アレッサの勘違い
今回は、受付嬢アレッサ視点です。
「アレッサちゃん、ただいま。」
「さすが、元勇者さま。早いですね。普通1日かかるんですが、まだ昼過ぎですよ。コ、ハ、ゴ。コリトスの葉、5枚の納品ですね。」
「え?」
「あっ、」
「ごめん、ちょっと、忘れてたみたいだ。とってくるよ。」
あぁ、私やってしまった。アレッサは反省する。良く出来たジョークに気付いたとはいえ、先にネタバラシするなんて駄目なコだ。失敗しちゃった。帰ってきたら、遊び人のイオさんには謝ろう。そして、少し優しくしてあげよう。慌てて出ていく、イオを見送る。
「そんな依頼受けたかな?いつものオッサンと違う受付嬢にテンション上がりすぎてて覚えてない。仲良くなりたいな、彼女になってくれねぇかな。そういえば、旅立ちの時、最初に受けたのが、この依頼だった。懐かしい。とりあえず採ってくるか。」
最強の男は、アレッサの想像を、人類の常識を軽く超える。しゅたたっ。馬より早い遊び人イオは、街ハズレの丘まで一息だ。むしり、むしり。よしっ5枚。高速で折り返す。普通の冒険者なら1日かかる仕事だが、イオなら30分だ。
「あぁ、ごめん。忘れてて。はい、コリトスの葉、5枚ね。」
遊び人のイオさんが、30分ほど時間を潰して帰ってきた。アレッサは、すぐ謝ろうとしたが、先に謝って、流してくれた。なんて優しいの。
「こちらこそ、ごめんなさい。」
「いいよ、いいよ。気にしないで。ところで、アレッサちゃん。倉庫に案内してくれない?」
爽やかに笑う遊び人イオ。大きなジョークを言って、初級の依頼を真面目にこなして親近感を感じる。少し好きかも。依頼は終わったし、何する気なんですか?いいよ、さっきのお詫びにキスまでなら。
「こちらです。」
誰もいない倉庫に、ちょっと気になる男の人を案内する。この部屋は、今、2人だけだ。悪い子の私は、そっと手を後ろに回してドアの鍵をかけた。これで、密室の完成だ。きゃー、襲われちゃう、なぜかドアが締まってたから、抵抗出来ないの。ドキドキしてきた。イオさん結構、格好いいし。なんで勇者を辞めさせられたかは知らないけど、私、気にしないよ。優しくしてね。
「あぁ、ありがとう。少し見てもらいたいものがあるんだ。いいかな?」
こくりと頷く。もしかして、プレゼントかな?アイテムバッグから、ゴブリンの魔石。錆びたナイフ。ロングソード。次々とドロップアイテムが出てくる。え?多いよ。勇者時代の財産かな?
もしかして、この量は、結婚を申し込まれるの?不自由ない暮らしをさせてくれるアピールなのかな。私達、会ってまだ1日だよ?そんなっ、考えさせて、アリだよ。もちろんアリだけど、心の準備が。
新鮮なオークの高級肉が、出てきた。あれ?もしかして?ドキドキが痛い。甘い痛みから、恐怖の痛みに変わる。高級肉がバンバンと目の前に積まれる。やめて、お願い。違うよね。まだ出てきてないし。
コカトリスの羽、毒袋。石化の魔眼。怪鳥の天鱗。あっ駄目だ、出てきちゃった。
コカトリスの討伐、ハイオークの討伐、ゴブリンの巣の殲滅。ジョークじゃなかった。え、こんな短時間で!?還らずの森だよ。瞬間移動?ダメダメ、計算が合わないし、想像すら出来ないよ。怖い、恐怖に震える。こんな事が出来るのは、ハーレム王、最強の勇者と名高いイオ、ただ一人。名前似せてるのとか思ってたら、御本人来ちゃった。
「ひぅっ。」
本当に怖い時は、声なんか出ない。お父様、先立つ不幸をお赦しください。気を失い、視界が闇に落ちる。残念ながらここで、アレッサ視点は終わりだ。
「え!?大丈夫か、アレッサ。参ったな、気絶させてしまうなんて。もしかして生肉が駄目だったのか?」
女性の機微が、まだまだ分からない新米遊び人。頑張れ、レベル1遊び人イオ。
「ははは、これは、これは元勇者様、いえ銭ゲバの遊び人イオさん。くそ重い莫大な報奨金です。ちっ。」
「いや、正当な報酬だからな?オッサン。さっさと渡せ。」
「たしかに、正当です。ぐぬぬ。臨時収入が、逃げていく。これがあれば別荘が、建てられるのに。」
恥ずかしがり屋の彼女候補のアレッサ嬢が、なぜか奥の部屋から出てこないので、またギルドマスターのおっさんが、相手だ。泣ける。遊び人の道は、まだまだ遠い。オッサンが、出し渋る正当な報酬を力づくで奪う。