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第43話-3 翌朝【ルード】

 パノンが朝食用に持ってきてくれたパンとサラダを食べ終わるや否や、アトリが俺から逃げるように寝室に戻ろうとしていたので、やむなくパノンに任せることにする。


 やはり、昨夜の『一緒に寝て』は俺の勘違いだったのか?

 もしそれで、アトリを辱めてしまったとしたら……生まれて初めて土下座による謝罪を経験することになるかもしれないな。


 そうこうしている内にパノンが戻ってきたので『一緒に寝て』の件はとりあえず棚上げにし、現況を確かめるためにテーブルを指で叩いてパノンにトン・ツーを送る。


『村の様子はどうだ?』


『昨日ウチが村に戻った時にはもう関所の兵団が来てくれとったから、もうだいぶ落ち着いとるで。ゴブリンの死骸も兵団が処理してくれたし、しばらくの間十人ほど駐留してくれるみたいやしな。だから、村に限ったらなんも問題はあらへんで』


『村に限ったらということは、俺とアトリ絡みの問題はあるということか』


 パノンは一つ頷き、


『あれだけの数のゴブリンを返り討ちにしたことと、怪我人がろくにおらんことを兵団にツッコまれてな。ウチと村の男連中が協力してゴブリンを倒して、怪我人おらんのは医者のおじいちゃんが寝ぼけまくってたのをいいことに全部おじいちゃんに治してもらったって嘘ついたけど、案の定あんま信じてもらえんくてな。唱巫女とその護衛が村に訪れて退治したんじゃないのかって訊ねてきよったわ』


『まさか、俺とアトリが村にいたことがバレたのか?』


『アンタらがいた痕跡は残してへんからバレてはないけど、ちょっと疑われてもうたわ。ゴブリン退治した後に村を離れたウチは特にな。馬車をパクッて逃げたゴブリンを追撃してたって説明したら、一応は納得してもらえたけど』


『今朝村を出る時、兵たちには怪しまれなかったのか?』


『怪しまれたから、最初はアザーンに行くことにして、誰も追っかけてきてないのを確認してから大回りで廃村(こっち)に向かったから問題なしやで。そもそもリュカオン以外にも二つの村がゴブリンに襲われてるから、今のところはまだアンタらの捜索に人員を割く余裕はないっぽいしな』


 現状、兵団が国境の警備を厳重にしているのは、俺とアトリを国外に出さないための備えであって、俺とアトリが国境にいると確信しているわけではないということか?

 だとしたら、パノンが深く追求されなかったことも頷ける。


『まだしばらくは大丈夫そうだな。もちろん油断は禁物だが』


『せやな。ウチが下手打ったら芋づる式でこの場所もバレるやろし、気ぃつけるわ』


 現況の確認は、こんなところか。

 あとは……ある意味、現況確認よりも大事なことをパノンに相談してみるか。


『パノン、折り入って相談したいことがあるんだが』


『なんや?』


『朝食を食べている間ずっと、アトリが妙によそよそしかったことについてだ』


 直後、パノンが俺に向かって、呆れているような憐れんでいるようなウンザリしているような視線を投げかけてくる。


『そら一つのベッドで一緒に寝たら、よそよそしくもなるわ。一緒に寝たら』


 なぜ、二度も『一緒に寝たら』を伝えてくる?

 ……まあ、そんなことはどうでもいいな。

 それにしても、やはり、俺と一緒に寝たことが原因でアトリはよそよそしくなってしまったみたいだな……。


 朝食を食べる前、椅子に誘導しようと手を握ったら、ビクッと震えながら拒絶され、朝食を食べている間も、いつもは幸せそうな顔をしながら食べていたのに、今日はなぜか気恥ずかしげな顔をしながら食べていて……かわいかった……じゃなくて、気になって仕方なかった。


 アトリの様子を見た限り、嫌われたということはなさそうだから、なおさらわからない。

 どうしてアトリが、よそよそしくなってしまったのかを。

 そもそも、同じベッドに一緒に寝てしまったことが、良いことだったのか悪いことだったのかを。


 ――ッ!?


 突然、パノンがテーブルに身を乗り出し、俺の頬を摘まんでくる。

 かわそうと思えばかわせたが、後々ややこしくなりそうな予感がしたので、されるがままでいることにした。


「■■■、■■■■■■■■■~」


 どこか嬉しそうに、なぜか寂しそうに言葉を発した後、俺の頬から手を離し、俺に伝わる〝言葉〟を送ってくる。


『だいたいの経緯はアトリから聞いた。せやから断言するけど、ルードは全く気にする必要あらへんで。ただ待ってるだけでええわ』


『何を待つというのだ?』


『それはウチの口からは言えんなー』


 この場合、口ではなく指になるわけだが、そこを指摘すると『野暮なこと言うな』と返されるのが目に見えていたので、そのまま話を進めることにする。


『待つだけでいいのか?』


『待つだけでええよ。下手にアンタが動くと、今の状態が長引きだけやろしな』


 それは……困るな。

 嫌われているわけではないとはいっても、アトリによそよそしくされるのは、正直つらいものがあるからな。

 だから俺は、ただ『わかった』とパノンに返した。

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