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津軽藩起始 油川編 (1581-1585)  作者: かんから
第五章 安東氏、為信と再び和睦す 天正十一年(1583)秋
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不犯札 第一話   +験所館絵図

「お前にはわかるまい。我らがどんな気持ちで異なる土地へ流れ着いたか。俺ははるか遠くまでついてきた奴らを援けねばならぬ。だからこそ奪い取るのみ。」


 角兵衛のその言葉へ妙誓はすぐさま返す。


「そのような道理は成り立たぬ。」



 生玉角兵衛、馬上の尼が油川から来たと(のたま)っていたのもさることながら、しかも女が男を下に言い返す姿も許せない。無理やり引きずりおろせと近くの野郎に言うが……恐れをなして拒絶する。



「しかし……あの油川城主の妹君(いもうとぎみ)と名乗っている以上は。」


 何かあれば、それは南部氏と敵対したことになる。大浦氏といえども南部氏に従っている現状、これまでのように無視することはできない。だが角兵衛は収まらぬ。(けむ)の量が幾分多くなった村の中、角兵衛は首を上げて馬上の尼へ文句を言い放つ。


「俺は初めてこちらへ来たとき、同じ宗派が多いと聞く油川に着いた。しかし奴らは金目の物しか興味なく、一文無しの野郎はすぐに追い出してしまった。銭にまみれた都よ。そんな世界からきたというお主に、俺らの苦しい様がわかろうか。」


妙誓も言い返す。


「何を申しておられる。持てる何かを譲って何かを得るというのは商人の常だろう。暮らしの事を考えるのならば、下手な自尊心など捨てて、用心棒になればよい。十分に屈強そうだから、力を与えて暮らしのために銭を得る。……それとも何か。できぬ謂れでも。」


 そして彼女は心の中で思う。仏法のみ、何かを譲り与えることができる道。だからこそ私は人を援けるのだと。お主らも頼ればよい。




 角兵衛は頭にくる。頭に血がのぼる。これでは通じ合えぬ。この尼は本当の苦しみを……流れ着いたものの現状を理解しておらぬ。……殺そうか。そうだ、殺そう。馬から引きずり降ろして、服もはぎ取ろう。決して若くはないが……野郎どもも溜まっていることだろうし。


 しかし角兵衛に付き従う野郎どもは、彼を必死に(なだ)めようとする。


「奴は本物です。名も高く、外ヶ浜(そとがはま)や津軽で知らぬ者はない。いま殺せば、我らは津軽におれなくなります。」


 苛立ちに任せ……拳をその場に振り上げ……、かといって何もできぬ。消すことのできぬ、やり場のない苦しみ。怒り。



験所館絵図

https://18782.mitemin.net/i410961/

挿絵(By みてみん)


2018/02/15  挿絵に関して


出典元:特集 津軽古城址

http://www.town.ajigasawa.lg.jp/mitsunobu/castle.html

鰺ヶ沢町教育委員会 教育課 中田様のご厚意こうい(あずか)りまして掲載が許されております。小説家になろうの運営様にも、本文以外でのURL明記の許可を得ております。


光信公の館

〒038-2725

青森県西津軽郡鰺ヶ沢町大字種里町字大柳90

http://www.town.ajigasawa.lg.jp/mitsunobu/

TEL 0173-79-2535


鰺ヶ沢町教育委員会 教育課

〒038-2792

青森県西津軽郡鰺ヶ沢町大字本町209-2

TEL 0173-72-2111(内線431・433)

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