恐らく、拉致して拷問でもして奪い取る気だったのでしょう。」
「そんな!!」とカエデさん。
「物騒な世の中になったそうですからね。倫理という倫理が取り払われた…ムーンバミューダ社がルールのとんでも世界。」と護。
「そうですね。さて、狂気も晴れた事ですし、王宮の広間へいきましょう。」と千翠さん。いつの間にか狂気の霧が消えていた。澪さんが上手く退治したようだった。
ゲートで王宮の広間につくと千翠さんが「「インセインザサモンゲート」をどうぞ。」と作り笑顔で言ってきた。
「え…マジですか?」
「えぇ。一番早い解決策でしょう。」
確かに…一番早い解決策だ。
俺は深呼吸をしてから「インセイン・ザ・サモンゲート!」と言って意識を失った。
…なるほど…千翠さん、あまり焦った様子とか対策本部を立ち上げたりだとかしないなぁとは思ってたけど…俺のこれで解決しようとしてたからか…。