【更なるアップデート】
目を覚ますと久しぶりに疲れがとれていた。
こんなに清々しい気持ちになれたのはいつぶりだろうか。
コンコンとノックする音が聞こえてベッドから出て、扉を開けるとシンが立っていた。それから良い匂いがした。シンが朝食を運んできてくれたようだった。
「おはよう。なんだか、シンに朝食を持ってきてもらうの久しぶりだな。」
「おはよう、睡眠マークがとれたのみえたから。」
「いつもありがとう。」
リビングへ行くと、未だに護と咲が会議をしていた。
「テーブル空いてないね。良かったら僕の部屋にこない?」
「そうさせてもらうよ。」
シンがゲートを出してくれたので入る。
いつ見ても綺麗に整頓された清潔感のあるシックな良い部屋だ。
リビングテーブルに朝食が並べられていく。
椅子に座った。向かいの席にシンが座る。
「いただきます。」
コッペパンのようなパンを手に取って一口サイズにちぎって口にいれた。
何種類かのチーズが混ざってて、それでいてフワっとしていた。
ムーンバミューダ社が作り出した【リアル】は最高傑作と言える。だって、この食感だとか味だとか、現実世界と全く変わりがない。舌が感じる熱さだったり…。俺には全く理解できない仕組みだ。
それから手をグーパーしてみる。現実世界と全く変わらない感覚。不思議だ。
「何してるの?」とシンが不思議そうな顔をして聞いてきた。
「あ、うん。この世界って本当に生きてるのと変わらないんだよね。それが不思議で仕方なくなったっていうか…。」
「僕…にも体ってあるんだよね?」
「あー…ごめん。リオさんの事があったから…あるってハッキリ言えない…かも。」
「そっか。」
「でも、体がある可能性は高いかも。リオさんが…感情が感じにくくなるって言ってたんだ。シンって良く泣くし、嬉しい時は嬉しそうにするし…好きな人もいるしさ。可能性は限りなく高いと思ってる。」
「あるといいな。あったら…日本に行きたい。歩いてでも這ってでも日本に行くよ。」
「うん。待ってるよ。」
現実世界に戻って、全部の記憶が戻っても、そう思ってくれると嬉しいな。シンの過去はあまりにも酷くて残酷な世界だったから…。
「そういえばヴァルプルギスで…」とシンが何か言いかけた時に目の前にホログラム画面とサイレンが鳴った。
ホログラム画面に表示されていたのは【強制メンテナンス】という文字。
「え?何だこれ…。」
「見たことないメンテナンスだね。」とシン。
段々と視界が暗転していき、やがて真っ暗になった。
次に瞬きすると真っ白な部屋に横たわっていた。
起き上がってみると目の前に一冊の光る本が浮いていて、それに触れてみるとアップデート情報が書かれていた。
なるほど…メンテナンス中この部屋でアップデートの内容を確認しろって事か。
…あぁ。とうとう【リアル】のバトルルールが変わった。
前まで申請してから開始だったけど、安全地帯以外は申請無しで戦える仕様に変更。
賭けバトルっていう新しいバトルは両者の同意があればできるようだ。
新しいAI【幻獣】を追加。
課金システムが廃止。今までの課金アイテムが全てゲーム内通過で買えるように変更。
…そりゃぁ、現実世界の人みんなムーンバミューダ社に収容されちゃったわけだし…そうなるよな。
そもそも【リアル】をプレイしてなかった人ってどうなったんだろう?
