表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
津軽藩起始 油川編 (1581-1585)  作者: かんから
第六章 堤弾正、暗殺 天正十二年(1584)秋
61/102

不本意 第五話


 沼田は茶碗の白湯を呑み切った後、今度は頼英にも同じように呑むように勧めた。頼英は再び白湯を入れると……少しだけ口を付けて、目の前に置く。そして沼田へ、何が為に来たのか問うのだ。沼田は一つ咳払いをしてから……急に顔から表情を無くし、淡々と言葉を語り始める。



「頼英様の亡くなられた兄上のご家族、また息子らの嫁子などなど……嘉瀬(かせ)というところにお住みのようで。」



 なぜそのようなことをいいだすのか、疑問でしかない。そんな疑問を尻目に、沼田は続ける。


「この度、我らはご家族を大浦城下へお移し遊ばしました。特に頼英様と血が繋がっておいででございますれば、住む所はしっかりとした造りで。着るものや食べるものも思いのままに差し上げております。」








 ……頼英はこの時点で悟った。沼田は何か要求してくるのだろうと。それも彼らを人質として……。


「また、将来的にはこの明行寺を大浦へお移しいたしませぬか。倍の敷地でお出迎えいたします。」




 言葉にてはっきりと “命と引き換えに” と話す訳ない。それこそ野蛮というもの……。頼英は黙ったまま、次の句をきく。


「しかれば我ら大浦家は、春になりましたら油川へ詣でたいと考えております。その時の道案内をお願いしたく。」




 卑怯な……。体は小刻みに震え、怒りなのか、はたまた違う感情によるものなのか。怖さか、恐ろしさか。目の前にいる人物は鬼か邪か。この際 “油川へ攻め込むから、協力せよ。さもなくばお前の家族の命はない” と言い放たれた方がどれだけ楽か。それをわざわざ遠回しにいう辺りも卑劣。激しくも言い返せぬ。


 当然己に子はおらぬ。僧侶ゆえ。だが郷里に残す家族はかけがえのない存在。ただしそんな手には乗らぬと申したら……どうなるのか。


 沼田はそんな頼英の何かを悟り、言葉を加えた。



「油川入りの際、白取様が御先頭に立たれます。道に迷って違う所へ ”ふらつく” ことはないことと思いまするが、もしもという時がありましょう。後ろには津軽衆が付き従いますし、いらぬ過ちを生まぬことを願います。」

 




 囲炉裏(いおり)は、嫌にあつい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