油川入城 第四話
……松明を燈した夜は過ぎ、辺りは再び明るさを取り戻した。そして噂というものは早いもので、明行寺を中心に行われたことが、昼過ぎほどにはほとんどの町衆へと知れ渡ってしまった。この行為はまさしく寺が為信に味方したように見え、事前に侵攻のことを城に教えなかったことも著しき問題である。問いを受けた寺の僧侶らだが……答えに窮した。もちろん町衆の言いたいところは理解できる。ただし彼らは頼英の意図を知っているので、無下に頼英を追い詰めるわけにもいかぬ。かといって擁護するような話をしようものなら……自らの命が危ない。
町衆はなかなか話したがらぬ僧侶らを見て、これでは埒が明かぬと彼らを捨て置き、頼英の下へ参らんと寺の奥へ奥へと向かう。……さすがにそれはならぬと僧侶らは慌てて止めにかかり、それでも奥へ進もうと企む者は……拳をふるった。
奥を見られれば、柱に縄で縛られた妙誓がいる。あれを見せてしまえば……すべてが終わる。何としても防ぎとめるのだ。それとも一番悪手かもしれぬが……城に詰める大浦兵へ助けを求めようか。
時を同じくして、庫裏には頼英を睨む妙誓。師匠より事のあらましのすべてを教えられ、そしてすべてが終わってしまったことも知った。“今すぐ縄をほどけ”と喚くのだが、頼英はもちろん、周りにいる僧侶の誰も縄をほどくはずはなく。そんな状態の彼女を離したら、いったいどうなることやら。般若面の妙誓は叫ぶ。
「師匠は敵に魂を売った。お売りになったのですぞ。いくら民の命を救うために松明を掲げたとて、兄上の説得をしたところで、罪は罪。重たき罪。畜生道に落ちればいい。」
頼英は反論しない。あの時はすでに趨勢が定まっており、奥瀬は為信に敗れることは変わらなかった。言い訳したいことは山ほどあるが……いまの妙誓に利くのは、兄からの文書のみ。懐よりそれを出し、静かに妙誓へ差し出すのだ。




