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転職


 四天王のうち、火のイグニス、土のアースファルトを倒した勇者イオは、傍目からは順調に見えた旅の途中で、ついに、心が折れた。


 心が、泣いていた。それは、最後の希望、魔法使いミストに、失望したからだ。裏切られたわけでは無い。他の2人と同様に、勝手に幻想を押し付けて、勝手に失望しただけだ。


 勇者は、3人の美女と旅をした。


 凛々しく美しい、女騎士レオナ。

 豊満な胸と清純な笑顔の、聖女ステラ。

 脚の綺麗な天才、魔法使いミスト。


 彼は、最強のハーレム王と噂されていたが、事実は少し異なる。


 駄目だ。。もぅ、勇者の剣は握れない。

 かつて最強の勇者と呼ばれた憐れな男は、仲間達を食堂に集めて、全てを諦めた顔で、最終通告をした。


「皆、お疲れ様。落ち着いて聞いてくれ、重要な話がある。今日まで、自分を騙しながらやってきたが限界だ。勇者の剣は、次の可能性へ継承する。そういうわけで突然だが、パーティーは、解散だ。俺、遊び人になるから。」


「いっ、いきなり、何を言い出すんだ!オーク姫が、泣いておられるぞ。」

「そうです、世界の命運は、貴方にかかっているというのに。おお、神よ。」

「そんなっ、見捨てないで、僕の勇者様。」


「そう、オーク姫な。まずは、女騎士レオナに、言っておきたい。城に凱旋したら、姫と結婚しろ?ふざけんなよ、影でオークとか呼ばれてる化物を、何で貰わなきゃ駄目なんだよ。この国は、腐ってやがる。そんなの雇われ勇者の仕事には、入ってねぇっ。」


「不敬だぞ。姫は、心は綺麗な方だ!」


「なら、お前が貰えよ、レズなんだろ。レズ騎士様。」


「私とは、身分差がある。姫の高貴な顔を見ると、吐き気。いや、こう。込み上げてくるものがあるのでな。」


「お前の方が、よっぽど不敬だ!」


「なぜ、そのようなキツイ言い方をする。最初は、レオナさんとか呼んで、とても優しかったでは無いか?」


「真正のレズに、人権は、ねーんだよ。ワンチャンあるかもと思って1年半の間、期待し続けていた。最初は、だいぶ貢いだけど、結局、手を握るのも許してくれなかったよな。今は、貢ぐ金すら無いんだが、君には、失望した。次っ、聖女ステラ。」


「は?私ですか。聖職者をそのような目で見るなど、不埒です。私は、神に操を捧げているのです。」


「たがよぉ、神父さんには、股開きまくりじゃねぇか、この性食者が。俺にもよ、ちょっとくらいさ、1回くらいあっても。」


「は?不浄です。入信して、全財産捧げて、髪を神に捧げて神父になってから言ってください。」


「喜捨は、十分させられてるだろ?具体的に言うなら、この1年間の報酬金全額な。おかげで、貯金なんかねーよ。それに、髪を剃ったとしても、あんたの宗教は、血筋が悪いと、神父にゃ、なれないんだろ。」


「そんなの当たり前です。血筋が、この世の全てです。」


「はぁ。最後っ、魔法使いミスト。」


「ぼ、僕は、お二人と違って、勇者様の為なら何でもします。魔法も極めてみせます。だから、お側に置いてください。お慕いしています、僕の勇者様ぁ。」


「あぁ、ほんと良い子だよね。顔も声も可愛いし、ミニスカートから見える細い脚も大好きだった。でさ、心が聞きたく無いよって訴えてるんだけど、これは重要事項だから、再確認させてくれ。何で、もじもじしてんの?」


「はぅぅ、勇者様が褒めてくれた。嬉しいよぅ。え?そんなの恥ずかしいよ。い、言わなきゃ駄目?」


「あぁ、頼む。」


「勇者様の意地悪。でも勇者様からのお願いは、ボク断われ無いし。は、恥ずかしいから、小声で言うね。…僕、勃っちゃった。」


「はい、アウトぉぉ。何で男の娘なんだよ?ずっと、僕っ娘だと思ってたわ。いつも本を読んでたから、文学少女かなー?って半年間、期待してた純情を返せ。もう限界だ。そんな訳で、勇者は、廃業です。君らともこれで終わりっ。」


「そんなっ、途中で抜けるなんて、私がオーク姫の相手をさせられたら、どうしてくれるんだ。この人でなしめ。」

「神さま、神父さま。この不浄なる男に、神罰が下りますように。」

「見捨てないで、勇者様の処女は、僕のものなのに。」


「あばよっ。」


 水の入ったグラスを、テーブルに叩きつけ、勇者は脱退した。勇者イオは、遊び人になるんだ。


 そこからの勇者イオの動き出しは早い。女運は無いが、能力は人類の上限を超えている。


 その勢いで、町に飛び出す。キョロキョロと獲物を探す。いた!近場の路地裏で、つまらなそうに売春している女の子に、勇者バッヂを見せつけながら、声をかける。


「ねぇ、君。遊び人?そんな生活、疲れない?」


「は、説教?そうだけど、文句あんの!ええ、その日暮らしの遊び人よ。タダ飯くえる勇者さまには、分かんないわよ。」


「いいね、その視線、実はその反応を待っていた。おっと、怒らないで聞いて欲しい、これは、テストだったんだ。後継者を、長い間探していてね。そして、君だけが合格した。おめでう。君の隠れた才能を保証するよ。つまり、今から君が、勇者だ。新しい勇者の誕生を、ここに宣言する。」


「え、え、あたしなんかで、いいの!」


 そう、誰でもいい。3分前に初めて会った子に、適当な事を言い、ニッコリと笑って、「勇者バッヂ」「勇者の剣」「勇者カード」と、女の子の持っていた、「遊び人カード」を交換する。


 熱い言葉を注いで、3分待てば、インスタント勇者の出来上がりだ。


 突然、訪れた幸運に、女の子は、感動で震えている。今日から衣食住には困らないからだ。その日その日をギリギリで生活していた彼女の人生は変わった。爽やかに手を振り、別れるイオ。



 よしっ!遊び人になったぞ。


 もう、終わった事だから、ぶっちゃけて言おう。魔王を倒す?そんなの、やりたいヤツがやれよ。勇者になった理由は、モテたかったからだ。

 しかし、毎日、神経が、肉体が、千切れそうな程の努力をしたが、この結果だ。そして、知り合いの、情けない遊び人には、彼女ができた。

 俺は過去から学ぶ男。つまり、こういう事だ。脳内会議を経て、一つの結論に到達した。


 たぶん、遊び人はモテる!



 そして、俺は、遊び人になった。

 未来は明るい。ハッピーエンドは、約束しよう。飲む、打つ、買う。ギャンブラーの血が騒ぐ。



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