弟の腐心 第二話
変事の報が入って後、翌十八日には二千の兵を大浦より南方の堀越城に集結させ、事態の変化を見守った。……しかし何も起きず、安東方では比内を抑えるのに手いっぱいと見える。津軽への干渉は一切なかった。
そして浅利家中よりこちら側に逃げてきた者は百名に上り、その中には亡き浅利勝頼嫡男の頼平や分家の実義らが含まれていた。特に実義は六羽川合戦で安東方として攻め入ってきた大将の一人であり、捕えられたが殺されずに解放された。それが再び津軽へ舞い戻ってきたのだから皮肉である。そんな彼は泣きながらに訴えるのだ。
「何卒、何卒……比内の奪還を……。」
とは申せ、大浦は相当痛めつけられた。傷はまだ癒えぬ。本音では津軽の諸将は戦をやりたいだろうが、そんな無理くりの “じょっぱり” に任せてられぬ。そこでこのように申し伝えた。
「我らの一存では決めることができぬ。南部の殿様に図ることだな。」
“嗚呼”とその場にひれ伏し、隣の頼平はだまって俯くのみ。ひたすら我慢する。その様を広間にて聴く大浦の重臣ら、乳井と小笠原の二柱のほか、沼田、兼平、森岡、八木橋ら諸将。それぞれに思うところはあるだろが、誰が言いだしっぺになるか様子を窺う。
……誰も話しはじめないので、実義の嘆きのみがこだまし、なお一層の悲壮感を醸し出した。最後には耐えられなくなった乳井が襖に控える侍を呼び、この者たちを休ませるようにと促す。実義と頼平は……引き下がるしかなかった。
そして二人が広間より去ったのち、兼平が口を開く。
「多田殿は……来ぬのですね。」
為信は静かに頷く。そんな時、場をわきまえぬ閑古鳥が鳴いた。なにやら空虚な心地もする。……明日の我が身は彼ら。だからこそ、迫る危機を除かねばならぬ。