力の向かう所 第三話
野郎どもの一人が笑いながら話し出した。
「それは……エゾ村のことか。」
「ああ、そうだ。あいつらは平原に家を持っているくせに、その周りの土地を耕そうとしない。川沿いに陣取っているやつらもおり、さぞ恨めしいではないか。」
“恨めしい……”
その言葉を聞いて、角兵衛と同じ他国者らは大いに騒ぎ出した。“確かにそうだ” “なぜそのような存在がある” と。一方で津軽出自の不埒者らはピンと来ていない。その中の一人が言うには……
「なあ。恨めしいも何も、彼らは狩や漁などして暮らしている。たまに物々交換に来るくらい、殿にも大きな獲物を献じているぞ。」
角兵衛はその言葉に対し、ゆっくりと長く首を振る。
「いいや、それはお前らが見慣れているからだ。狩をするだけなら山奥に住めばよい。摂津ならそうだ。マタギは人里より遠く離れたところにいる。漁であれば湊沿いの商家の立ち並ぶ前に船をつけ、田畑のど真ん中ではなく町屋で暮らしている。これが”常道”というものだ。……そしてここにたどり着いた他国者は多くなった。あの土地をお譲り頂いても、バチは当たるまい。」
酒もほどほどに入っているので、他国者を中心に多くの者が “そうだ、そうだ” と賛同する。かえって在地の者は慌ててしまった。
「いや……しかしエゾ村から嫁をとった者、または入った者もおるし。風俗こそ違えど田畑を耕したり、我らとそんなに変わらない者もおる。それに、あ奴らが昔から暮らしている土地ぞ。これまで我らは仲良くしてきた。……それをそちらさんのマタギと同じように言われても……の……。」
すると角兵衛、強めに言い返す。
「ならばお前たちに聞くが、どこからが狄でどこまでが “俺ら” なのか。誰もが信心している仏門にも頼らず……このさい宗派などどうでもよい。日ノ本の民でない者を追い払い、我らが土着する。」
日ノ本は有史以来そうしてきた。今更、何を恐れている。




