家族の事 第二話
私には二人の男子の他に、娘の富子もいる。後ろを小さな足で歩く娘の姿というものも、かけがえのない存在。こうして生まれたときから共に過ごすことも、今の世の中からすれば特別なのかもしれぬ。
かつて小笠原は妻子を縁者に預け、諸国を浮浪した。そうして津軽の地までたどり着き、最後にはわが家臣となった。こちらでの暮らしが落ち着くまで家族と離れ離れだったが、二年ほど前に呼び寄せた。もっと早く来させてもよかったはずだが……小笠原の中でなにかしらの “ふんぎり” というものがあるのだろうか。彼は十分に手柄を立てているし、誰も非難する者なるいるはずがない。もちろん "ありえぬ" 一件はあったが、それは決して彼のせいではない。いまさら何を遠慮していたのか。
……だからこそ、信頼におけるともいえよう。ふと気づくと、平太郎と総五郎の二子が去った後の門前に、一人の若い娘がきょろきょろと目を泳がせていた。装いはきらびやかというわけではなく、どちらかというと粗雑な……いや農婦がここに来るはずもないし。城中であるのだから。
いつしか目が合う。為信もさすがに誰であるか気付く。
「もしや、小笠原殿の子女であるか。」
最初こそ娘は呼びかけられたことに慌ててしまい言いよどんだが、手元に持つ風呂敷包みに目を移しつつ、小さめな声で答えた。
「はい。父上が忘れて行かれたので……どちらへ向かわれましたか。」
「もうあちらの方へいったぞ。」
為信は小笠原の向かった方を指さした。すると娘は慌てて一礼をし、小走りにその場を去った。
娘の富子も、十年も経てばあのようになるのだろうか。なんとも気立てのよさそうな印象……。
今度、小笠原の家族を城に招いて語らってみようか。