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津軽藩起始 油川編 (1581-1585)  作者: かんから
第一章 津軽為信、側室を取る 天正十年(1582)夏
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家族の事 第四話


 (ともしび)には冷たいものがあれば、温かいものもある。複数ある松灯台(まつあかし)に点けられた明かりは、為信の目には小笠原と妻、そして娘をぬくもりを以て包んでいるようにも見えた。


 いくら離れ離れに暮らしていても、強い思いがあれば覆すことができる……。為信の思った前説はすでに成り立たないのだが、小笠原だけを例外として分けておくことにする。


 為信を加えた四人が小さな一室にいるのだが……夏の暑い時なので、襖は開け放たれている。月はたまに雲に覆われるのだが、とても薄くほとんど無いようなものなので、暗いということはまずない。耳を澄ますと夏虫の声、廊下の奥に侍る従者の息。為信は目の前に座る小笠原の椀に、大瓶より酒を注ぐ。トクトクと音を鳴らし、小笠原はその様をいつもの無愛想な顔で見つめている。すると隣より妻が声をかけた。


「何か言いなさいよ……。さすがに殿の前ですから。」


 小笠原は黙ってうなずいたが、特に何を話すわけでもなく、そのまま椀を口にした。


「わかっておる。小笠原殿なのだから、言葉がなくともよい。」



 少しだけ妻は呆れた。娘はその顔を見て、きっと面白かったのだろう。薄っすらと照らされたその透き通った手で口を押えつつ、顔を崩した。声ははっきりとしないが……笑っているのだろう。


 信州での暮らしは大変貧しかったと聞いている。そうでありながら、なんと品のある娘に育ったものか。やはり彼の血なのか、“道を極める”という意味で受け継いでいるのだろう。ともに夕餉を共にして、非常によくわかる。あと言葉が少ないという点もそうだ。


 もう少ししたら、また呼ぼうか。回を重ねれば……娘の口数というのも増えてこよう。興味はある。かつ己は自由にできる立場だ。申し訳も付く。止める理由もない……と気づかれぬように、心の中で盛り上がる。


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