不本意 第三話
天正十三年(1584)の正月を迎えた。この年は久慈信勝の手配りにより、浪岡にて祝い事が営まれた。新たな年を迎える喜びはさることながら、奥瀬と大浦が姻戚になるという仮約束を結んだことへの祝いも兼ねていた。ちなみにこの場に白取はいない。病にふせたと自邸に籠っている。
奥瀬善九郎と大浦為信は浪岡城の茶間にて対面を果たし、過去の恨み言などなかったかのように酒を呑みかわした。外は白一色で、深く掘られている堀が埋まるくらいの雪が積もっている。そして今……新たに小さめのふわふわとした雪が舞い降り始めた。為信は外を見て “美しいな” とは思いつつ、すべてを覆いつくしているこの “白” という色合いがなくなってしまえば、隠しようのない汚い世界が待ち受けていることも知っている。決戦は雪解け後の三月……。
立って外を眺め酒を傾ける為信に対し、座してチビチビと杯を頂く奥瀬は話しかけた。
「しかしの……お主の弟君のお考え、感服するところ。今や津軽の患部はかつての大浦ではなく白取である。堤氏を暗殺した白取を除かねば未来はない。」
為信は……奥瀬の方へ振り向き、背中を壁に付けながら言葉を返す。
「その通りです、奥瀬殿。奥瀬と大浦ががっちりと結びつくことによって、白取を両側から押さえる。私も戦が好きというわけでない。まずは浪岡から原別へと無理やりお戻りいただくのが良きこと……。」
奥瀬は……次第に酔いが回ってきた。こんな日が本当にきたのかと大変感慨深く、かつての敵味方が同じ目的のために尽くしている……。六羽川の時に滅ぼしきらずによかったとも思える。
為信は……いいやつだ。彼は決して戦は好まぬし、あくまで民の事を考えての暴挙であった。 ”防風” と ”治水” を成すために、諸将と話し合いを持ったがうまくいかず、もしまとまっていたならば、大光寺や浪岡での戦はなかったのだから。




