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津軽藩起始 油川編 (1581-1585)  作者: かんから
第二章 多田玄蕃、為信に従う 天正十年(1582)晩夏
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心の在処 第四話

 その頃合いは真昼ながら、とてつもなく暗い日であったという。白取は外ヶ浜(そとがはま)横内(よこうち)へ参上、館の一室にて主君の(つつみ)に報告する。



 ……この主君と家来は非常に気が合うようで、喜ぶところ怒るところがまったくもって同じだったという。白取の話を聞くなり末恐ろしい形相と化し、特に無理やり落ち着く必要もないので、丁度手元にあった筆を高々と上げ、勢いよく襖へ向かってぶん投げた。……墨が付いているので、斜め一線に色が付く。続けて茶道具なども壊そうかとも思ったが……そこは忍耐を強いられたかつての経験があるので、昔に比べて落ち着くのも早くなっていた。逆にいらぬ思考法を身に着けてしまったようで……不敵の笑みを浮かべる。その顔は白取の初めて見るところの面構(つらがま)えであった。



「ならば、別にお前の娘でなくてもよいだろう。偽物を送ってやれ。」




 白取は……最初こそ驚いたが、これこそ生意気な信勝に一泡吹かせることができると思い、同じように悪そうな笑顔を浮かべた。


「せっかくなら為信の家臣と言わず、為信の側室としては。そうだな……最近流れてきたという出羽の娘はどうだ。没落した大商人の出であれば、素養はしっかりとしているであろうし、供回りを家中に潜り込ませれば大浦の情報が筒抜けだ。」



 二人して笑ってしまった。堤が笑いだすと、続けて白取、そして脇に侍っている従者らも。出羽……最上郷の訛りは何とか理由をつけよう。さっそく大浦家へ送り込め。これで彼の言うように他国者も鎮まり、彼自身もしつこく(まと)わりつくこともなくなろう。


 それ、油川よりその娘を呼べ。さあ銭にて売られる寸前だぞ。そこを救ってやるのだから感謝もされよう。




 笑いが止まらない。……信勝はもちろんこういった経緯を知らぬし、沼田が彼より先に知ることになるのも少し遅れてから。こうして白取の娘とされるものは、為信の側室として送られていく……。


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