第6話 暗躍する者たち
闇に溶け込むほどに黒い装束に身を包んだ者たちが、月明かりを頼りに夜の森を捜索する。
そんな中、蓬髪の男はただ一人、皆殺しにしたはずの護衛団の死体を一人一人見てまわっていた。
「やはり、あの少年の死体だけが見つからないデスねぇ」
諦めたようにため息をついた後、こちらに駆け寄ってきた配下の黒装束を見やる。
「すみません、カルナン隊長。捜索範囲を拡げてみましたが、やはり唱巫女の姿を確認することができませんでした」
「ということは、これはもう完全に逃げられてしまいマシタね。これ以上は時間の無駄なので、捜索を打ち切ってマイア城方面に網を張っている部隊と合流するよう各員に伝えてくだサイ」
「了解しました」
蓬髪の男――カルナンは、配下の黒装束が去っていくのを見送った後、小さく肩をすくめる。
「あのお嬢さんの情報どおり、この護衛団は本命に比べたら烏合の衆もいいところデシタが、鬼札が一枚、紛れ込んでいたようデスねぇ。クヒ、クヒヒ」
カルナンは〝裏〟の世界では知らぬ者はいない、マイアで一、二を争う実力を誇る殺し屋だった。
そして、秘密結社〈大地屠る牙〉の実行部隊隊長としても、その悪名を轟かせていた。
〈大地屠る牙〉とは、その名が示すとおり、唱巫女を拐かして捧唱の旅を妨害し、大地を枯れさせることで大地の神オルビスを滅しようとしている、神殺しを目的に結成された集団だった。
神殺しを成し遂げたい、ただ世界を破滅させたい、異教の神を許せない……〈大地屠る牙〉に与する人間の動機は様々だが、中には『面白そうだから』という極めてくだらない動機で与する者もいる。
このカルナン・バルカンもまた、そのうちの一人だった。
「あまり一方的すぎると楽しめマセンからねぇ。あの少年には期待させていただくとしマショウか。甘美で淫靡な殺しの一時を」
陶酔するように、月を見上げる。
ただ殺しがしたくて殺し屋になり、ただ殺しがしたくて〈大地屠る牙〉の実行部隊隊長を務める……狂気が衣を着て歩いているような、そんな男だった。
「さて、網にかからなかった場合は、明日にでも上の人間とお嬢さんに、唱巫女を取り逃がしてしまったことを報告するとしマスかね。それにしても……クヒ、クヒヒ。ナトゥラの民がこの私に依頼をしてくるとは、いやはや世も末デスねぇ」
夜空に浮かぶ月を嘲笑うように、カルナンは楽しげに独りごちた。