退廃都市ソドム
次の目的地は、魔王城の近くにある退廃都市ソドム。魔王城は、あと2人の四天王を倒さないと結界が破れないが、遊び人となった今ではどうでもいい話だ。
このソドムは、悪魔と、奴隷、人間牧場まで、ありとあらゆる善悪が混在している。人間だけでは無く、生きたまま刻まれるクイーンピッグの踊り食いが名物とか、悪魔の扱いも等しく悪い。
そんな都市に、世界最大のカジノがある。遊び人といえば、カジノだろう。待っていろ、カジノで稼ぎ、サキュバスの娼館で豪遊してやる。
人相の悪い犯罪者やら、悪魔やらが、吸い込まれるように、ソドムのおどろおどろしい門に入っていく。
欲望の都市ソドム。この都市では門番も、犯罪者にしか見えない。
「きしし。お客さん。この都市に入ったら最後、骨までしゃぶられるよ。」
「そうか、問題ない。俺は遊び人だからなっ。」
まずは、観光。都市を歩く。修行に青春を捧げた青年に都市の光は眩しすぎる。キョロキョロして歩くその姿は、田舎者特有の動きだ。カモがネギをしょって歩いている。世間知らずのカモは、さっさく魔の手に捕まる。
「ちょっと、お兄さん。お酒飲んで行かない?初回なら安くしとくよ。」
「ありがとう。この都市は初めてだ。ラッキーだな、今日はいい日だ。」
「そうね、とってもいい日ね。」
妖艶な美女に誘われ、怪しげな場所にある小さな酒場に連れ込まれる。中級悪魔だろうか、立ち上るフェロモンに、くらくらする。中には、さらに負けず劣らずの美女が3人いて、歓迎される。
「いらっしゃぁい。素敵なお兄さん。」
ヤバイ。モテ期がきたかもしれない。遊び人になって良かった。今なら金もある。だから、近うよれ。俺は元勇者だったが、悪魔への偏見は無い。美女は敵でも殺した事が無い。自害された事はあるが。
「ねぇ、退廃都市ソドムは、初めて?これがメニュー表ね。はい、ドリンク。」
正直、ボッタクリでも気持ち良く払えるほど、お姉さん達は可愛いが、店の料金は、少し割高なぐらいで、サービスと比較して安い。ただ、場所が悪いのか理由は分からないけど、客はいない。ごくごくと飲む。
「くっはーっ、美味え。」
「いい飲みっぷり、次は、アタシ特製のドリンクを、どうぞ。」
酒を飲んだのは、久しぶりだ。2年前、村祭りで飲んで、ずっと1日中、笑ってたのを思い出す。
というのも、勇者はタダ飯は出るが、酒は自腹なのだ。勇者時代は、とにかく金が無かった。依頼は勇者特価で格安だし、残ったそれなりの大金も、協会へ全ブッパだった。
それなのに、あの豊満な胸と清純な笑顔の聖女ステラは、オッパイすら触らせてくれなかった。異教徒だけに高すぎる貞操観念の性女。ドリンクに混ざっているモノが悪いのか、嫌な事を思い出してきた。
「うおっ、ガツンとくる。魔界の酒か、美味いね。」
世間知らずの田舎者のイオは知らない。この酒の名前は、ブラックジャック。名前の由来は、カードでは無く武器の方だ。アルコールよりキツイ酩酊魔素が混ぜられており、飲んだら最後、いきなり殴られたように昏倒する。昏倒したら、有り金とって、路上に投げて、バイバイだ。初心者の洗礼、今座っている場所は、そういう裏商売のお店。
この田舎者は、終わった。取り囲む美女の笑みが濃くなる。
「ふーっ、ガツンときていい。あぁ、君らも飲みなよ。俺、遊び人だから、ガンガン奢っちゃうよ。」
「ええー、気持ちだけ貰うよ。それよりも、お兄さん。どうぞ、どうぞ。」
「なんて、謙虚なんだ。あのクレイジーレズ女騎士レオナだったら、手も握らせてくれないのに遠慮しないからな。おおっと、他の女の話は、御法度だった。忘れてくれ。」
「いいよ、気にしないでぇ。興味ある。どんどん話して。ほらー、次だよ。イッキ、イッキ。」
「ぐびくび、ぷはーっ。どんどん飲むぜぃ。そうか聞いてくれるか、実は俺。昔、勇者やってて。オリアナ、ゴブレット、リンバーク姫に求婚されたんだ。短縮すると、オーク姫な。この人が、すげー太っててヤバイのよ。それもあって、遊び人に転職したわけ。」
「そっかーそれはヤバイね。お兄さん、いい飲みっぷり。どんどん行こっか。」
お酌をしている美女達の余裕な笑顔に焦りが生まれる。なぜ?昏倒しない、この男は。今まで2杯耐えた強者はいたが、もしかして飲んでないのか?いや、飲んでいる。酔って、心の泥を吐き出している。
