トゥルーエンド(最終回)
勇者に用意された確定シナリオは、勇者には逃れる事の出来ない悪意で出来たエンディングだった。
世界の意思に、思考が支配されると、全ての自由が無くなる。文字通り、神のあやつり人形に成り下がり、反抗は、いっさい出来ない。常識のある人間に、この決められた枠を出る事など出来ない。どんな天才も強者も等しく、愚か者が作った出口のない迷路からは、抜け出せないのだ。
だが、俺は、遊び人になった。
嘲笑え、クソみたいな世界のシナリオを。
方法は、シンプル。
より愚かな方法を選択する。
出口の無い迷路のゴールへ至る道筋は何だ?考えてくれ。壁に左手をつけたまま歩く、それは普通の迷路の攻略法だ。棒が倒れた方に歩く、神は答えてはくれないし棒きれに頼るなど、もう人生に迷ってる。壁を登る、壁を壊す。ほう、頭がいいな。だが、方向性が駄目だ。壁を越えた先に、未来なんて用意されていない。
少し意地悪をしたな。考えてくれ、と言われて、考えてしまった人はバカラの罫線の魔力に取り憑かれたって事だ。
思い出せ、脳は、鼻水を作る器官だ。諦めたか、それでいい。本能は、答えを知っている。今いる場所に、ゴールって書いてしまえば、そこがゴールだ。
ゆえに、俺は、遊び人になった。
大丈夫、間に合った。
才能は、ギリギリ開花した。
世界の意思に、思考が支配されて、全ての自由が無くなり、手紙を出すギリギリのタイミングだったその時、遊び人スキル「お茶目な失敗」が発動!これにより、確定シナリオは、俺をアッサリ諦めて次のターゲットに牙を剥いたらしい。
どうしようもない、失敗するだけの不遇スキル「お茶目な失敗」により、差出人の名前を「女騎士セレナ」と、書き間違えちゃったらしい。たった、それだけの事だ。
それで、御手紙を受け取った姫は、たいそう感激されて、女騎士セレナをすぐさま呼び出し、姫の部屋に監禁したそうだ。死ぬ気で、その牢獄から脱獄した女騎士が、怒り心頭で、事の顛末を、わざわざ教えに来てくれた。女騎士の話を聞いてから、俺は正気に戻り、魔王の証が手元から無くなっている事に今更ながら気づき、背筋が震えたよ。
首元を掴まれながら、「勇者、よくも手紙に私の名前を書いてくれたな、今からでも遅くない。真実を姫に話せ!」とかなんとか、言われたけど。「遊び人だから人違いだよ?」と答えたら、口をパクパクさせてきた。え?何言ってるか分かんないんですけど。鯉の真似?
それより、鍛えすぎた俺には、締められても物理ダメージは無いんだけど、これが、女騎士とのファーストタッチなのが泣ける。やっべ、まだ少し未練があったみたいだ。「初恋の君との未練は断ち切るから、どうか姫と幸せになって欲しい。君は、クレイジーレズだから、お似合いだと思う。」
女騎士と旧交を温めていたのだが、すぐに屈強な軍隊が迎えにきて、城にお帰りになられた。ミストが気を利かせて、呼んでくれたらしい。マジで良い子だ。
兵士達に重犯罪者のように厳重に拘束された女騎士様は、別れ際、「勇者、追手を呼ぶなぞ卑怯だぞ。」と真っ赤な顔で、照れ隠しを言ってきたので、お約束の祝福の言葉を贈った。1年半の気持ちを込めて、「ざまぁ。末永くお幸せに。」って言ってやったぜ。
痺れるような感覚、スカッとした。うぁぁぁ!魔王討伐した時より、爽快感と達成感があったのは、なぜだ。俺は、影の英雄となり、魔王討伐の輝かしい栄光は辞退させて貰おう。女騎士レオナの活躍によって、俺の平和も救われた。
☆
ミストとの束の間の恋人生活を楽しんでいた俺だが、その日々は、今日で、終わりを迎える。
なんていうか、恋人から、一歩先に進む。
今、俺は、教会にいて、愛しい人は、目の前で純白のドレスを着て楽しそうに笑ってる。絶世の美女は、美しい脚をみせつけるかのように、くるっと、1回転ターンして聞いてきた。
「遊び人様、僕の花嫁姿どうですか?」
「あぁ、すごく綺麗だ。」
「嬉しいよぉ。僕は、遊び人様を、お慕いしてます。」
脚の綺麗な魔法使い。サキュバスの楽園に降臨した奇跡の処女。恥ずかしそうに笑う純白のドレスを纏った天使。
その日、俺は3回目の恋に落ちた。
END




