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津軽藩起始 油川編 (1581-1585)  作者: かんから
第六章 堤弾正、暗殺 天正十二年(1584)秋
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不本意 第一話


 浪岡四日町、代官の白取(しらとり)伊右衛門(いえもん)邸。その時は雪になり切れない何やら冷たいモノが続けざまに降っている夜だった。白取は為信の懐刀である沼田祐光と密会を取り持つ……。



 少しずつ少しずつ、小さな盃にて酒を含みながら……白取は沼田の話をじっくりと聞く。初めこそ虚勢を張れど思うところがあり、真顔へと変わっていく。頼れる勢力は南部の他に大浦しかない。己が生き残るということを考えれば、寝返るのも一つの手……わざわざ沼田が言わなくても、考えればわかること。言いなりになって原別(はらべつ)へ戻っても、疑いが晴れたわけではない。いずれ誅殺されて終わりだ。


 沼田は言う。


「もちろん白取様は養女と言えど、大浦家の外戚。無下にすることは致しませぬし、正室の千徳氏に続いて三番目の地位に就くことを保証いたします。このまま浪岡を治めて頂いても結構です。」


 千徳より下なのは苛立つが……浪岡の土地を持てることは申し分ない。浪岡に詰めている白取の郎党が大浦家に付けば、外ヶ浜(そとがはま)における南部軍の兵力は半減。堤氏は新しい当主が継いだばかりで機能しておらぬし、後は油川の奥瀬氏のみ……。


 下に見てきた大浦に従うのも悔しいが、生き残るには仕方ない。白取は感情のみではなく、こうして理的に考えることもできた。ただし気がかりなのは久慈信勝。あ奴だけが “よくわからぬ” 動きをしておる。あいつだけが煩くて仕方がない。どうしてくれようか……。


 すると沼田はこのように言う。


「信勝殿がこれから何かを成し得ることはありませぬ。白取殿が浪岡にいらっしゃる以上は、信勝殿を大浦に戻しまする。」


「しかし信勝を大浦家中でも恨んでいる者が多いと聞く。それに当人が拒絶するやもしれぬではないか。」


 静かに首を振る。




「いえ、今度は御家を援けた武者として迎え入れられることでしょう。」


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