【テストから逃げるな。】
実は陽子の夢を見ようとすると、俺の理想の咲の夢を見てしまって見れない。
きっと見れないように何か細工してあるんだろうなぁ。まぁ、見れなくて内心ほっとしてる部分もある。見た後俺のメンタルが無事か心配になる。
適当に下を向いて廊下を歩いていると誰かとぶつかってしまって相手の方がドサっと尻餅をついていた。
「うわっ、ごめんなさい。」とコケた相手に手を差し伸べると同時に顔を見ると、旧アカウントのルナさんだった。
「いえ、おかまいなく。」とニコリと微笑みながら手を掴んで起き上がった。
「え?・・・あ・・・完成したのか。…えっとルナさん?」
「あ、いえ。私の名前は水無月です。ややこしいので名前を変えたんです。」と水無月と名のるルナさんの並列思考。薄水色の花魁風着物を着ていて、それはキラキラとまるで雪の粉が舞っているかのような静かな感じに光っていた。なんとなくだけど冷気を感じる。
「そ・・・うなんですね。俺はりきです。」
「りきさんですね。私の事をご存知だったんですか?」
「え、はい。ルナさんから…えっと一応ここの幹部なので。」
「まぁ…そうでしたの。シン様に変わり、ルナ班の幹部に加わりましたの。よろしくお願いしますね。」
「よろしく。…えっとルナさんの記憶ってないんですか?」
「思い出そうと思えば思い出せますよ。少し時間がかかってしまいますが。」
「そうなんですね。…というか…なんだか寒いですね。」
「あ、すみません、私の雪衣のせいですね。この服は冷気を纏っているので…。」
「あぁ、通りで。」
「では、私は任務がありますのでこれで失礼します。」
「あ、はい。ぶつかってすみませんでした。」
「いえ、では。」と水無月さんは通り過ぎていった。
雪の精霊みたいな人だな…まぁ本体はルナさんなんだろうけど。と、水無月さんの後ろ姿を見ながら前に進むとドンッと再び誰かにぶつかってしまった。
今度は誰だろうと前を向くとシンカさんだった。
「げ。」
「げってなんです?」とキラキラとしたニコニコ顔のシンカさん。
「いや…えっと。なんでもないです。」
「答えになってないんですけど。で、それよりテスト…受けますよね?」とシンカさん。
「えっとはい。もう少ししたら。」
「もう少し?いったい何日渋ってるんですか?スノーさんでさえパスしてますよ?」
「わ、分かってはいるんです。」
「りきさんが外に出れないせいでBMの処理が大変なのちゃんと分かってます?」
「…はい。今日中には受けます。」
「はい。そうしてください。」
「じゃあ、ちょっと部屋で少し勉強してから受けに行きます。」
「はぁ…。今日中にはお願いしますね。」と言いながらシンカさんはスマホを操作してゲートを開く。
俺が「はい。」と返事をするとゲートに入っていった。
参ったなぁ…。一回教科書読まないと…。
意識共有をしてもらったから、覚えなくても良いんだけど、一回は教科書に目を通さないといけなくて、それがなかなか分厚いせいでなかなか読む気がおこらない。
……ダメ…だよな。護を…みんなを助けるって決めたのにこんなんじゃ。
俺は部屋に戻って、第二リビングで教科書を読む。
・・・・・
・・・・
「りき、りき。」と声が聞こえて目を覚ますと、咲が俺の隣に座っていた。
「え…あ…咲。」と欠伸をして目をこする。
「もうすぐ晩餐よ?」
「…って…え!!ヤバイ!!テスト受けに行かないと。」
「まだ行ってなかったの?」
「うん。」
「今からならギリギリ間に合うと思う。」と咲。
「行ってくる!!」と俺は急いでゲートを開いて試験室の前に出て試験の部屋に入った。
ラートさんの班の人たちが綺麗に整列していて、試験官をしているようだった。
長椅子に長いテーブル。俺以外にも数人テストを受けていて、「空いてる席にどうぞ。」と言われたので空いてる席に座るとテスト用紙を置かれた。ペンは羽ペンのようなものが側にあったのでそれを手にとってテストに挑む。
