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夜の街


 遊び人といえば、飲む、打つ、買うだ。酒を飲む、カジノで打つ、女を買う。さて、飲んで、打ったら、最後の締めは、女を買う。


 カジノを出ると夜だった。美しい2つの月明かりも、この眠らない都市には無縁のものだ。色とりどりの灯りに照らされた、美しい夜の蝶が、男どもを誘っている。


 夜は始まったばかりだ。あぶく銭、漢字で書いたなら泡銭となる、ギャンブルで稼いだお金は、泡のように消えるらしい。なら、人魚族の泡姫にでも会いに行こう。

 いや、サキュバスの娼館に行きたい。でも、普通の女の子のほうが、トキメクかも、迷う。

 よしっ決めた。初めては、普通の女の子にしよう!世間ではハーレム王とか勘違いされているが、俺はノーマルなんだ。普通の恋愛に憧れている。そして、夜の街は女運が無い男にも優しい。金ならある!期待が高鳴るってもんよ。


 ふはぁ、緊張してくる。キョドってしまう。遊び人としての戦いが、幕を開けようとしていた。心の師匠、俺、決めました。


 ルンルンと夜の退廃都市を歩くイオ。そして、いつになく真剣な表情をしていた。決意を固める。


「今日は、男になるぞぉぉお。勇者は頑張ったが、噂とは違い、全然駄目だった。だから遊び人になった。このためだけに、勇者にっ、そして、遊び人になったんだっ。」


 ハーレム王と噂された最強勇者イオ。しかしその実態は、メンバーに恵まれず、いまだ童貞であった。

 勇者時代は、制約により、夜の街にも行けなかった。こっそり抜け出す事は出来たが、稼いだ金は、2番目にメンバーになった聖女ステラにより教会へ全額喜捨させられていたため、無一文だったのだ。


 恐るべき童貞モンスターの遊び人イオ。彼は人類最強になるまで鍛え過ぎた男の中の男だ。そして、2年に及ぶ禁欲生活。それが、解禁日を迎えた。


 つまり、そういう事を考えてしまうだけで、濃厚な2年分の精気が溢れ出す。ギンギンに覚醒すると、それは、もはや歩く兵器だ。


「ひぅ。しゅごいよぉぉ。」


「大丈夫ですか、お姉さん?」


「妊娠しちゃう。びくん、びくん。」


 色街で、外に立って客引きをしているお姉さんが、濃厚な精気に当てられ、次々と倒れていく。心配して手を貸すと、びくん、びくんと痙攣し、幸せそうに昇天する始末だ。


 まだ何もしてないよ?してないのだが、日々の禁欲生活と常軌を逸した修行は、彼に祝福という呪いを与える。


 性獣スキル「天上精気」が開花した。


 それは、女人(にょにん)、千人切りをなして遊び人を極めた精豪が到達する、「視姦」のさらに2つ上。遊び人を極めても到達できない前人未到の域に知らずに到達する男。ちなみに、経験人数は0だ。



 すれ違う女性は、次々と勝手に満足して絶頂を迎える。このままでは、駄目だ。女性と、いい事をするためには、打開策が必要という結論に至る。怪しげな薬屋を発見した。救いの光は、ここにしかない。


「いらっしゃい、色男。うぇぇ、こんなの初めて見る、凄い濃厚な精気だ。お客様に売れる精力剤なんて、ねぇよ。言いたくないが、この店に無いなら、世界のどこにも無い。悪いが、諦めてくれ。」


「いや、レベルダウン。弱体化薬、ダウナーが欲しい。」


「待ってくれ、そんなの女の子に使って、お客様が相手したら、女の子が死んじまう。うちは、そういう商売やってねぇんだ。た、頼む。見逃してくれ。金なら、あるだけ払う、この通りだ、お願いだ。」


「おい、勘違いすんなよ、自分に使いたいんだ。」


「え?自分に使う。自分にダウナーを!その発想は無かった。凄い、今夜は凄い客に当たってしまった。いいぜ!脱力薬、ハードダウナー、不能薬。まだまだあるぜ、安心しろ、ウチの品揃えは世界一だ。」


「全部だ。全部、貰おう。普通の女の子と、ニャンニャンするためなら、やむなし。大人になるためなら、バケツ1杯でも飲む覚悟がある。」


 片っ端から、出された弱体化薬を、どん引きする店主の前で、ぐびぐびと飲む。が、効かない。どれも効かない。全部飲んだが、少し体がダルくなったような、なってないような、やはり気のせいかも知れない。どんどん青ざめて、気分が悪い表情になっていくのは、ダウナーを飲んだイオでは無く、それを見守る店主だった。


「飲みすぎた。お腹がタプタプしてきた。お手洗いにいってくる。」


 トイレで、じょじょじょ、と立ちションをする。僅かに残っていたダウナーが抜けていく。ギンギンになった。どうも、鍛え過ぎた体は、全く効果が無いらしい。


 それもそのはず、この店に置いているのは、悪意に満ちているが、全て薬。効能がいかに高くても、そういうベクトルでは駄目だ。人類最強の男の防御を撃ち抜くには、毒薬で無くてはならない。例えば、1滴で、30時間の昏睡。かの有名なブラックジャックのような。

 そういえば、この男は、極悪な酩酊魔素、ブラックジャックの原液が効かなかった。もう駄目なのだ。


「お客様、当店で扱ってるのは、水です。全て泥水です。高貴なお客様にお売りするような物は、何一つございませんでした。もちろん、お代は頂きません。ふへ、ふへへ。」


 そう言って、最初にイオに渡したダウナーの小瓶を、半分ほど飲み、ドサリと倒れる店主。この店の薬は、一級品ばかり、本来は効果バツグンなのだ。


「あー、なんか悪かったな。となると、普通の女の子は、駄目だ。残念だが、今回は涙を飲んで諦めるしかない。ならば、残った希望の光は、色欲の悪魔サキュバス1択だ。」


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