バカラ
俺は過去から学ぶ。どうやら、今夜は、人と争ってはいけないようだ。威圧スキルが、他人を傷つけてしまう。その点、最後に残ったゲームはいい。しかもこの店は、バランス制限なしの壊れ台なので、全員、勝者になれる優しいゲーム。
バカラは、世界で1番アツイ賭け事だ。馬鹿でも出来る。言い換えれば、馬鹿にしか出来ない。漢字で書くなら、「馬鹿等」でいいかもしれない。
熱量は、最大。とにかくアツイ。
簡単に言うと、テーブルに、2枚ずつカードが、計4枚置いてあって、合計9に近い方を、当てるだけの、半々の運ゲーだ。
すまない、知性は必要だ。足し算を覚える必要がある。4+5が分かるか?ほぅ、9だと。素晴らしい君はバカラをプレイする資格がある。
これに、プレイヤー、バンカー、タイという胴元が、少しだけ儲かる仕組みを加えたら完成だ。
この賭け事の素晴らしい点は、罫線に始まり、オカルトにまみれている所だ。なんの意味も無い事に意味を見つけるのは、人間の仕事だ。仕事を与えられたら働くのだよ。
そして、アツイ理由がある。1番多く金を賭けた人間だけが、ただ1人、皆の注目を一身に集めながら、勝敗を決める1枚を、絞りという独特な方法でめくり、少しずつ確認出来るのだ。この行為こそが、圧倒的な優越感を得る。明確な主役になれる。ヒーローになるという表現が最も近いだろう。絞りには状況に応じた作法があるので、覚えておかないと恥をかくので、注意してもらいたい。
この行為には、なんの意味も無い。しかし、あえて馬鹿になり、意味のある行為だと信じれた者だけが、この異様なアツさを味わえる。興奮する。
バカラを楽しむためには、冷静になってはいけない。オカルトを信じよう。この2つのお約束さえ守れば、優越感と、熱狂、無限の思考の提供をしてくれる素晴らしい賭け事なのだ。
「なんという事だ、俺はギャンブルに向いていないのかもしれない。」
しかし、遊び人イオは、嘆く。実は、ずっとスルーしていた事がある。お気付きの人もいるだろう。イカサマを見逃さない魔眼は、全てが見える。
見えちゃうのだ。カードの数字が。複雑なゲームはいい、考えないようにすればいいから。でも2枚の足し算が、2組。
無理だよぉぉ、これっスルーするのは、無理っ。解答が見えていたら、さすがに楽しめない。
カードを絞らずに、ぺらぺらと確定した結果をめくる空気の読め無い男。
死んだ顔で、超高額チップを積み上げ続ける男。遊び人イオ。
「もういい。早くオーナー出て来い。決着をつけよう。」




