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津軽藩起始 油川編 (1581-1585)  作者: かんから
第一章 津軽為信、側室を取る 天正十年(1582)夏
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家族の事 第五話

 そして城に戻り、子供の顔を見ようものなら……きっと罪悪感が湧くだろう。そこで自然と二ノ丸へ行かず、わざと本丸へ向かった。高いところであれば幾ばくかは涼しいだろうと(うそぶ)くために。


 後ろを歩く従者は、なんとなく察している。かといって止める(いわ)れはないし、ただただ己の任を果たすのみである。曲輪を隔てる土塁にかかる橋を黙って渡っていると……背に迫る気配を感じた。刀の(つば)に手をかけ……もちろんすぐ抜けるように。為信も一端(いっぱし)の武者なので、やはり気づく。だがすぐに敵でないことも悟った。従者よりは少しだけ早く。



「殿、よろしいでしょうか。」


 その声は落ち着いている。為信より少しだけ背が高く、最近は口の上に髭を生やし始めた。小袖(こそで)肩衣(かたぎぬ)は他の者とそんなに変わらぬが、なにやら儒学者のようにも見えたりもする。あながち間違いでもないが……昔は(うらない)をやっていただろうし。


「おお、沼田ではないか。何かあったか。」


「私も本丸へ参りますゆえ。」



 そして耳元で小さく伝えるのだ。




(秋田にて、変事がありました。)






 為信もさして顔を変えぬ。一応は従者にも悟られてはならぬ。このように沼田が夜に参ったところを見ると、まだ出回っていない話だろう。ただし従者のほうも何やらあると勘づいたようで、「急用がございますれば」と申すなり、渡っていた橋を引き返していった。為信は……沼田へ言う。


「今日はの……気分が良きままに寝たいのだ。」


 沼田は苦い顔をしつつ、「それは残念です。」 と情け無用に応える。為信としては……笑うしかない。沼田は……真顔に戻り、事を伝えた。



「安東が比内(ひない)浅利(あさり)勝頼を誅殺しました。早道(はやみち)によると、潜ませていた兵を混乱に乗じて城へ入れ、領国を乗っ取ったようです。」


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