家族の事 第四話
灯には冷たいものがあれば、温かいものもある。複数ある松灯台に点けられた明かりは、為信の目には小笠原と妻、そして娘をぬくもりを以て包んでいるようにも見えた。
いくら離れ離れに暮らしていても、強い思いがあれば覆すことができる……。為信の思った前説はすでに成り立たないのだが、小笠原だけを例外として分けておくことにする。
為信を加えた四人が小さな一室にいるのだが……夏の暑い時なので、襖は開け放たれている。月はたまに雲に覆われるのだが、とても薄くほとんど無いようなものなので、暗いということはまずない。耳を澄ますと夏虫の声、廊下の奥に侍る従者の息。為信は目の前に座る小笠原の椀に、大瓶より酒を注ぐ。トクトクと音を鳴らし、小笠原はその様をいつもの無愛想な顔で見つめている。すると隣より妻が声をかけた。
「何か言いなさいよ……。さすがに殿の前ですから。」
小笠原は黙ってうなずいたが、特に何を話すわけでもなく、そのまま椀を口にした。
「わかっておる。小笠原殿なのだから、言葉がなくともよい。」
少しだけ妻は呆れた。娘はその顔を見て、きっと面白かったのだろう。薄っすらと照らされたその透き通った手で口を押えつつ、顔を崩した。声ははっきりとしないが……笑っているのだろう。
信州での暮らしは大変貧しかったと聞いている。そうでありながら、なんと品のある娘に育ったものか。やはり彼の血なのか、“道を極める”という意味で受け継いでいるのだろう。ともに夕餉を共にして、非常によくわかる。あと言葉が少ないという点もそうだ。
もう少ししたら、また呼ぼうか。回を重ねれば……娘の口数というのも増えてこよう。興味はある。かつ己は自由にできる立場だ。申し訳も付く。止める理由もない……と気づかれぬように、心の中で盛り上がる。