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第4話-2 コミュニケーション【アトリ】

 あぅ……お腹が鳴ったぁ……恥ずかしい……。

 でも、たぶん、〝この人〟にはお腹の音は聞こえてないはず。

 私の手を握ってくれた時、〝この人〟の手は、優しくて、温かくて、ちょっとゴツゴツしてて、()()()()()()()()()()()

 そして、事ここに及んでなお全く喋らず、安心できたおかげでなんとか言えたお礼にも全然反応を示さないなんて、たとえ〝この人〟が〝裏〟の人であったとしてもありえない。


 だからきっと……ううん、絶対に間違いない。

 私をあの地獄から連れ出してくれたのは、私が差し出した手を握ってくれたのは、ルードくんだ。


 こんな状況なのに、お話ししてみたいと思っていたルードくんに助けてもらえたことが、ちょっとだけ嬉しいと思っちゃうのはダメ……だよね。

 レイソン様やサイト様たちが、無事かどうかもわからない状況なのに不謹慎だよね……。

 それよりも、本当にどうしよう……。

 私とルードくんの二人だけじゃ意思疎通自体ができな――


「きゃあ!?」


 いきなり頭に布!? 大きな布だよね!?

 そ、それを頭にかぶせ――たと思ったら、引っぺがされた!?

 ななななにをしてるのルードくん!?

 なにをされているのかわからず右往左往していると、ルードくんが両肩を押さえてきて……え? 座れってこと?


 ルードくんが、なにをしようとしてるのか確かめるためにも、私はされるがままに地面に腰を下ろす。

 するとルードくんは、私の両手を掴んで、掌が地面につかないように気をつけながら、地面をまさぐるような感じで私の両手を動かし始めた。

 これってもしかして……ルードくんは、私に身振り手振り(ジェスチャー)させることで、なにかを伝えようとしてるのかな?


 だったら、さっきの大きな布……というかマントだったよね?

 とにかく、私にマントをかぶせたのは、『寒い』って言いたかったのかな?

 もしくは『暖まりたい』?

 というよりも『寒さを凌ぐ』?

 う~ん、ちょっと自信ないなぁ。

 次に、地面をまさぐるのは……お風呂で聖痕が現れていたことがわかった時のことを思い出しちゃうせいか、『探す』以外に考えられないし、たぶん、こっちは間違いないと思う。

 この二つを合わせると……『寒さを凌ぐ場所を探す』とか『寒さを凌ぐ場所に移動する』……になるのかな?


 一応の結論が出たところで、ルードくんにそのことを伝えたいのだけれど……あっ、そっか。

 私の方は、普通にジェスチャーすればルードくんに伝わるんだ。

 私がルードくんにやられたことと全く同じジェスチャーをしても意味がないから、私は違うジェスチャーで、両手で自分の体を抱きながら擦ることで『寒さを凌ぐ』を表現し――……またマントかぶせられたぁ……。

 しかもまたすぐにマントを引っぺがされて、地面をまさぐらされたぁ……。

 これって、『寒さを凌ぐ』は間違いだったってことだよね……。

 それにしても、なんか、二回とも私を丸ごと隠すような感じでマントをかぶせて…………あ、わかった!

『隠す』だ!

 ということは……ルードくんが伝えたかったことは『隠れる場所を探す』であってるよね?

 うん、状況的にもこれであってるはず!


 両手で頭を隠しながら屈むことで『隠す』を、すぐに立ち上がって歩く素振りをしてみせることで『探す』もしくは『移動する』を表現してみる。

 ……正解、なのかな?

 今度はマントをかぶせられなかったし。


 少しして、「んん?」と呻くような声が疑問符付きで聞こえてくる。

 なにかを考えているような、そんな声だった。

 今のがルードくんの声……「んん?」だけじゃわかりにくいけど、十五歳にしてはちょっとかわいい声だったかも。


 そんなことを考えていると、ルードくんが私の手を掴み、開かせようとしてきたので、私の方から手を開いてみる。

 すると、ルードくんは私の手のひらに指を押し当て、ゆっくりと『○』を描いた。

 文字は全くわからないけど『○』と『×』ならわかる。

 たぶんルードくんは、私に『○』と『×』が通じるかどうかの確信が持てなかったから、「んん?」って考えていたんだと思う。

 だから私は、コクコクと首を縦に振ることで『○』が通じていることをアピールしてみる。

 すると、ルードくんは安心したようにため息をついた。


 ただ『隠れる場所を探す』ことを伝えるのに、これほどの手間と時間がかかったのだから安堵のため息の一つや二つ、つきたくもなるよね……。

 でも、なんというか、普通に話すことに比べたら不自由で、不便だけど……不思議なことに嫌だとか、面倒だとか、そういう気持ちには全然ならなかった。

 こんな状況だというのに、むしろ、どこか心が温まるような、そんな気持ちになっていた。

 だって今の〝会話〟は、お互いに相手のことを思いやらないとできない〝会話〟だったから。


 ルードくんがぎこちなく私の手を掴み、優しく引っ張ってくる。

 目の見えない私を気遣って、『隠れる場所』へエスコートしてくれるみたい。

 ルードくんに攫われるように馬車を出たため、私は今、杖を持ってない。

 だから、一人だと満足に歩くこともできない。

 たぶん、ルードくんはそこまで考えてくれてるのだろうと勝手に思いながら、しっかりと手を握り返すことで厚意に甘えることを伝えた。

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