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津軽藩起始 油川編 (1581-1585)  作者: かんから
序章 堪る不満 天正九年(1581)春
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プロローグ



 これは定められた運命だ。殿は南部に従ったとはいえ、また反旗を翻さざるを得まい。これだけの他国者を抱え、であれば彼らに見合うだけの田畑を与えなければならぬ。だが田畑を新たに切り開くのには限界があり……奪うのが手っ取り早い。その主戦場になったのは大光寺(だいこうじ)であり、浪岡(なみおか)水木(みずき)の地であった。


 しかし殿は南部に従ってしまった。最初こそは威勢よく “津軽” の名字まで名乗り、津軽の王者にならんことを欲した。我らから見ても一目瞭然。だが今の頽落はなんだ。かつての六羽川(ろくわがわ)合戦で勝ったではないか。勢いを持った軍勢を北に引き返し、背後を襲った南部軍と戦えばいいのだ。いくら傷を負った身とはいえ、まだ戦える。戦うと思えば戦えたのだ。それを久慈から来たという殿の弟は独断で降伏した。……許されると思っているのか。


 せっかく浪岡や水木に得た土地を奪い返されるかと……。そこは面松斎(めんしょうさい)が踏ん張ってくれたが、手元に残ったものは得たものの半分だ。


 なにを “防風” だ “治水” だ。甘いのだよ。戦がなくとも田畑は広げられると殿は申されるが、果たして何十年何百年の先のことか。このままでは他国者はかつてのあぶれ者に戻り、“等しい” 世の中へなるには程遠い。誰が夢見た。それこそ殿だろ。“万民が土地を持てば……在来の民と他国者の差はなくなる” とかつて申されたはずだ。土地を得るには……戦争しか他ならぬ。


 現状に甘ったれた在地の民こそ恨むべき存在であるし、我らをのけ者にする悪人だ。凶作の時は食べ物を独り占めして、寒きときは藁を貸さず、慰めの声さえかけぬ。そのような酷い所業を幾度となく経験してきた。……だからこそ “差をなくす” と公言していた殿の元に馳せ参じたのだ。





 生玉(なまたま)角兵衛(かくべえ)摂津(せっつ)からきた浪人である。天正年間の石山合戦にて本願寺へ味方し、織田の軍勢と戦ったらしい。だが織田の猛攻を前にして本願寺方は次第に劣勢となり、角兵衛自身も失意のうちに奥州油川(あぶらかわ)までたどり着いた。だが油川で受けた屈辱。同じ一向宗の土地だからこそ逃げてきたのに、なんだこの情けのなさは。金を持っていなければ同等と扱わず、街から浮浪者として追い出されてしまった。


 見くびるな……。私を誰だと思っている。(いや)しくも “休西坊(きゅうさいぼう)” という名を賜っている高僧でもあるぞ。今でこそこのような粗雑な身なりではあるが、仏のために戦ったこの私を、同じ宗派であるお主らはのけ者にするのか。銭に目がくらんだ奴らめ……。


 そこで処を変え、鯵ヶ沢の港へ入ったのだ。すると為信というお殿様は他国者のために頑張っておられた。在地の者も含めて皆々生活に苦が無きようにと。そのために津軽の王者となる。


 申されることは正しい。もちろん正しいに違いない。防風と治水の政策を少しずつ行っていけば、いずれは万民を救えることでしょう。だがそれでは刻が足りないのだ。中央では激しい戦にて全てを失った者が余多(あまた)おり、最低限でも私はかつての仲間を援けなければならない。この最北の地を安住の処に変えなければならぬ。これは私に課せられた、定められた運命だ。


 だから何が何でも土地を得て、仲間を迎え入れなければ、そのために殿に協力する……その気でいた。多くの他国者も憤慨している。津軽領内の在地民も、もっと戦えたといきり立っている。……ほら見ろ、勝手に降伏の合意をした為清とかいう弟はトンズラしたらしい。居づらくなるだろうさ。兄である殿は、さすがに武門同士の約束であるので、(たが)えることはしないと。それに度重なる戦は民を困窮させるからと……。



 いやいや、ならば我らはどうなる。他国者はどうなる、どうせよと。ならば……どうにかして、再び決起を促さなければならない。


 すでに運命は、変わらぬのだから。



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