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第34話-2 旅装選び【ルード】

 それからというもの、アトリの旅装探しは難航を通り越して暗礁に乗り上げていた。


 俺が選んだ旅装は、どうにも実用性に偏りすぎているせいで見た目がよろしくないらしく、パノンはおろか店主にまで『ない』を突きつけられた。

 一方でパノンが選んだ旅装は、見た目を重視しすぎている嫌いがあり、実用性に関しては今ひとつだった。


 このままでは日が暮れる恐れがあったので、俺とパノンは互いの意見を折衷することで、ようやく納得のいく旅装を見繕うことができた。


『これ、ええ感じちゃうか?』


『ああ。異存はない。あとはアトリが気に入ってくれれば、だな』


『せやな。試着室いってくるわ』


 旅装一式を抱えてアトリのもとへ向かうパノンを見送った後、安堵の吐息をつく。

 まさか、旅装選びにこんなにも苦戦するとは思わなかった。

 そのせいでアトリには何度も何度も着替えてもらうことになったが……色んなアトリを見られたことに関しては、実に眼福だったな。


 パノンが選んだドレスじみた服を着た時は、娯楽小説で出てくる妖精そのものだと思った。

 俺が選んだのは……別にいいな。

 野暮ったいだの、女の子に着せるもんじゃないだの、散々な言われようだったからな。


 それから最初に着た、パノンと同じ服についてだが……アレはさすがに刺激が強すぎた。いまだにアトリの肌の白さが目に焼きつくほどに。

 腹部や太股は、ほっそりとした見た目の割りには存外肉付きがよくて、その……アトリの抱き心地の良さ……というと語弊がある……いや、ないが……と、とにかく!

 アトリを抱き締めていると、いつまでもこうしていたいと思える理由の一端を垣間見ることができた。


 それから、やはりというべきか、胸の迫力というか存在感というか……とにかく、その辺りについてはパノンとはまるきり別物で、胸元しか隠していないことがかえって余計に胸を強調しているように見えてしまうものだから……やはり、刺激が強すぎる。

 あんな服装のアトリと旅を続けようものなら、正直劣情に屈しない自信がない。

 それほどまでに、パノンの服を着たアトリは魅惑的だった。

 しばらくして、試着室の扉が開き、旅装を身に纏ったアトリが姿を現す。


 ――これは……思った以上だな。


 思わず、感心の吐息を漏らしてしまう。

 上は、袖の短い麻服とケープ。

 下は、丈の短い下衣(ズボン)脚衣(ショース)

 動きやすさはもちろん、女の子らしさとかわいらしさも損なっておらず、目立ちすぎず地味すぎない案配も絶妙だ。

 ケープはフードが付いているものを選んだので、状況によって顔を隠せるのも良い。

 あとはアトリが気に入ってくれるかどうかだが、散々苦戦した俺へのご褒美だと思えるほどに素敵な笑顔を浮かべているところを見るに、それも問題なさそうだ。


 なのに……なぜパノンは、もう一度店内の商品を物色し始めているんだ?

 何かアトリに頼まれたのかと思い、事の成り行きを見守っていると、パノンは、服屋には似つかわしくないほどに大きな背嚢を手に、アトリのもとに戻っていく。


 ――まさか、背嚢(アレ)をアトリに?


 その疑問に答えるように、アトリはパノンから受け取った背嚢を、確かめるように背負い始める。

 俺はすぐさま二人のもとへ向かい、パノンに訊ねた。


『その背嚢は何だ?』


『アトリに頼まれてな。どや? 体が小っこいせいか、でっかい背嚢背負ってるアトリもかわいらしいやろ?』


 それは認めるが……!


『そういう話をしているのではない。それだけ大きければ、確かに今まで持てなかった大きな荷物も持つことができるが、当然、重量も相応のものになる。だからアトリにこう伝えてくれ。「その背嚢は俺が背負う」と』


 そう伝えると、パノンはこれ見よがしにため息をつき、こう返してくる。


『アンタがこんなごついの背負ったら、戦いになった際に邪魔になるやろ。下ろす暇があればええけど、そうでなかったら文字どおりの意味で荷物を背負って戦うことになるで』


『だが  』


 反論しようとする俺に待ったをかけるように、パノンは俺の眼前に手のひらを突きつけてくる。

 思わず〝言葉〟を紡ごうとしていた足を止めると、パノンは頭を掻きながら、()()()()()()()足を動かした。


『アトリはな、アンタの役に立ちたいんや。アンタの助けになりたいんや。先に釘刺しとくけど、護衛対象がどうとか野暮なことを言うのはナシやで。そもそもアンタら  』


 不意に、パノンの足が止まり、今度は両手で乱雑に頭を掻いた後、心底()()()()()()()言葉をつぐ。


『そもそもアンタら、もう護衛がどうとかって関係でもないやろ? アンタらはもう仲間やろ? 旅の仲間やろ? やろ?』


 やけに『仲間』という言葉に拘っているように見えるが、今は素直に首肯を返すことにした。


『せやったら、助け合っていかなアカン。アトリの場合、もしかしたら、そのせいでアンタの足を引っ張ることもあるかもしれんけど、アンタならそれくらい、それこそいくらでも背負ってやれるやろ?』


『当然だ。だが、やはり、それでも、心配は尽きない。俺とアトリとでは根本的に体力が違いすぎるからな』


『それについては本人も心配しとったわ。だから村に滞在している間、できるかぎり自分のことを鍛えて欲しいってお願いされたわ』


『それなら俺も手伝おう』


『いーやアカン。アンタはアトリに対して過保護すぎる。てか、アトリが羨ましい。ウチに対しても過保護になってや』


『ならん』


「■■!?」


 ショックを受けた顔をしながら、何か短い言葉を吐き出す。

 パノンと〝会話〟していると割りとよくある流れなので、特段気にすることなく〝会話〟を続けた。


『わかった。パノンに任せる。確かにお前の指摘どおり、俺はアトリに厳しくできそうにないからな』


『聞き分けええやん。ま、この場合、過保護にするのはマイナスにしかならんしな』


 やはりというべきか、あっさりとショックから立ち直ったパノンが、足で言葉を紡ぎながら肩をすくめる。


 それから、アトリも交えて話し合った結果、いざという時に一人でも歩けるよう携帯できるタイプの杖もあった方がいいという結論に至り、勘定を済ませて服屋を出た後、俺たちは雑貨屋へ向かうことにした。

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