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津軽藩起始 油川編 (1581-1585)  作者: かんから
第一章 津軽為信、側室を取る 天正十年(1582)夏
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弟の腐心 第二話

 変事の報が入って後、翌十八日には二千の兵を大浦より南方の堀越(ほりこし)城に集結させ、事態の変化を見守った。……しかし何も起きず、安東方では比内(ひない)を抑えるのに手いっぱいと見える。津軽への干渉は一切なかった。


 そして浅利家中よりこちら側に逃げてきた者は百名に上り、その中には亡き浅利勝頼嫡男の頼平(よりひら)や分家の実義(さねよし)らが含まれていた。特に実義は六羽川(ろくわがわ)合戦で安東方として攻め入ってきた大将の一人であり、捕えられたが殺されずに解放された。それが再び津軽へ舞い戻ってきたのだから皮肉である。そんな彼は泣きながらに訴えるのだ。



 「何卒、何卒……比内の奪還を……。」



 とは申せ、大浦は相当痛めつけられた。傷はまだ癒えぬ。本音では津軽の諸将は戦をやりたいだろうが、そんな無理くりの “じょっぱり” に任せてられぬ。そこでこのように申し伝えた。


「我らの一存では決めることができぬ。南部の殿様に図ることだな。」


 “嗚呼”とその場にひれ伏し、隣の頼平はだまって俯くのみ。ひたすら我慢する。その様を広間にて聴く大浦の重臣ら、乳井(にゅうい)と小笠原の二柱のほか、沼田、兼平、森岡、八木橋ら諸将。それぞれに思うところはあるだろが、誰が言いだしっぺになるか様子を窺う。



 ……誰も話しはじめないので、実義の嘆きのみがこだまし、なお一層の悲壮感を醸し出した。最後には耐えられなくなった乳井が襖に控える侍を呼び、この者たちを休ませるようにと促す。実義と頼平は……引き下がるしかなかった。


そして二人が広間より去ったのち、兼平が口を開く。



「多田殿は……来ぬのですね。」



 為信は静かに頷く。そんな時、場をわきまえぬ閑古鳥(かんこどり)が鳴いた。なにやら空虚な心地もする。……明日の我が身は彼ら。だからこそ、迫る危機を除かねばならぬ。


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