追加された武器がたくさん…、家具に仕える素材の追加…色々あるな。
次に瞬きするとシンの部屋に戻っていた。
「あ…れ?」
「終わった?」とシン。
「なんか白い部屋にいれられた?」
「うん。アップデート情報は多分あそこでしか見れなくなったのかもしれないから、スマホがあったから全部SSとってきたけど…。残ってるかな…データ。」
シンがホログラム画面を出してくれて見てみるとズラっとアップデート情報が並んでいた。
「あー…ダメだ。俺全くそんな事考えないでぼーっと眺めてたよ。」
「まぁ、そのうち慣れるし、僕がやらなくてもユナ班の人達かShift班の人らがやってくれてるよ。」
「流石だ。まだまだ覚える事ありそう。」
「そうだね。これから忙しくなるな。」
ホログラム画面が出てきて【幹部会議招集】と表示された。
「ほんとだ。会議に出ないと。」
「一緒にいくよ。」
俺達は会議室にゲートで移動した。
全員が全員横にホログラム画面をつけて何やら忙しそうにしていた。
Shiftさんからとんでもない怒りオーラがでていて、東屋さんからはどんよりオーラがでていた。
ユナさんは聞こえない声でずっと誰かと喋っているようだった。
ルナさんはホログラム画面の文字を読んでいる。その後ろにはシンカさんが立っていた。
千翠さんとラートさんもホログラム画面の文字を読んでいた。
二人でお喋りして座っているスノーさんとスドーさん。
他の幹部もそれぞれ誰かと喋っていた。
リオさんだけがじっと座っていた。
俺はリオさんの隣に座って、シンはルナさんの後ろにシンカさんと並んで立っていた。
「揃ったわね。会議を始めます。」とルナさん。
「俺らが短時間で、今回のアプデ内容をまとめました。」と怒り口調のShiftさん。短時間でをやけに協調している事から短時間でまとめるのが大変だったから怒っていると判断した。
「で、今すぐ確認したい事があるの。……現実世界の人達の行方よ。りき、シンとパーティを組んで今から学校へ行ってきてほしいの。報告は全部シンがしてくれるわ。今一人は危険すぎるから。」
「わかりました。」俺は席をたって、シンと一緒に初心者村にある学校へゲートで飛んだ。
学校の中へ入ると人が前より多くなっているのがわかった。
「なんか人増えてるね。」
「僕もそう思う。」
たくさんいる生徒の中歩いていると「吉田君?」と全く見覚えのないミキッコという名前の女の人に声をかけられた。
「えっと…誰かな?」
「同じクラスの木下だよ!」と言われた。確かに俺のクラスに木下という名前の女の子がいた。
「…木下さん、どうして。」
「良かった…本当に吉田君なんだ。見た目が同じだから声かけちゃったよ。」
「木下…えっとミキッコさんはどうして【リアル】の中に?」
「ここって、やっぱり【リアル】の中なんだね。目を開けたらね、いきなり真っ白な部屋にいて【リアル】へようこそって、アナタは【リアル】の中に閉じ込められてしまいましたって言われて…それでまず、見た目と種族を決めてくださいって言われてホログラム画面っていうのかな?そういうのでタッチして決めていくんだけど…えっとね、学校とかも決めれるんだよ。」
「学校が決めれるだって?学校って…。」
「りき、大変だ。初心者村のMAPが変わってる…かなり多くなってる…五角形の先端位置に学校が設置されてる…端にあったのはソロモンの塔だったはずなんだけど…ソロモンの塔が町の外れにいっちゃってるよ。」とシンは急ぎでホログラムで画面を見せてくれた。
「うわ。ほんとだ。」
「え?何かなってるの?」と不安そうな顔をする木下さん。
「いや…ううん。ミキッコさんは今どういう状況に置かれているかとかわかる?」
「え?【リアル】の中に閉じ込められたって事くらいしか…。」
チャイムが鳴った。
「あっ…授業が始まっちゃう!行かなきゃ…。」
「あ、待って木下さん。フレンド登録しておこう!送るよ!」と俺は急いでフレンド登録申請をだして「OKボタンを押すだけだよ。」と言った。
「こう…かな。ありがと!またね!」と走って教室へ帰っていく木下さん。
どうやら授業に絶対出ないといけない何かがあるように見えた。
詳しい事は後日メールでやり取りするしかないかな。
俺とシンは一度会議室へ戻る事にした。