人の道 第二話
「本当にいいのだろうか……。」
ある僧侶は言う。すると他の僧侶も悩みつつ、
「すでに浪岡が裏切ると定まっていた時点で、勝つ見込みはないのだ。戦を起こさぬためには、こうするほか……。」
「しかし我らは裏切るのですぞ。あの奥瀬様を。」
「それはそうだが……ほかにやり方あるのか。」
口々に不安を語り、それを無理やり押さえつけるように訳を並べては、話すことで己をも納得させようとしている。そんな闇夜ではあったので、特に風が吹くと否応なく寒い。春になりたての東風なので肌寒いのは確かなのだが、なにやら心寒さか底冷えというか……漠然たる恐怖。己らの手で明日の未来は全く違うものに変わる。その一つの担い手として我らが動いているのだ。
すると後ろの木々の陰より、まとめ役の僧侶が姿を現した。少しだけ話し声が聞こえていたようで、まずは大浦兵に聞こえることへの恐れを叱咤した。ただし彼もまた恐れを感じているのは同じである。
「我らは何も大浦に尻尾を振って、従ったわけではないぞ。だからこそ今、動いているではないか。」
雪が解けたばかりの山の中。乾ききっていない土の上を歩くので、草履はすでに泥まみれ。油断すると倒れてしまいそうな土壌を動くわけだし、加えて大量の太い木の棒を背中に担いでいるので、疲れを感じずにはいられない。
「大浦に従うだけなら、兵らを油川へ導きさえすればよい。だが我らはそうせぬ。油川に血が流れるからではないか。」
“あの妙誓尼を住職に据えてしまう頼英様だぞ。羊のように優しい顔をしておられるし、もちろん優しいお人だが、中には雷をもっておられる。……普段こそ出さぬがな”
血のつながった者を人質に取られたからというわけでは決してなく、ただただ衆生の命を救うための決断をしたのだ。なにも大浦にひれ伏したのではないし、ある意味で彼らに一泡吹かせてやろうという企みでもある。その意図を明行寺に住まうほとんどの僧侶がわかっているので、皆々頼英の言うとおりに動いている。




