悪評 第四話
その刻は日高く、城内の隅々まで外の光が差し込んでいた。夏の陰りを感じさせず、多田の立つ姿の後ろには、色濃く影ができあがっていた。
大浦城の大広間。為信を上座に、重臣らが横にて座している。多田玄蕃は立ったまま、為信に喧嘩腰に話し出す。
「祝着至極に存じます。今から花嫁をもらい受けます上、こちらへ連れてきて頂きたい。」
為信はいまだ事態を呑み込めぬ。一方で多田の言葉は続いた。
「殿は六羽川合戦で本陣にて共に戦った間柄。その時は殿を殿として見ておりました。しかしこのままでは殿に従うことはできませぬ。」
「多田殿、落ち着かれよ。婚儀のことは進めておるし、……これまで出仕してこなかったのは、そちらではないか。」
多田は首を振る。
「いや、それはあくまで殿が "偉大なる" 殿でなくなったからだ。もちろんわが父の多田秀綱は事実上裏切ったかもしれぬ、いえ裏切っておりました。多田家の大いなる恥です。」
玄蕃はそこまで言い切ると、果ては息が続かなくなったと見えて、口を大きく開けて息を吸った。そして続けざまに、さらに大きく叫ぶかのように訴える。
「しかし私は違う。最初から今まで殿を裏切る気など一切ない。出仕しなくなったのは……殿の緩みが甚だしく、夢や希望もないと見える。弟君の言いなりに戦を終わらせ、夢や希望を失われた。そして此度の事……。」
唾を呑む。
「今度はあろうことか婚儀の決まった娘を、横からさらう気だともっぱらの噂。しかもその娘とは、私の妻となるべき相手だと……。もちろん殿には逆らいませぬ。しかし此度のこと。この日を以て婚儀となし、三々目内へとお迎えに上がりました。さあ、今こそ花嫁をお連れ下さい。」




