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音を知らない少年は、光を知らない少女に恋をする  作者: 亜逸
第2章

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第43話-2 翌朝

「なぁにやっとんじゃワレェ……っ」


 聞こえないとわかっていながらも、パノンはルードに向かってドスの利いた声をぶつけずにはいられなかった。

 雰囲気は伝わったのか、ルードにしては珍しく、気後れしているのが見て取れた。その様子を見たパノンの脳裏に、行き着くところまで行き着いたルードとアトリの姿が浮かんでは消えていく。


「そらないわ。さすがにないわ」


 と、自分に言い聞かせながらも、震えそうになる手を必死に抑えながら、トン・ツーを使ってルードに訊ねる。


『まさか、ほんまにいかがわしいことやったんちゃうやろな?』


 何か言い訳でもしてくるのかと思ったら、ルードはこちらから目を逸らし、視線を落とすだけで、申し開き一つしてこなかった。


「ほ……ほ……ほんまにヤってもうたんか!?」


 思わず大声をあげてしまう。

 さすがにうるさかったのか、目を覚ましたアトリが、モゾモゾと上体を起こす。

 直後、パノンはルードをベッドから突き飛ばし、アトリの両肩を掴む。


「アトリ! いい加減認めたらとは言うたけど、いくらなんでもこれは認めすぎやろ!」

「認……め……?」


 ゴシゴシと目元を擦り、小首を傾げる。

 まだ完全に目を覚ましていないのか、アトリの表情はどこかポヤンとしていた。


「どこまでや!? どこまでヤってもうたんや!?」


 涙目になりながら、アトリの肩を揺すって訊ねる。

 カクンカクンとしながら、アトリはまだ寝ぼけた声音でこう答えた。


「ルードと……寝ちゃった……えへへ……」


 その言葉に、パノンはいよいよ泣きそうになる。

 昨日の一件で、ルードとアトリの間に付け入る隙がないことがわかり、ようやくというべきか今さらというべきか失恋したことを認めたパノンは、二人の仲を応援することに決めた。つもりでいたが、


(さすがに、ここまですっ飛ばされた応援できへんわっ!!)


「なあっ!? 寝たってどういう意味っ!? なあっ!?」


 懇願するように訊ねると、


「えへへ~……添い寝~……」


 アトリは幸せそうな顔をしながら答え、コテンとベッドに倒れて健やかな寝息を立て始める。

 長い沈黙を挟んだ後、パノンはベッドに手を突き、項垂れた。


「……なんか、別の意味で泣きたくなってきた……」


 突き飛ばされて床に倒れていたルードは、そんなパノンの様子を見て『一難去ったか』とでも言いたげな顔をしながら、一人ため息をついた。



 ◇ ◇ ◇



 パノンはアトリの傷の具合を確かめることを理由に、ルードを寝室から追い出すと、


「で、ようやっと認めたってことでええんか?」


 アトリの顔が瞬時に沸騰する。

 そして、短い沈黙を挟んでからコクリと頷いた。


「これで、ウチとアンタは恋のライバルやな」


 思ってもいないことを口にして、軽く挑発してみる。

 アトリはますます顔を赤くするだけで、なかなか返事を返してこなかったので、ルードに使わせる予定だったもう一つのベッドに腰を下ろし、他人の告白でも見物するようなノリで返答を待つことにする。

 開き直ってるからか、そうでもしないとやってられないのかは、パノン自身も定かではないが、


(こうなったら、とことん楽しませてもらうで~)


 などと思いながら、あくどい笑みを浮かべるパノンだった。


 少しして、アトリがおずおずと口を開く。


「……パノン」

「なんや?」

「恋のライバルでも……今までどおり、私と仲良くしてくれる……よね?」


 実は目が見えるのではないかと疑いたくなるほどに見事な上目遣いで、モジモジしながらそんなことを言われ、パノンは危うく、本気で、キュンときそうになる。


「も、もちろんやで」


 若干引きつった声で答えた直後、花開くように笑うアトリの顔を見て、パノンは反射的に顔を背けてしまう。


(あっぶな~……。失恋した途端に、()()()に傾きかけるとかマジないわ。おまけにマジで傾いたとしても、結局失恋まっしぐらになってまうやんか。ほんまマジでないわ)


 色んな意味で動揺しまくった心を静めると、ルードに伝えたとおりアトリの怪我の具合を確かめるべく、彼女の上衣を脱がし、包帯を解いていく。

 アトリを脱がすという行為に昨夜よりも無駄に緊張してしまったことはさておき、傷の方は、もうすでに塞がり始めているのが見て取れた。


「アトリ、痛みはどうや?」

「昨日よりは、だいぶマシかも」

「痛みも引いてるときてたか。〝ホーリーヒール〟の効力はとっくに切れてるはずやのに、まだ自己治癒力促進されとるやん。ほんま、アトリの唱力半端ないな」

唱力(これ)だけは、誰にも負けないくらい自信があるから」

「ま、実際誰にも負けんかったから唱巫女に選ばれたんやろけどな」


 村から持ってきた綺麗な水で布を濡らし、体を拭いた後、外傷に効く薬草をすり潰してできた塗り薬を傷口に塗り、清潔な布で覆ってから新しい包帯を巻いていく。


「これでよしっと」

「ありがと、パノン」

「どういたしましてや」


 パノンは「う~ん」と体を伸ばし、アトリの手を掴む。


「ほな、朝飯にしよか。いい加減ルードも待ちくたびれてるやろし」

「うん」


 首肯し、ベッドから降りようとしたアトリだったが、唐突に、固まるように動きを止める。

 顔には、もうとっくの昔に引いたはずの赤色が舞い戻っていた。


「どしたん?」

「いや……その……一晩考えて……結局答えが出ないまま寝ちゃったんだけど…………ルードと、どう接すればいいのか……わからなく、なっちゃって……」

「いや、起きてすぐは、そんなん気にしてなかったやん」

「あの時は……ちょっと、寝ぼけてたから……」

「そうかそうか」


 と、答えた後、パノンはニンマリと笑う。


「それなら、なおさらさっさとルードのとこに行かなアカンな~」

「え? あ? ちょ!? ななななんでそうなるの!?」


 アワアワしながら抵抗するアトリを無視し、力任せにベッドから引きずりおろす。


(うんうん、こういうのや。ウチはこういうのが見たかったんや。それに、身を引いたウチにはこれくらいの嫌がらせをしてもいい権利がある!)


 などという、はた迷惑な権利を心の中で主張しながら、ルードのもとまでアトリを引っ張っていくパノンだった。

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