不本意 第五話
沼田は茶碗の白湯を呑み切った後、今度は頼英にも同じように呑むように勧めた。頼英は再び白湯を入れると……少しだけ口を付けて、目の前に置く。そして沼田へ、何が為に来たのか問うのだ。沼田は一つ咳払いをしてから……急に顔から表情を無くし、淡々と言葉を語り始める。
「頼英様の亡くなられた兄上のご家族、また息子らの嫁子などなど……嘉瀬というところにお住みのようで。」
なぜそのようなことをいいだすのか、疑問でしかない。そんな疑問を尻目に、沼田は続ける。
「この度、我らはご家族を大浦城下へお移し遊ばしました。特に頼英様と血が繋がっておいででございますれば、住む所はしっかりとした造りで。着るものや食べるものも思いのままに差し上げております。」
……頼英はこの時点で悟った。沼田は何か要求してくるのだろうと。それも彼らを人質として……。
「また、将来的にはこの明行寺を大浦へお移しいたしませぬか。倍の敷地でお出迎えいたします。」
言葉にてはっきりと “命と引き換えに” と話す訳ない。それこそ野蛮というもの……。頼英は黙ったまま、次の句をきく。
「しかれば我ら大浦家は、春になりましたら油川へ詣でたいと考えております。その時の道案内をお願いしたく。」
卑怯な……。体は小刻みに震え、怒りなのか、はたまた違う感情によるものなのか。怖さか、恐ろしさか。目の前にいる人物は鬼か邪か。この際 “油川へ攻め込むから、協力せよ。さもなくばお前の家族の命はない” と言い放たれた方がどれだけ楽か。それをわざわざ遠回しにいう辺りも卑劣。激しくも言い返せぬ。
当然己に子はおらぬ。僧侶ゆえ。だが郷里に残す家族はかけがえのない存在。ただしそんな手には乗らぬと申したら……どうなるのか。
沼田はそんな頼英の何かを悟り、言葉を加えた。
「油川入りの際、白取様が御先頭に立たれます。道に迷って違う所へ ”ふらつく” ことはないことと思いまするが、もしもという時がありましょう。後ろには津軽衆が付き従いますし、いらぬ過ちを生まぬことを願います。」
囲炉裏は、嫌にあつい。




