力の向かう所 第二話
長谷川三郎兵衛の屋敷は、夜な夜な他国者や不埒者の鬱憤を晴らす場として使われた。昼間は商店として、夜は賭け場として機能する。……今や浪岡が南部直轄領へと代わり、為信時代の過ごしやすい暮らしはない。南部の代官様にこびへつらい、ことあるごとに税を納めなければならぬ。しかも聞くところによると……在来の者はそのようなものを取られていないらしい。さらに彼らは何かと我らを敵視する。浪岡は実質……二分されてしまった。
屋敷の奥の納屋で賽子を転がすは生玉角兵衛。茣蓙に胡坐をかいて待つは野郎ども。角兵衛の後ろで目を光らすは……ヤマノシタ。……賽の目は ”六” を示し、その数を見た野郎どもは……笑う者、泣く者、地団駄踏む者さまざまだ。
その表情の一つ一つをヤマノシタは臨み、気づかれぬようにニヤリと面白がるのだ。彼は他国者や不埒者を束ねる長の一人で、浪岡に根を張って四年年経ったか。その短い間でもお上が二度変わり、人の激しい移り変わりが感慨深い。そして新たにやってきた者がここにも一人……角兵衛だ。
角兵衛は畿内にて本願寺に付き、織田に破れた。摂津より遠く津軽の地まで流れ着き、ヤマノシタに囲われている。その性格は厚く、彼を慕って何人もの同志が津軽へと渡ってきた。つまりは面倒見の良い男……というところが気に入っている。表は豪快にやってのけるが、裏では仲間へ非常に細やかな気配り。だからこそ彼はヤマノシタのお気に入りだ。
そんな角兵衛は賭け事が引けた後、各々が申す鬱憤に対してこう応えた。
「戦を外に仕掛けるのはダメ、かといって他所にいっても苦労は同じ……ならば内側に向けてみよ。」
野郎どもは角兵衛へその汚らしい顔を向ける。
「摂津の人間から見れば、奥州人は十二分に狄だ。北奧は特にそう。だが来てみてわかったことが……お前たちも私と同じ日ノ本の民だった。"まつろわぬ民" では決してない。ただ……この津軽の中にも米や銭を一切納めぬ奴らがいるのお。」