「お客様、連れてきたよーっ。」
外回り部隊が、次のカモを連れてきた。
「いらっしゃぁい。ごめんね、遊び人さん、少しヘルプに行ってくるね。」
「あぁ、気にしないでくれ。」
1人が、離れた。上機嫌でブラックジャックを飲み続ける得体のしれないカモ。まだこの席には3人いる。このチームなら、問題ない、どんな男も潰せる。魔素が弱かったか?濃い目に作る。少し笑顔が引き攣るが、大丈夫、笑えている。
「ほらぁ、どんどん行こうよ。」
「あぁ?もっとゆっくり飲ませろい。仕方ないなぁ。」
トリックが分からない。単純に強いだけか?悪魔酒豪バンホールの魔界最高記録が6杯だ。その記録に並ぼうとしている。
ドサリッ
ブラックジャックを飲んで昏倒した客。闇に沈む意識。昏睡した。これで、現実には、30時間は帰ってこれない。いっちょ上がりっ。
「お客さん、こんな所で寝ちゃ困るよぉ。ん?外に行きたい?いいよ、連れて行ってあげる。」
財布を抜き、路上に転がす。でも生命までは、とらない。そして驚くのはアフターケアまでする。この路上での追撃は、用心棒が、許さないサービス付。働いていている女の子の良心が傷まない素敵なお店。
初心者が少しだけ痛い目を見る。この都市にしては、心優しい優良店なのだ。
「あはっ、楽勝だね、いい夢みてよ。ただいまー、姐さん。さっきの、めちゃ強いお客さんは、どうなったー?」
「おぅ、お帰り。」
「ひぃ。な、何で大丈夫なの!?」
お客さんを送って帰ってきた、さっきヘルプで離れた店員さんが何故か、勇者時代によく見たリアクションをする。おかしい、俺は遊び人にジョブチェンジしたはずだが。
「うふ、うふふ。」
隣のお姉さんは、なぜか接客レベルが下がり、酒を出すマシーンと、かしている。
ぐびぐび。いや、先程より、濃度があがって美味しいのたが。なんかな。
「あ、あー、分かった!もしかしてソフトドリンクに変えたんだ。味見させてっ。」
「ちょっと、やめ、」
帰ってきた店員さんが、アルコールを入れてくれたお姉さんの制止を無視して、ブラックジャックをひったくるように飲む。
この大胆さ、ドキドキする。酔いがまわってきたのかもしれない。こくりと、彼女の細い喉が鳴り、液体を一口飲むシーンを間近で見せつけられる。俺の使っていたグラスを飲んでいる。高鳴る鼓動、官能的な間接キス。これはもうキスに、カウントしちゃっていもいいかもしれない。
一口飲むなり、フラリと倒れる女性。もしかして、すごくお酒に弱い子だったんだ。知らなかった、ごめん。素早く反応し、そっと、抱きとめて、ソファーに優しく寝かせた。
「アレイナー!!ねぇ、しっかりして、ねぇ!目を覚ましてよぉぉ。」
「だ、大丈夫。姐さん、落ち着いて、ブラックジャックは、適量ならキッカリ30時間で目覚めるはずだから。そのはずだがら。」
「違うの、さっきのは、原液なの!ごめん、許してアレイナぁぁ。」
なんか、少し、いたたまれない。ごくごくと残りを飲み干して、席を立つ。もちろん、さっき彼女が口をつけた口紅のついた位置から飲む。サイコーだぁぁ!不謹慎だが、これは女神の1杯。酔いが回っているのか、欲望に忠実になったようだ。
助けてあげたいが、出来る事は、何もない。しいていうなら、看病しやすいようにさり気なく離れるぐらいだ。
「少し席を外す。」
トイレで、じょぼぼ、と立ちションをする。急激にアルコールと酩酊魔素が抜けていく。意識がクリアになった。どうも、鍛え過ぎた体は、酔い続ける事を許してくれないようになったらしい。
2年ぶりに知った新たな事実に震える。人間離れしてないか俺。
手を洗い、ハンカチで拭き、冷静にアイテムバッグから、アイテムを取り出す。使った事は無かったが、酔いがさめ、そういえば、こんなものも持っていたと思い出したのだ。
「今日は、もう帰るよ。目覚めたら、その子に、渡してやってくれ。」
「これは?」
「S級回復ポーション。酔いは冷めないが、楽にはなるだろう。」
「S級!?あ、ありがとうゴザイマス。」
「あと、今日の代金だ。気に入ったので、また来てもいいかな?」
「ひ、ひぃ。」
多目に渡したのだが、残念なリアクションだ。どうも俺は遊び人として、まだまだらしい。レベル1だ。気長にいこう。