テストはマークシート式だった。
問1.外でのバトルはどう変わったか。
A多人数同時攻撃あり。 B今まで通り1対1で申請式。 C多人数同時攻撃あり、平和のブローチを付けている場合攻撃を受けない。
なんだこれ…Aじゃないのか…?外でのバトルって……いや、Cだ。平和のブローチ…初心者の村で1enで買えるけど着用すると30分で消えるアイテムだ。それがあれば奇襲を受けないんだ。凄い。全く知らない事が思い出すとでてくる。
問2.ヴァンパイアという種族になる為にはどうすれば良いか。
A公式ショップの種族変更カードを購入して変更する。
B最初に選ばなければもうなれない。
Cヴァンパイアの人に噛んでもらって血を流してもらう。
これはAじゃないのか?確かエルフだとか亜人は公式ショップにカードが売ってたし…いや、でも念の為思い出してみるか…えぇっとヴァンパイアは……そうだ。新種族ヴァンパイアはヴァンパイアに選ばれたユーザー又はNPCに噛んでもらって血を流してもらう事で変更可能になる。これだ…Cだ。
危なかった。
俺はその後も時間はかかったけど、なんとか全て埋め終えた。
意識共有してもらったおかげだ。
テストを終えて部屋を出ると隣の大広間からわらわら人が出てきた。
しまった…時間をかけすぎて晩餐を逃してしまった。
丁度広間から護がでてきた。
「りき?今テスト終わりですか?」
「あ、うん。」
「あれほど言ったのに事前に読んでいきませんでしたね?」
「ごめん、長い文章を目にするとどうしても眠くなっちゃって…。」
「…ほんと、確かにりきさんに僕の色々を背負うのは無理そうですね。」と護に言われて心に傷がついた。
「ごめんよ。」
「できるところだけで良いです。僕も頼りっきりではなく、全力でサポートしますから。」と言われて心が軽くなった。
「ありがとう。」
「まだ広間で夕食を食べられますよ。」
「良かった…。」
広間に入ると、まだ数人残って食事をしていて俺は走って自分の席へ行き座った。
まだ温かいご飯が残っていた。
そこへ更に誰かがごちそうを置いてくれたので見上げるとシンカさんだった。
「シンカさん…ありがとうございます。」
「いえ、頑張ったご褒美です。」
「美味しいです。」と食べながらお礼を言う。
「今回、珍しいですね。りきさんがやらないといけない事を渋るの初めてじゃないですか?」
「初めてではないと思うけど…。」
「そうですか?現実世界では勉強が苦手だったり?」
「いや、特に普通だったような…なんか本を読もうとすると眠気がくるんだ。」
「現実世界でも?」
「現実世界ではずっと本を読んでた気がする…あれ…どうして【リアル】に入ると眠たくなるんだろう。」
「今気づいたんですか?」
「気づかなかった…。今気づいた。」
「いつからかわかりますか?」
「いつからだろう…。最近かもしれない。ヴァルプルギス後だ。」
「ヴァルプルギス後ですか…。」と言って、俺の顔の近くで突然パンッと手を叩いたシンカさん。
「わっ…なんですか?」
「今ので治ったと思うので…。自分はこれで失礼します。」
「え?…。」唖然としつつ去っていくシンカさんをぼーっと眺めた。
部屋に戻ってから試しに本を読んでみると、眠くならなかった。
「ん?読書ですか?」と護。
「うん、ヴァルプルギス後から長文が読めなくなってて、シンカさんが俺に何かして読めるようになったんだ。」
「へぇ…何かって何されたんですか?」
「俺の顔の前でパンッて。」
「…顔の前で…恐らく、何かしらの不具合でしょう。顔の前のアクションから検索してりきさんのIDを特定して直してくれたみたいですね。」
「あぁ…そうだったんだ。」
「僕たちは…一番ゲームマスターに近しい存在ですから。」
「なるほど…。治って良かった。読みたい本が結構あったから。」
「良かったですね。早く気づいて。」
「うん。」
………もっと早く気づいて欲しかったけど。