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第49話-1 賭け

「あの二人……本当に我々と同じ人間なのか?」


 グリッツの一撃ですり鉢状に陥没した地面の底で戦う二人を呆然と見下ろしながら、第六騎兵小隊長のヤクーは呆然と呟く。

 ルードとグリッツ――二人の人外による戦いに呆然としているのはヤクーだけではなく、もう一人の騎兵小隊長も、他の騎兵たちも、ただただ呆然としていた。


(呆然としたいんはウチの方やっちゅうねん)


 内心そんなことを独りごちながら、パノンは腰を落とし、陥没した地面の縁を撫でる。


 パノンは気づいていた。

 グリッツが〝ジオスローター〟なる技で大地を吹き飛ばした際、彼が、こちらを巻き込まないよう配慮していたことを。


 そうでなければ説明がつかないのだ。

 吹き飛び、舞い上がった地面の土砂の多くがはるか後方に降り落ち、不自然なほどに自分たちに降りかからなかったことの説明が。

 吹き飛び陥没した地面の縁が、不自然なほどピッタリと自分たちの目の前にできていることの説明が。


 グリッツと初めて会った夜、彼は自分のことを無益な殺生は好まないタチだと言っていたが、どうやらその言葉は全くの嘘偽りではなかったらしい。


(ま、だからって、はた迷惑なのに変わりはないけどな)


 ため息を漏らしながら、二人の戦いに視線を戻す。

 二人の動きがあまりにも速すぎて目で追い切れないことが多々あるが、全く見えないというわけでもないので戦況をそれなりに把握することができた。

 できたからこそ、歯噛みせずにはいられない。


(ちょっとずつやけど、ルードが押され始めとる……)


 ルードを差し置いて唱巫女(アトリ)の本命の護衛に選ばれただけあって、グリッツの強さはパノンの想像をはるかに超えていた。


(まさか……ルードが負ける?)


 ありえへん――そう自分に言い聞かせるも、


「あぁっ!!」


 グリッツの蹴りを、ブレードを持たない腕で防御したルードが玩具のように吹っ飛んでいくのを見て、青ざめる。

 仕合なんて無視して今すぐ助けに入りたいところだが、自分にはこの戦いに割り込めるだけの実力がない。

 見ているだけしかできないことが悔しくて、情けなくて、血が滲むほどに唇を噛み締めてしまう。


「大丈夫」


 傍にいたアトリが、そんな言葉とともにパノンの手を握ってくる。


「ルードは『大丈夫だ』って言った。だから大丈夫。絶対に負けない」


 そう断言するアトリの手は、震えていた。

 けれど、パノンの手を握る力は強く、ルードのことが心配で堪らないのと同時に、ルードのことを心の底から信じているアトリの想いが伝わってくるようだった。

 

(ったく、見ているだけしかできへんとか……何をウチはそんな()()なことでヘコんどんねん)


 アトリの魔唱の力なら、グリッツを打倒することも不可能ではないだろう。

 だが、そんなことをしてしまったら、グリッツと戦っているルードはおろか、近くにいるパノンも、騎兵たちも、アトリの魔唱に巻き込まれてしまう。

 回復系の魔唱を使おうにも、アトリの唱力が強すぎるため、ルードだけではなくグリッツの傷をも癒やしてしまうことになる。


 だから、アトリもパノンと同様に――いや、パノン以上にできることはなかった。

 なぜなら、アトリは『見ているだけ』すらできないのだから……。


「……せやな。ルードがアンタに向かって『大丈夫だ』って言うたもんな」


 アトリの手を握り返し、力強く断言する。


「せやったら、絶対に負けるわけないわ。ルードはそういう奴やからな」

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