蝦夷荒 第四話
兼平も十分にわかっている。だが人との繋がり、絡み合う利害。特に兼平氏は本拠の兼平村とは別に、西浜の田野沢(=大戸瀬漁港)も勢力圏だ。いつしか鯵ヶ沢の商家長谷川と合同で他国者の引き入れを行うようになっており、言わば他国者の利益の代表者でもある。特に六羽川合戦以降、深浦が安東領になったおかげで、目と鼻の先まで安東領に変わった。(現代の深浦町の領域ではなく、港町の集落としての深浦と思ってほしい)緊急時に対応する武力として他国者が入用なのだ。
エゾ衆の言い分はわかる。他国者が嘘をついているのもわかる。だが馬鹿正直に “嘘” を見抜くわけにはいかぬのだ。罰するとしてもそれは軽いもの……。なにもエゾ衆にその身柄を引き渡し、むざむざと殺させるわけには参らぬ。何も利が欲しいわけではないが……それで家の者は食っていけるのだ。
もちろんエゾ衆が交易でもたらす利も見過ごせない。彼らは北方との繋がりを以て、珍しい動物の毛皮や食べ物などを仕入れてくる。それら商人は商家長谷川にとっても重要なモノ。理右衛門はどのようにお考えであるか……と、兼平は隣の理右衛門をチラリと見る。
すると理右衛門はたいそう穏やかに、エゾ衆へこう伝えた。
「角兵衛というやつは生粋の乱暴者故、他の者はそうでもないから安心なされよ。彼も教え諭せば同じ津軽の民になりえる。赦してはくれぬかのう……。」
“しがらみ” ということでいえば、エゾ衆と商家長谷川は商品取引で密接に関係している。エゾ衆は持ってきた商品を商家長谷川に売り、代わりに和人の産物を得ているからだ。なので兼平に強く文句を言えても、理右衛門にはどうもしり込みしてしまう。……そして理右衛門は同じような口調で続けた。
「ただし他国者が狼藉を働いてしまうは、落ち着いて暮らせる場所がないからだろうの。そこでじゃ。エゾ村に自由に他国者が出入りすることを許してほしい。そして耕しておらぬ土地を彼らに貸し、代り彼らから産物をいくらか貰えばいい。どうであろうか、草ぼうぼうにしておくよりかはいいと思うが。」




