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津軽藩起始 油川編 (1581-1585)  作者: かんから
第二章 多田玄蕃、為信に従う 天正十年(1582)晩夏
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悪評 第四話


 その刻は日高く、城内の隅々まで外の光が差し込んでいた。夏の陰りを感じさせず、多田の立つ姿の後ろには、色濃く影ができあがっていた。


 大浦城の大広間。為信を上座に、重臣らが横にて座している。多田玄蕃は立ったまま、為信に喧嘩腰に話し出す。



「祝着至極に存じます。今から花嫁をもらい受けます上、こちらへ連れてきて頂きたい。」


 為信はいまだ事態を呑み込めぬ。一方で多田の言葉は続いた。



「殿は六羽川合戦で本陣にて共に戦った間柄。その時は殿を殿として見ておりました。しかしこのままでは殿に従うことはできませぬ。」


「多田殿、落ち着かれよ。婚儀のことは進めておるし、……これまで出仕してこなかったのは、そちらではないか。」



 多田は首を振る。


「いや、それはあくまで殿が "偉大なる" 殿でなくなったからだ。もちろんわが父の多田秀綱(ひでつな)は事実上裏切ったかもしれぬ、いえ裏切っておりました。多田家の大いなる恥です。」



 玄蕃はそこまで言い切ると、果ては息が続かなくなったと見えて、口を大きく開けて息を吸った。そして続けざまに、さらに大きく叫ぶかのように訴える。



「しかし私は違う。最初から今まで殿を裏切る気など一切ない。出仕しなくなったのは……殿の緩みが甚だしく、夢や希望もないと見える。弟君(おとうとぎみ)の言いなりに戦を終わらせ、夢や希望を失われた。そして此度の事……。」



 唾を呑む。



「今度はあろうことか婚儀の決まった娘を、横からさらう気だともっぱらの噂。しかもその娘とは、私の妻となるべき相手だと……。もちろん殿には逆らいませぬ。しかし此度のこと。この日を(もっ)て婚儀となし、三々目内(みつめない)へとお迎えに上がりました。さあ、今こそ花嫁をお連れ下さい。」


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