心の在処 第二話
そんな折、自分の下に付いた奉行職である久慈信勝なる者が提案してくるのだ。昼夜問わず、事あるごとに話しかけてくる。
「多数を占める他国者を介入するには、その先にある大浦家を侮ることはできませぬ。何事も協力していくのが肝要……。何も私の兄が為信だから申しているのではございませぬ。私自身はれっきとした南部家臣、長兄は久慈氏の御当主でありますから。」
言いたいことはわかる。だが大浦と仲良くして隙を見せると、再び浪岡が奪われてしまうやもしれぬ。それだけは避けねばならぬ。
「そして大浦家がしているように、在地の者と他国者を同等に扱わねばなりません。無碍にすることなければ、他国者とて主に逆らう謂れはありませぬ。」
……現実としてどこまで出来るだろうか……在地の者が逃散し、そのあとで他国者が入った。そこに因を発し、残る(あるいは戻った)在地の者は他国者を信用しきれぬ。元住民の持ち物を奪い取った輩という見方しかできない。白取自身も同じ考えだった。さらには主君である堤氏は、もし軍役が課せられたならば、他国者から多くとればよいと考えておられる。特に止める気はないし、奉行職の面々で異論なければその通りにするつもりだ。
ここで浪岡の体制を説明するが、まず傀儡としての御所号である山崎政顕を戴き、その次に代官の白取伊右衛門がいる。その下に奉行職の三人おり、一人は久慈信勝、もう一人は為信の同盟者だった浅瀬石の千徳政氏だ。千徳は実際のところ為信に従属している身の上だが、名目上は為信との同盟者いうことだったので、南部に為信が再従属して以降は同じ南部家臣として浪岡の体制に取り込まれた。ある意味で為信を介せずに直接浪岡に出仕させることにより、大浦と千徳を分断させるのが狙いである。千徳家中では為信に取り込まれていた経緯を考えれば不服なところだったので、特に息子の政康は受け入れるように進言。こうして千徳は奉行職についたのだ。最後に糠部名久井の東重康がおり、為信に必死に抵抗を続けた田舎館の千徳政武と血縁である。ちなみに千徳氏の本家は浅瀬石で、田舎館はその分家だ。
このように奉行は三人いるが、”異論” とは申せ堤氏、さらに上の南部氏の意が通る。建前のために浪岡へ集めているに過ぎない。




